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「マリア様は、ヒューイ様とお付き合いしていないのですか!!」
カフェの個室で、私の他、男子五人女子四人が合唱する。
その後のざわめきは、「うそぉ」「ええぇ」「みんな、誤解してますわ」「俺、怖くて近づけないよ」「そうそう、あの完璧な人を押しのけるなんて無理無理」と、私が予想した通りの返答が返ってくる。
ヒューイのバカは、頭は良いくせに、こういうところが抜けている。どれだけ私のチャンスを彼が奪っていたか、痛感する。
聞けば、今回のようなカフェのお忍びお茶会は、1年生では例年当たり前に行われる恒例行事だそうだ。知らなかった私が、どれだけ嫌煙されて過ごしていたのか、切に感じいる。
「そうなの。ただの過保護な、親戚のお兄さんと思っていただきたいわ」
紅茶のカップに口をつけ、そそと一口含む。
「本当に困っているんですよ。ヒューイ様は小さいころから知る幼馴染です。恋愛対象としてみることはとてもできません。
それでも、あの兄のような男は、私に勇気をもって声をかけてくれる男性が現われれば引くとは言うのです。それならば、最初から引いていただきたいわ」
すっと前を向くと、男性一同横に首を振り互いの視線を交わす。ヒューイがいて、畏れ多くてそれはできない、と本心から通じ合っている。
私はため息をつく。
「マリア様。それではヒューイ様は今はフリーなのですか!」
女の子サイドが色めき立つ。
「端的に申し上げますと……。でも、しかし、私が知らないだけということもあります」
「それならば、こう頻繁にマリア様をお迎えにくるのは不自然です」
確かに……。私はぐうの音も出ない。
「ということはですよ。私たち、マリアさんと親しくさせてもらって、一緒にランチをさせていただければ、もれなくヒューイ様もついてくると言うことも考えらるのですね」
「さあ、どうでしょう」
女の子たちの勢いに私と男性陣は呆気にとられる。
「不純な動機で申し訳ないわ」
「いいえ、気にされなくてよろしいです。私も、そろそろヒューイ様を遠ざけたいところでした」
「なら、これから仲良くしてくださいませ」
「私も、このような場があれば、またお呼びいただけましたら、うれしいです」
ヒューイみたいな男性より、私は彼に及び腰になるぐらいの男性で十分です、とまでは声には出さない。
女性陣が同意し、意気投合し、「ごめんあそばせ」と男性陣と向き合った時、若干彼らの勢いがそがれていた。私は、場の雰囲気が悪くなってしまい、焦ってしまった。
すると、一人の女の子が声をあげた。
「ヒューイ様は、手の届かないところにいる方ですもの。マリア様と親しくすることで、約束された男性を親しくなっておけば、未来の旦那様にとっても、良いコネクションになるのよ」
頬に手を当て、首をかしぐ。
「みなさんも、マリア様と親しくされて、ヒューイ様に名前を覚えてもらうチャンスになりますわよ」
なるほど、とその場にいた者はみな感嘆した。
その日から、私の日常は変わった。授業の小さな休憩時間も、誰かと談笑できる。放課後の約束も回ってくる。うれしいのは、ランチをヒューイと二人きりにならずにすむようになったことだ。
ヒューイは気さくだ。誰が話しかけても、丁寧に接する。私の教室の生徒は彼の取り巻きのようになった。
女子生徒が話しかけるのを邪魔しなければ、私とヒューイの会話も自然と減る。
これでいいんだと思った。これで私は彼と距離を置ける。誰か、別に好きな人を探すこともできる。
そんな時だった。見知らぬ同級生に声をかけられた。
「マリア様、こんにちは」
「こんにちは」
「今日からこの教室に合流したエドモンド・アンダーソンと申します」
「はじめまして、マリア・フォスターです」
隣りあい自己紹介をすますと、じっと見られて、思わず笑ってしまった。互いに少し間抜けな顔で笑いあっていた。
琥珀色の瞳に金髪という明るさをそのままに、とても気さくな人柄に感じられた。
「すごいですね」
エドモンドは視線を前に向ける。その先にいるのはヒューイだ。
「ヒューイ・ヒスコック様が下級生の教室に頻繁にいらっしゃるとは思いませんでした」
「はい、色々ありまして、こちらに顔を出していたのです」
「色々とは……」
私は、困った顔で隣のエドモンドの横顔を見つめる。彼もふと気づき、こちらを見ると、視線が絡み、私の方がぽっと熱くなった。
目をそらし、首筋に拳を添えて、火照りを抑えようとしていた。
「ヒューイ様が私と毎日ランチを食べようと来ていたのです。
彼にとっては妹のような私に、変な虫がつくことを嫌ったのかどうなのか。とにかく過保護な態度が、周囲に誤解を与えてしまいました。
少し出遅れてましたけど、偶然そんな誤解も解けて、やっと教室になじむことも出来ました」
「ヒューイ様とお付き合いはされていないんですね……」
エドモンドは呟いた。
「はい」
私は、間髪入れずに、肯定した。
「では、僕とお友達から始めませんか、とお願いしても、よろしいと言うことでしょうか?」
エドモンドの言葉に、私の熱は一気に沸点に達してしまった。
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