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6話 12年前の記憶。。

6話 12年前の記憶。。


「雨か…」

面接を終えた健也は窓の外を眺めていた。

「ボーカルか…18歳か…」

そう呟いた健也はしばらく窓の外を眺めていた。

そして、自分の左手の指先に視線を落とした。

それはまるで自分の過去を思い出しているかのようだった。

そしてこう呟く。

「あんな真っ直ぐな眼をして…あの時はみんなそうだった。みんなはまだあの時のような眼をしているだろうか…」

そして健也はその面接に来た少女の履歴書を金庫に閉まった。



「店長って、トラッシュライドのケンヤさんですよね!?」

事務所から出た健也は、不意に廊下の後ろから聞こえてきた声に立ち止まって振り向く。

そして里楽に話しかける。

「アキラか?」

その表情は穏やかな顔つきだった。

里楽は軽くため息をつきながら、

「やっぱり…」

と声を出す。

そして、

「アキラ君のバンドの名前って店長がつけたんですよね?」

と健也に話しかける。今度は幾分はっきりとした口調だ。

健也は、

「ふう…。まさかアキラのバンドと出会うとはな。世の中狭いモンだ。」

「私もびっくりしましたよ。」

里楽は今度は健也に何かを訴えるような思い詰まった顔をして答えた。

その顔を見た健也は全てを把握した。きっと自分に色々バンドの事を聞きたいのだろう。と。

「天谷。今は仕事中だから今日仕事が終わった後時間あるか?」

!!!

里楽は驚いたがすぐに返事をした。

「もちろんです!」

「じゃあ、とりあえず入荷の仕事に戻ってくれないか?俺は他に仕事ができたから。」

健也はそう言って仕事が終わったら会う約束をした。そして自分の持ち場に向かった。

里楽はしばらく動けないでいた。少し感動していた。

なぜなら里楽はトラッシュライド、いや健也が作る曲のファンになっていたからだ。

「どうしよ。どうしよう。」…。

里楽はこの日の仕事は上の空だった。


仕事が終わり別々で約束のファミレスに向かう。

午後18時半。

先に来ていた里楽は窓側の席に座っていた。その席に後から来た健也が座った。

「いやー疲れたな。何か軽く食うけど天谷は?」

里楽は飲み物だけでいいです。と答え健也はハンバーガーとドリンクバーを2つ頼む健也。

「まあ、バンドマンはファミレスが定番だからな。」

とニッコリ笑う健也。

そして立ち上がって里楽に何を飲みたいか聞く。アイスティーと答えたが自分で行きますと言う里楽を遮って、健也はドリンクバーからホットコーヒーとアイスティーを持ってきた。

席につくとお礼を言う里楽。そしておもむろに

「店長って、、今もバンドマンなんですか?」

と聞く里楽。

「うーん…。俺はもう辞めたからなぁ。バンドマンではないな。」

里楽は健也に意外な質問をした。

「店長、左手の指先を見せてもらってもいいですか?」

「ん?指先フェチか?」

と言いながら左手を里楽の顔の前に広げる。

指先をじっと見る里楽。

その顔を見た健也は笑顔で答える。

「まだギターは弾いてるよ。」

里楽は少し安心した。

「良かった…。何かバンドを引退されたから音楽の話をしたらいけないのかもって思っちゃった。」

すると健也は、

「まあ俺もあまりしたくはないが、何気に信じているからな。」

里楽は不思議がった。

「何を信じてるんですか?」

「天谷。物事は必然に起こるモノだ。それが偶然に思えても後から見ればそれは必然に思える。特に人との出会いは全てに意味があるし意味がなければならない。分かるか?」

里楽はその言葉で意味を理解した。

「つまり、私が店長とアキラ君と短期間に出会った。その意味…ですか?」

健也は少しニッコリして、

「そうだな。それが半分だ。」

その会話を遮るようにウエイトレスが注文のハンバーガーをテーブルに運んできた。

里楽は半分と答えた健也の言葉の意味が分からなかった。

健也は、

「まあそれはいいけどな。」

と言ってハンバーガーをゆっくり食べ始めた。

そして里楽に質問をする。

「で、バンドメンバーが集まらないから俺に色々聞きたいのか?」

それは里楽にとって核心だった。だが、核心であって本心ではない。

「上田さん、、遅番の。トラッシュライドのファンらしいですよ。」

健也はゆっくり答える。

「インディーズ好きとか言ってたからなぁ。そっか。それは素直に嬉しいな。」

健也は上田がトラッシュライドのCDを持っている事を知らなかったようだ。

今度は健也が里楽に聞く。

「アキラは元気だったか?」

それは少し寂しそうでどこか懐かしげな顔だった。

「ええ!私が見た中ではアキラ君のバンドは一番でしたよ!」

元気に答える里楽。

「そうか…。」

と言った健也はコーヒに手を伸ばす。幾分か安心したかのようだった。

「その…アキラ君はきっと店長に会いたいんじゃあ…。いや部外者の私がどうこう言う事ではないとは思うけど…。」

里楽は何気にこの時間が夢のような出来事に感じていた。いや、ふとそのような感覚に陥った。

健也は、

「うーん、まあ突然解散したからな。トラッシュライドは…。」

「店長はまだトラッシュライドのメンバーさんとは連絡を取り合っているんですか?」

「まあ、たまに連絡を取るメンバーもいるが…。なんだ天谷。お前はトラッシュライドのファンなのか?」

と少し不思議がる健也。

それもそのはずだ。最近入ってきたボーカル志望のアルバイトはなぜそこまで自分の昔組んでいたバンドの事を聞くのだろうと。

里楽は返事に困った。トラッシュライドのファンというより健也が作る曲のファンになったからだ。

「Silent Rain …。聴きました。正直感動しました…。」

里楽は少し照れながらやや小さい声で話す。

「そうか…ということはファーストアルバムかな。聞いたのは。」

「ファーストなんですね…。1枚しか聴いていないのでアレですけど…。」

しばらく無言が続く二人。

健也はコーヒーを飲みながら窓の外を眺めた。

その横顔を見て里楽は決心した。


「店長!私とバンドを組んでくれませんか!?」


窓の外は静かに雨が降り始めていた。


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