1. 管理人的な日常
序章を短編として投稿します。
最初の部分をなだらかにするためにちょくちょく編集しますー。
「あのね!手を繋ぐとポカポカするのなんでかな?」
「さあ」
「あのね!あのね!・・・あのねって、なんであのねって言うの??」
「さあ」
「びえええ!!転んだ!!ケガ!!痛い!!痛い!!足無くなっちゃうああああ!!」
「どうだろうか」
「マヨ・・・ケチャ・・・マヨ・・・ケチャ・・・マヨ・・・!頼まれたのは・・・マヨ!!」
「・・・どうだろう」
「父さん、なんか最近変なの・・・変な酸っぱいにおいがするう・・・」
「・・・触れてやるな」
「ねーえ!暇!そうだ!!落ち葉でベットつくろ!!つくろー!!ねえ!!聞いてる!?」
「勉強はどうした」
「勉強きらーい!ピーマンきらーい!セミの抜け殻集めてたの捨てた!母さんきらーい!」
「最初から捨て置け」
「う”う”!でも!○○ちゃんにあげる予定だったの!!かっこいい!って言ってくれるはずだったの!」
「おい。集めてやったぞ」
「・・・僕もうそんなの欲しくない」
「明日ぱーてぃするんだって!!楽しみ!」
「良かったな」
「####も来る?」
「いかん」
「大きな桃のお~木の下で~あーなーたーとーわーたーしーー仲良く遊んであげるから~ちょっとそこでぴょんぴょん跳んでみ~?」
「・・・うるさい」
「あのね?あのね?」
「なんだ」
「あのねえ~?」
「さっさと言え」
「ふふふ・・・!!これあげる!!カマキ・・・いて!いててて!!カマキ・・!!いてて!!あー!!僕の髪の毛引っ付いた!!取って!!ねえ取って!!いてて!早く取ってえ!」
「また来るからね!!絶対来るからね!約束ね!!」
「・・・約束は簡単にするな」
「??僕がまた来るまで待っててね!!絶対だよ!やーくーそーくー!ねえ!やーくーそーくー!」
「うるさい」
「ねえ!####!!ねえ!!」
「・・・なんだ」
「ふふふ!!####も一緒に行こう!!絶対たのし・・・
****
「はあい。ここの名簿に記入お願いしまーす」
鈴木 健 御年17。場先兼住み込み先はとあるマンションだ。
毎日汗水流し、腱鞘炎に抗いながら働いている。
ちなみになぜこの年齢で働きに出ているのかというと、率直に言ってしまえばコネである。
中学卒業から、顔見知りのお金持ちの人が永久雇用してあげるとかなんとか。やんややんや。
背中を押されるがままに働いている。
母さん、父さんは僕を養うために毎日夜遅くまで、工場のパートと、豪邸(名前は知らん)の庭師として働いている。
大学に通わせたかったようだが、僕が高校に行くことを拒否したのだ。
僕も庭師になりたい!と言ったんだけど、なぜか、やんわりと拒否されてしまったからに。
反抗期だったんだ。
拒否した原因はそんな喧嘩の折り合いの付け方を間違えたから。
・・・なぜだ!?普通息子とかが引き継ぐんじゃないの!?漫画の読みすぎ!?
と、未だに喧嘩の火種は燻っているのだけれど。
あの時高校に行くことを決めていたら今頃、高校生としてエンジョイしている時期かなあ。とかたまに考る。でも、今の仕事も結構気に入っているし。
あの日の決断を後悔したことは無い。
そしてこれからも勉強という道へ進むことは無いだろう。
学力がない?
