3. 管理人的 ”憑きましたわな”
「ごめーん!!踏んじゃったーーー!!ごめーーーん!!」
踏んでから2・3分ほどたつが、何かから連絡はない。
怒っていたのは僕だけど、もしかして、否、もしかしなくても何かの逆鱗に触れてしまったと思った。
だって、あれだけ何のアクションも起こさなかったのに、脚が床下に侵入した瞬間焦ったようにこちらに話しかけてくるんだもの!
「ごめんん!!謝るよー!!怒らないでよーー!!!」
でも、なんていうのかな。
父ちゃんの薄い本然り、母ちゃんのへそくり然り。
痒い所に手が届きそうだったら手を伸ばすというもの。
仕方のないことだと思うんだ。
脚が抜けた後も、床下の調査は続行していただろう。
「無視しないでよーー!!脚も抜けないよー!!ごめんんん!!!」
ちゃんと返事をしてくれないと悲しくなってしまう。
もう数年間も会えなかったのだ。
また喧嘩別れして会えない。などとなってほしくはない。
暗闇は相変わらず暗闇をたたえ、健の声や衣がすれる音以外耳に入ってこなかった。
流石の僕でも音のない空間で一人は気が狂いそうになる。
いつも・・・前はどんな時でも何かの存在、姿を見ることができた。
余計なことは考えないように、最悪の事態を想像しないように。
現実逃避も含め、楽しかったあの頃を思い出す。
チカチカ
喉がキュッと狭まった。
僕はバッと心虚しく、頼りなさげに光るスマホを手に取った。
”何もない・・・のか???”
「何が?」
どうやら怒ってはいないらしい。
そのことに取り合えずホッとした。
何かは一体何を心配しているのだろう?
首をかしげながら、僕はその意図を測りかねていた。
・・・・・脚の事なら助けて欲しいけど?
脚の無事を確かめるために、足首をぐるりと回してみた。
キィィィィィ――――――――
呻き声が悲鳴に変わった。
建物全体がグワンと大きく揺れた気がした。
「うわっ!!」
むわりとした空気とともに、酔いそうなほど甘ったるい香りが一瞬僕を包み込む。
キー―――ン!!と耳鳴りがする。
両手で耳をふさぎ、前傾姿勢をとった。
「うるさっ!!」
またまた、意識が遠のいていくのを感じた。
******
目を開くとそこは杉のご神木のある開けた場所だった。
ご神木に巻かれていたしめ縄はなぜかプツリと切れて地面に落下している。
カーカーカー
僕はびっくりして上空を見渡す。
日は傾き、カラスの大集団が空を、視界を覆いつくしていた。
カラスはその濡羽色を赤茶色に染め、じーっとこちらを観察する。
しばらくすると、1羽が飛び立つのを皮切りに、その集団は散り散りになり、山の向こうへ消えていく。
鳴き声が遠のき、消えた頃。
健は汗でびっしょりの服に、ブルりと震えた。
ちょっと薄気味悪い。
僕はご神木を見上げる。
ただただ、さわさわと揺れる葉をなんとなしに見つめるのだ。
「ふう~」
ため息とともに、思い詰めていたものや、ここ最近肩に乗っていたものが全て、無くなったことを実感した。
それにしても、何かととうとうちゃんと話をすることなく分かれてしまったなあ。
これが最後かもしれないのに。
また、消えていくとしたら、僕はどうすればいいんだろうか。
ああ。そういえば。
僕が勝手につけた名前があったな~
好きにしろ!なんていって呼ぶことを許してくれてたっけ。
「みっち~」
僕は性懲りもなく何かの名前を呼ぶ。
何かはまだあの音無き世界でじっと身を潜めているのだろうか。
「み・・みっち~!!」
昔から連れ出してあげたいと思っていたんだ。
その方法を見つけるために、僕はまた来ると約束して、そのまま忘れてしまった。
「みっち~!!!」
頼れる兄や姉のように感じていた。
ただそこに居てくれるだけでよかったのに。
「み”っぢい~!!!!」
チカチカ
ガチ泣きしてしまおうかと思った時だった。
「う”あ”?」
”うるさい”
「え”あ”?」
******
「なんでみっちースマホなら会話できんの?」
”さあ”
「??よくわかんないけど、今日は父さんと母さん紹介するね!!」
”ああ”
******
「あら!健ちゃん元気だった?久しぶりねえ」
「健。遅い。飯だ。食うぞ」
昼過ぎに出たのに、もう19:00だ。
張り切ってコンビニや本屋、スーパーを回りまくって、得意げに解説をしていたらこんな時間になってしまった。
「ただいまー!!」
父 鈴木 樹
母 鈴木 佳奈美
それぞれ庭師と工場のパートを職業としている。
父さんは少し堅物。
・・・というのは建前で、単に語彙力がないただのコミュ障である。
しかし、侮ることなかれ。
語彙力がないのに、なぜか職場で愛されているのだ。
そのおかげか、僕の就職先もコネという形で見つけることができたし、庭師という職のみで生活が成り立っている。
技術はあるが突出したものではないと本人談。
母はおっとりほんわか系。
でも、タイムセールや、バーゲンといったものに目がない。
そのためだけに、自分でパソコンを使いこなし、店舗とその時間、商品などをデータベース化している。
切れ者だ。
「よし。ではいただこう」
「健ちゃん!手を洗ってきてね。お父さん!あと少し待っててくださいね」
「うむ」
僕はハーイ!といって手を洗いに行った。
「僕の父さんと母さんだよーよろしくねー!」
”ああ”
一番仲の良い友達に僕の大切なものを紹介できることができてなんだかとても嬉しくなった。
今日の夕飯は僕の大好きな肉じゃがコロッケだった。
昨日がきっと肉じゃがだったんだろう、そのあまりを使ったコロッケだ。
あ、と言っても大変だから滅多に作ってもらえないけどね!
