4話 Silent Rainという名の曲。。
4話 Silent Rainという名の曲。。
『自由という意味を知ってる?自由とは自由ではないんだ。
悔しい思いや切ない想いから解き放たれる時に自由を感じる。
そう。自由になるには…解き放たれなければならない。それならば自由なんて僕はいらない。』
「しかし…ほんといい曲。」
里楽はため息混じりに自分の部屋で音楽を聴いていた。
仕事が終わると、里楽は上田から借りた『トラッシュライド』のCDを部屋で聴いていた。
上田は音楽オタクである。特に地元のインディーズバンドが好きだった。まだ売れていないが地元で、近くで頑張っているバンドのCDが好きだった。
その上田が夜アルバイトとして働いている店に元トラッシュライドの『Kenya』が店長として店にいた事に一人驚いていた。
しかし、上田は何も店長に聞いてはいない。インディーズバンドをしていた人間が就職したのだ。もう夢を追いかけるのはやめたのだろう。
そう察知して誰にも言わないでいた。
『トラッシュライド』の曲を店内に流す時は店長がいない時だけだった。
が…内心誰かに言いたくて仕方がなかった上田でもあった。
里楽はヘッドホンでCDを聴きながら自然と涙が出ていた。
歌詞カードを見ながら。
タイトルは『Silent Rain』というバラードだった。
『外を見ていた 静かな雨を 心が濡れてくるように。
見つめた先は 明日が見えない 自分の心に雨が降る‥』
自分の未来に不安を覚える。そんな時に外を見ると雨が降っていた。その雨と自分の心を重ね合わせた切ない曲だった。
「ふう…。聞けば聞くほど感動する。あのやる気のない店長がね〜。」
里楽はヘッドフォンを外して一息ついた。
「Kenya…店長がギターと作曲か…。作詞はボーカルのKohei って人が担当してるけど、Silent RainだけはKenyaが作詞もしてるわね。」
ジャケットのクレジットを見ながら里楽は一人呟いた。
全部で10曲入りのTrash Ride のCDを里楽は早速スマートフォンにダウンロードした。
このCDを借りた遅番の日。上田に色々聞いていた。
全部で3枚のアルバムをインディーズから出している事。
上田は実際はライブには行った事はないが、インディーズ事務所のホームページを見た時に、ワンマンライブ動員数200人を達成した事が書いてあるのを覚えていると言っていた。
「演奏もアレンジもいいし、ボーカルも歌い回しが上手で正直メジャーの人達より断然レベルが高いわ…。」
この人達を率いていたのが店長…。近くにバンドの先輩がいた。里楽は嬉しい反面、どうやってバンドの話を持ち出そうかとも思っていた。
何しろ人の過去の話だ。あまり話したくないかもしれない。
「アキラ君に聞いてみるか…。」
里楽は夜中だったが、アキラに今少し話せるかだけをメールした。
返事はすぐにあった。
里楽は早速電話をした。
「あ、ごめん。こんな遅い時間に。」
「いやいや!全然だよ!俺もリラちゃんの事考えてたらメール来たからさ!ビックリだよ。」
アキラは明るい弾んだ声で話してきた。
「まあ私の事なんてどうでもいいんだけどさ、ちょっと聞きたいことがあって…。。」
その里楽の思い詰めた声でアキラはやや真剣になった。
「何か元気ないね?どうしたの?」
里楽は元気がなかった訳ではなかったが、夜中だから声を抑えめにしているだけだった。しかしそんなアキラの心配を里楽はスルーする。
「前に言ってた先輩っての…トラッシュなんとか…とかってバンドのさ、その…メンバーの人とまだ付き合いあるのかなぁって。」
この唐突な里楽の質問にアキラは不思議に思った。
「ん?なんで?トラッシュライド知ってるの?」
「いや、バイトの先輩がね、もうおじさんなんだけどインディーズ好きな人がいてね。その先輩が知ってたから…」
里楽は本当の事を話した。半分だけだが。
「あーそうゆう事か!いやもう付き合いはないよ。3年前に突然解散してさ。それから連絡も取ってないな。でも、ギターの人以外は連絡は取れるけどね。」
「ん?ギターの人?その人はどうしたの?」
ギターの人。つまり店長の事だ。
「あー、何か携帯番号変えたんだよね…この街からも居なくなって…。元メンバーの人も行方は知らないって。」
里楽は少し混乱した。その行方不明の先輩を里楽は知っているからだ。
「何で解散したの?」
「うーん…。それが突然だったんだよね。理由は分からない。きっとメンバーもよく分かってないかも…。俺が色々教えてもらった人ってさ、アレンジとかしてもらった人。そのギターの人なんだけど…。リーダーでギターも上手いし曲も良くて…。ちなみに歌も上手いんだよ。まさしく音楽の天才だったなぁ、そのギターの人が突然辞めるって…」
「突然…」
しばらく話をした後、里楽はお礼を言って電話を切った。
切った後、店長にバンドの事を聞くのはやめようと思った。
知り合いのアキラでさえも驚いた突然の解散。何かあったのだろう。それを部外者の私が聞ける訳がなかった。
里楽はもう忘れようと思って眠りについた。
『解散の理由?それは一緒にいた時でもとうとう聞けずにずっと謎だった…。でも今なら分かる。分かってもしょうがないんだけどね…。』
大人になった里楽は、ごく近い人にだけこの頃の話をしていた。
だが、それでも多くは語らない非常に珍しい事だった。