かれこれ2年近くマンションの管理人として雇われているが、特に問題はなかった。
頼りがいのある71歳の、巨匠が一緒に働いてくれているし、ほとんど頭を使う業務はない。
というか、中学校は卒業しているから大体の基本知識は有している。
そう聞くと管理人って楽な仕事?と思われるかもしれないが、これがまた結構忙しいと来た。
そりゃそうだ。
30世帯ほどが生活するマンションで出入りが少ないはずがない。
訪問者に対する受付、毎日の業務内容の提出、共用部分の鍵の受け渡し(管理)などなど、存外仕事内容が多いのである。
「お兄ちゃん!これねえ!みゆのねえ~!おめむなの!!かきかきしたの~!」
「あら!健ちゃん!会えてよかったわ~!」
僕が、清掃業務を行っていると、マンションの共用部で遊んでいたらしい顔見知りの親子が声をかけてきた。
「ほら!みゆちゃん。どーぞって!」
「どーど!」
お母さんに促され、幼稚園で作成したという、鬼のお面をこちらに向けてくるゆみちゃん。
「張り切って3枚も描いちゃったのよ~」
お父さんにはあげるとして、他に誰にあげたいか聞いたら健ちゃんがいい!って言うのよ。と、優しい眼差しで我が子を見つめる、ゆみちゃん母。
「どーど!!」
キラキラした眼差しで虹色に染まったデフォルメされた鬼のお面が差し出された。
迷うことなく受け取り装着。
「悪い子はどこだ~!!ゆみちゃんか~!!」
がお~と言いながら手持ちの箒の持ち手をフェンシングのように、シュシュシュ!
ガニまたで反復横跳びを披露する。
「きゃっきゃっきゃ!」
うーん。いい笑顔だ。
まだ貫禄のついていない若造だが、こんなにも喜んでくれると反復の甲斐があるというものだ。
フフフフ!!と、ゆみちゃん母も笑ってくれたので、今日はこんくらいでいいかと踏ん切りをつける。
反復の任務を続ける脚に小休止するよう脳波から指令を出し、体が風を切るのをやめた。
ふう。と流れてもいない汗をぬぐい、芝居めいた声色で
「ここには居ねえみたいだな~かわいいこちゃんしかいないなあ~」
といった。
ゆみちゃんはおままごとが好きなので、芝居めいたことをされると喜ぶ。
だが。
ここで手を抜いたらすぐに不機嫌になるだろう。
子供はとても繊細で、MAXを知られるとそれ以下になった時にすぐに気が付くのだ。
侮ることなかれ。
僕はこれからも精進しなければならない。
真理を悟り、うんうんと頷く僕。
そのためには、まず、残っている掃除を終わらせなくては。
ゆみちゃんの頭を撫で、ゆみちゃんマザーには軽く手を振り、僕は次の階の清掃に向かった。
*****
巨匠。
彼はこのマンションの管理をかれこれ30年やっている超超超ベテランさん。
それ以前も同じ、マンションの管理人として働いており、もう、管理人としては憧れを抱かずにはいられない存在なのである。
正確に難あり。
今日の天気は快晴。
朝から近所で飼われているとみられる鶏の雄叫びで目が覚める。
気温は高いが、湿度の低く、絶好のピクニック日和と言える。
とはいえ、健は今日も今日とてお仕事。
だがしかしbut!
今日という今日は!
己の内に秘めたる任務を遂行しなければならないのである。
そう。この左手に持ちたる布団叩きと右手に持ちたるリ○ッシュが火を噴くときが来たのだ!
「巨匠~??巨匠~?いるんでしょ~?僕だよ~タケちゃんだけど~??」
管理人室がある部屋の奥。
そこは人ひとりが生活するには十分なほどの居住空間が広がっている。
一昔前の最新設備がふんだんに使われた広々とした部屋は、一般の部屋に比べたら少し狭いが、それでも十分に快適な生活を送ることができるだろう。
・・・・・本来の姿であれば。
所狭しと並んだ新聞・・・雑誌・・・通販?の冊子
更には怪しげな御札の束や、数珠。
よくわからない巻物まで散乱している。
快適な部屋は、今や見る影もない。
以前聞いたら、趣味で集めているのだそうだ。
巻物は自分で作成したらしい。
「巨匠ー・・・・そろそろ返事しないと、この辺の巻物燃えるゴミに出しちゃうよー」
そう。巨匠は整理整頓ができないのだ。
それも恐ろしいほどに。
管理人室と繋がる形である私室だが、その扉の前にまで散乱しているのは、このマンションの印象にも繋がるからよして欲しいと言っているのに!!
「あと10秒でゴミ袋に入れちゃうからねー。10~9~・・・「ま・・待て!!」
もう高齢だというのに、その衰えを感じさせないような勢いで扉が開いた。
健はもう慣れたもので、その扉をスイっと避ける。
パチッと目と目が合った。
「あっ」
巨匠は何を見たのか、少しの拒否反応を見せる。
僕はその視線の先に何があるのか知っているため、これ見よがしに、布団叩きを持ち上げ、笑顔を作った。
「布団・・・干そうね?」
「い・・・要らん」
「大丈夫だよ!」
「遠慮する」
「優しくするよ?」
「何をする気か!去れ!」
全く。
布団はさ、かれこれ半年くらい干していないんじゃないか?