「健。仕事はどうだ?」
こういう時、僕の近況を知りたがるのはいつも父さん。
母さんは好きにすればいいというスタンスで、あまり僕の行動を気にするそぶりを見せない。
ニコニコ僕たちを見つめている。
「んー。順調だよー。巨匠も元気だし、変な事件とかも変な人とかも特に起こってないし、来てないよ!」
父さんたちには巨匠のすごさを既にたくさん話したので、もう、特に説明する必要はないのである。
「そうか。健の好きな幽霊も来ていないのか」
「そう!巨匠が言うには過去に何かあったみたいなんだけど・・・・」
「あらあ。それは残念ねえ」
「全然残念じゃないよ!僕の目の前でそんなこと起ったら・・・起こったら!!お風呂入れないよ!!」
健は箸を持った手をパタパタ動かし、「想像と実際見るのとでは違うんだよ!!」と言った。
「もー!僕の所では起きて欲しくないの!じゃあじゃあ聞くけどさ!父さんと母さんはどうなの?なんかないの?」
「??面白いことか?」
「違う!ゆ・・・幽霊とか見ないの?ってこと!!」
「あらあら。健ちゃん話しちゃっていいの?」
「うっ・・・!」
確かに。最後に実家を離れて2カ月ほど。
そんな短期間に家の中で何かあったと聞いたら、今日安心して眠れないかもしれない・・・!!
「や・・・やめとくよ・・・!か・・母さんがどうしてもって言うなら聞いてあげなくもないけど・・・???」
「フフフフ・・・」「ふっ」
両者は健の慌てっぷりに、思わず笑みが漏れた。
その笑顔を見て、健はからかわれたことに気が付いた。
「私の同業者の話ならあるぞ」
「いいよ!別に!」
口元がぴくぴくしてる。
そんなに笑わなくてもいいじゃないか!
「興味ないしー!!」
「ふっ・・・ほぼ毎日昼間なのにお寺の鐘が鳴るのが聞こえるってだけだ」
「もー!!どうせ父さんが行ったら聞こえなくなるんでしょ!」
「そうだ」
「いっつもそうじゃん!!」
「そうだな」
母さんもまだ笑ってる!!
興味ないって言ったのに!!
そんな生暖かい目で見ないで!!
「ちなみに・・・家では・・・起きてないよね??」
再び沸いた。
***
数日後
僕は職場に戻ってきた。
「巨匠~おはよう~」
「おお。健。帰って来たん・・・」
移動もあってあんまり休めた感じはしないけど、みっちーには会えたし!
父さん母さんの元気そうな姿を見て安心した。
今日はなんだか、やる気で満ち満ちている気がする!!
健はぶんぶん腕を回し、ストレッチをする。
「みっちー!僕の仕事ちゃーんと見ててね!!僕結構できる子なんだから!!」
”ああ”
「巨匠!なんだか今日はすごくいい気分なんだよね!早速掃除してくるよ!!」
気持ち駆け足で僕は掃除に向かった。
るんるんと、音符が見えてきそうな健をよそにその後ろでは。
「健。おめえ・・・何を探しに行ったじゃ・・・」
巨匠は固まっていた。
朝一で見るもんじゃない。そう思ったと後に彼は言う。
今まで見たことがないほどの禍々しい何かを全身に纏った健。
2日前まではすがすがしいほどに純粋な空気を纏っていたというのに。
「普通あんなに憑かれてたら気が狂って精神病院行きだぞい・・・」
ただ、そんな禍々しい何かが、タケちゃんのスマートフォンにたどたどしく触れている様子を見ると、本人に全く危害を加える気がないことが分かるので、下手に触れるべきではないと巨匠は悟る。
「まあ、長く生きたご褒美ってことじゃろうな・・・」
健とそれが互いが互いにいい影響を与えるのか、どうなのか。
周囲に被害が出るのかどうなのか。
老い先短い自分ならば楽しく見ていられるだろう。
・・・他の人には悪いけどねえ?
取り合えずお終いです。
いろいろ、下調べとかして、面白そうな題材あったら続きを投稿していきたいと思いますー。
アディオス!!!