僕がいない時は絶対に干していないだろうし・・・
「あと、掃除もしようね!巨匠!」
「うーむ。それは必要ないと思うがな」
「ね?」
「う・・・いらんので・・「ね?」・・・うむう・・・」
扉の前で押し問答。
なかなかガードの堅い巨匠を押しのけ、僕は淡々と作業を始めることにした。
自分の部屋だというのに、渋々の態度を見せてくれるのは、僕がわざわざ休暇を取っていることを知っているからである。
まあ、休暇を取らなかったとしても、怒らないだろうけど。
「これいるー?」
「いるぞ!」
それは昔、よくないものを封じ込めたという曰く付きの代物で・・・うんぬんかんぬん
陶器でできた古そうな壺。
蓋が紐でぐるぐる巻きになり絶対に開かせないぞ!という執念を感じさせる一品。
まあ、ぱっと見、いるかいらないかはすぐに分かる。
「いらないね~」
僕は問答無用で燃えないゴミの袋に詰めた。
「ああ・・・」
情けない声を出す巨匠。
その後も捨てる→「ああ・・・」→捨てる→「ああ・・・」
を何回も繰り返すのである。
巨匠は色々捨てられたからか、ブーブー言いながら恨めしそうに僕を見る。
さっきの壺は~
力を込めて作成した巻物が~
これだから価値が分からん奴は~
力を込めて・・・??暴走しそうだ・・・??
これはいわゆる中学二年生病(廚)なのでは?
「巨匠~いい年こいてまだそんなこと言ってるのー?心はいつまでも少年!って言ってたけど、口に出すべきじゃないと思うよー」
僕は慣れてるからいいけど。
「いい年になったからこそだ!この年になったからこそようやっと分かるようになってきたというのに!!!なんてことをしてくれたんじゃ!!」
ふーん。そういうもんか?
健は巨匠と会話をしながらも、お茶の準備を進めていた。
あまりにも進まないので一時休戦だ。
スーパーで安くなっていたから爆買いして飲みきれないほどになってしまった紅茶の茶葉を使用している。
良い茶葉じゃ・・・と言ってくれる巨匠には悪いけど、そんなにいい茶葉ではない。
コポコポ・・・・
暖かな煙とともに紅茶の香りが部屋の隅々に行き渡る。
「お。悪いの。でもわしの部屋を滅茶苦茶にしたんじゃ!こんくらいはあって当然じゃのお!礼は言わんぞ。」
天邪鬼な爺である。
「大体、本来であれば健。お前にも害があるものばかりなんじゃ。捨てた時点でお前さんの体調が悪くなっても可笑しくない代物ばかりなんじゃぞ!」
お主は運がいいのお・・・と言って少し心配そうに、でも表面上はにやにやした顔つきで僕に言う。
うーん。”俺の右腕が何をしでかすか分からない!!!”的な奴なのかな・・・??
こういうのは話を聞いてあげるのがいいって母さんが言ってた!
ちゃんと相手に興味を持っているような言い方で・・・
「そ・・・そうなの!?知らなかった・・・!!も・・・もしかして僕もうダメ!?」
「い・・・いや、今までも無かったから大丈夫だと思うぞ」
先ほどまでとは一転。
いつもこの会話をするときは話を流して聞いていたからか、なぜか巨匠まで狼狽え始めた。
「で・・でも!!今まではどんなことが起こったの!?!?」
「い・・・いや・・。もうずいぶんと古いもんだったし・・・・。もう時効というやつかもしれん」
「それでもいいから・・・!!」
「分かった分かった・・・分かったから○セッシュを顔に突きつけんでくれ・・・。急に食いつきがすごいな・・・」
*****
最後の袋をキュッと閉める。
布団も干したし、リ◯ッシュもした。
「ふい~やっと終わったよ~!!」
全くどんだけあるんだよ・・・こんなにたくさん割れ物があったら生活できないんじゃないの??
燃えるゴミ燃えないゴミ
およそ4:6
「・・・・なあにすっきりしとるんじゃ。わしのわしよるわしのための長年集めてきた努力の結晶がこの一日でぱあじゃ!」
「そーんなこと言ってさあ。住み込みなんだから綺麗な部屋じゃないと解雇されちゃうでしょー!!」
「・・・解雇なんぞ知らん」
「全く!だからすぐに盥回しにされちゃうんだよ!!」
巨匠はスキルも経験も超一流だ。
問題の解決能力もある。
しかしどうしても一つのマンションでの雇用が長続きしない。
僕が掃除をしてあげるようになってから、許容されてるんだから感謝して欲しいくらいだよね!本当!!
「ふん!!」
巨匠はもう一度鼻を鳴らすと、冷めた紅茶を飲み干し、催促するように音を鳴らしてカップを机に置く。
僕も疲れたので(いるいらない論争で通常の2倍は時間がかかっている)
紅茶を注ぐついでに自分のおやつも出してきて本格的なおやつ休憩を取ることにした。
緩んだ空気が2人の間を流れる。
「健よ」
「なんだね?巨匠?」
紅茶を飲んで落ち着いたのか、怒りを鎮めた声で名が呼ばれた。
先ほどとは打って変わって喜色が混ざっているようだ。
・・・??
なんだろ?珍しくもう機嫌がよくなったのかな?
巨匠は肘をついて、手を組み、口元を隠す。
「ひとつ話をしてやろう」
「これはわしが昔実際にあった話なんだがな・・・」
語りべ口調で何を話すのかと思ったら。
どうやら昔話をしてくれるようだ。
ーーーー
ーーー
ー
30年行かない位前の話じゃ。
わしもマンションの管理人としてはまだまだアマチュアでな。
毎日同じ仕事をこなせば金がもらえるって舐めておったのよ。
その日は雨だった。
晴れが続いていた先の、懐かしさを感じる雨だった。
よく覚えている。
わしは他の人よりも第六感というものが優れているという自覚が当時からあってのお。
皆が「涼しいね」なんて喜んでいる中、わしはどうにもきな臭くて、不安定で、嫌な予感がしていた。
・・・そんなたまじゃないって?
・・・・ハートが強くなるのにも理由があるんじゃよ。
朝から茶碗が割れた。
昨日までなかった汚れが鏡についていた。
気にしすぎだと思われるような小さなことだったが、わしはこれが虫の知らせだと思ったんじゃ。
まあ、当たるわけなんじゃが。
知っての通り、管理人ってのは平日の昼間は比較的時間に余裕がある。
学校とか仕事行っとるし、人の出入りもないから掃除する回数も少なくていい。
せいぜい荷物の受け取りくらいじゃな。
人通りは少ないんじゃよ。
管理人室にいるわしが、見逃すことはほぼあり得ん。
ちょっと落ち着かんな・・・ってそわそわしつつ、窓を見て、入り口を見て、新聞を見て。
確かに普段より集中力はなかったかもしれんが、見逃してないってはっきりと言えるぞ。
でもな、言われるんじゃ。
「あのお・・・床がずぶ濡れで危ないと思うんです」
専業主婦のお母さんじゃった。
「え?」
「買い物に行こうと思ったら、床がずぶ濡れで。
小雨だしこんなに濡れるわけないと思うんだけど・・・・いたずらかしらね?」
って言われてみろ。
そんなわけねえよ!・・・って。
わしゃあ、誰も見てねえよ。
だがな、身を乗り出して受付から顔を出したら下に濡れた何かが這ってったような跡が残っていてなあ。
わしは座ってたから見えんかったのよ。
どこに向かっているのやら。
その跡はよくわからんところでプツンと途切れてたんじゃ。
そりゃあわしは言われたら拭くだろう?
しっかり跡をぬぐってなあ、掃除して綺麗にしてやったわ。
それからじゃった。
次の日も。
その次の日も。
跡はつき続けたんじゃ。
・・・・晴れた日でもな。
跡の付き方は大体一緒でな。入り口からエレベーターまで。
入り口からずーーーーっと1本道よ。
でもある時、わしは気づいたのよ。
何だと思う?
・・・・・分からん?続きを言えって?
ういうい。
その跡はエレベーターまでじゃなかったんじゃよ。
じゃあどこかって?
エレベーターの中さあ。
・・・・・ふざけてんのか?エレベーターまでじゃないのかって?上の階まであるの確認忘れてたんだろう??
違うぞ。
言ったじゃろう?エレベーターの中までってな。
内部にはないぞ。
エレベーターの下じゃよ。しーた。
水の跡はエレベーターそのものの内部じゃなくて、外側の中を伝っていたんじゃ。
そんで跡が残ってるうちにと思って業者に頼んでエレベーターの下を確認してもらったらなあ。
・・・・・・べったりついとったわ。
底にたくさんの濡れた人の手がなあ。
・・・・まあただ、エレベーターの修理する人が誤って事故にあって亡くなって、その雇い主である親会社がもみ消したって事件が過去にあっただけよ。
評判を気にして・・・だったかの。
湖に沈めた・・・なんて噂話もあったりしてな。
なあに冗談よ!
おじじジョーク!
どうしたあ?そんなに青い顔さ、しちゃってよお?
もっと聞きたいんかえ?
いいぞお。聞かせてやるでなあ
ー
ーー
ーーーー
「ーー・・・でなあ。だんだん近づいてくるって言ってたわ。意地はってるからか、とうとうそいつは発狂して精神病院行きになったのよ。今その部屋はどうなってるか知らんが、まあ、もう取り壊されてるかねえ」
「うわあああ!!こわああああ!!うわあああ!!」
管理人室の椅子の上で思わず跳ねてしまった。
そんな僕を見て巨匠はニヤニヤ。
日に日に近づいてくる何か・・・!!よくぞそんな部屋で夜を過ごせたものだ。
いや、過ごせていないのか・・・。
なぜお祓いに行かないのか。
僕だったら速攻で神社かお寺の門を叩くだろう。
「こここ・・・このマンションでは!?無いよね!?無いよねえ!?!?」
さっきの話がマンションだったこともあり、僕はついに聞いてしまう。
そ・・・そんなことがあったら、僕・・・僕は・・!!
「うーん。いつくらいかあったんだがねえ。ほれ。かれこれここも結構古いだろう?でも、いつからかずっと起きてないんじゃ」
どのマンションでも基本的に年に1回は怪しい人や、ちょっとした事件、そっち系の噂が流れるんだがねえ。
そっち系は滅多に起きないから安心しとれ!まあ、起きないとは言わんがな。と巨匠は煽るように付け足した。
やめてくれ。気休めにもならないよ!
というか、ここのマンションで何かあったんだ!!あったんだ!!
聞けない。聞いたらもう・・・もう終わる!!
何とは言えないが、何かが終わる!!と、ガクブルした僕なのであった。
その日の夜。
『段々近づいて・・・』
ガバッ!
布団を弾き飛ばし、周囲の確認をする。
聞き耳を立てる。
「ふう~」
僕はいつかの巨匠の話を思い出し、眠れずにいた。
このマンションで心霊系の何かが起こった(恐らくである)と聞いたからである。
住み込みで働いているために引っ越すこともままならないし、逃げ道がない。
もとから零感ではある。父さんも母さんも、どちらの家系もそういった血筋ではないことは確認済みなのだ。
しかし!
しかし、怖いものは怖い。
幼い頃も、テレビの心霊系の奴を見ては、父さんのシャツに頭を突っ込み、「今どう?いる?見える!?」と確認をしていたくらいだ。
ビビりの中でも良い線を行くだろう。
それでも、怖いもの見たさで見てしまうという無限ループ。
「ふううう!!大丈夫!大丈夫!」
もう一度周囲を見渡して、布団に入る。
このままでは明日の朝1の見回りに間に合わない。
怖いことを考えるから怖いことが起こるのだと、自分に言い聞かせ、ぎゅっと目をつぶる。
無心になって、羊を数えることにした。
羊が一匹・・・羊が二匹・・・・
こういう時、実家暮らしじゃないことを寂しく感じる。
幼い頃、嫌なことがあったり、怖いことがあったら、両親の布団に潜り込み、怖い夢を見ずに眠れたなあ・・・なんて。
コンビニ、マンション、墓場、廃墟。
どこでも怖い話は生まれるものだ。
人がいるところであれば、その手の話はわんさかある。
僕はそんな噂を怖いもの見たさでよく調べたりするんだけど、現場に遭遇したことは残念ながらない。
寂しい・・・そういえば、父さんも母さんも帰ってくるのが夜遅くて幼い頃は・・・寂しくて・・・??
寂しかったかな?
友達と17時まで遊んで・・・それで・・・。
寂しかったこと・・・あったかな・・・??
誰かと・・・一緒に・・・いたような・・・・気が・・・するん・・・け・・・ど