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3話 雨の日。。

3話 雨の日。。


『静かな雨が降る日。僕は何かに出会える気がする。そう感じるようになっていた。君がくれたあの雨の日は、今の私に静かに語りかける。出会えてよかった…と心から言えるのなら…』


ライブハウスに行った次の日、里楽はアルバイトをしていた。

「里楽ちゃん何か今日は機嫌がいいね?」

歳は一つ上のアルバイトの先輩、亜希子が声をかけてきた。

亜希子は大学生のアルバイトだ。

「ん?それは…ナイショ。」

と笑みで話す里楽。

すると亜希子はからかうように続ける。

「お、分かった。男だな。。」

「それはない。」

とキッパリ答える里楽。

亜希子はつまらなさそうな顔をした。

「里楽ってさ、フリーターよね?何で就職なり進学なりしなかったの?」

と質問する亜希子。

里楽はバンドのボーカル希望という事はバイトの仲間達には話していなかった。

店長も里楽の趣味、特技など履歴書に書かれていた事はみんなには話していなかった。


「うーん、まあ別に隠す事ではないんだけど…」

と言う里楽に亜希子は遮った。

「いや、言わなくてもいいわ。人それぞれ色々あるからね。」

と笑顔で言ってくれた。

そんな気を使う亜希子の事が里楽は大好きだった。


「おはようございまーす。」

と言って遅番の男連中がゾロゾロ事務所から店内に出てきた。

時間は18時だ。

遅番になると大学生の男子のみならず、30歳超えてのフリーターや、生活が苦しくて夜バイトをする若い家庭持ちの男性やら、色々な人種がいた。

店長は時間がバラバラで今日は遅番だった。


事務所のロッカーで帰り支度をする里楽と亜希子。

里楽は思い出したかのように亜希子に質問した。

「あ、亜希子ちゃん。この間遅番で入った時にね、上田さんがCDをかけてたんだけど、どのミュージシャンかな?」

上田は歳は40歳手前でフリーターをしている男だ。

主に19時半からのシフトだった。

「上田さん?さあ、あの人音楽オタクだから。メジャー所なんて聴いてないと思うよ。今度会ったら聞いてみれば?私早番だから滅多に話さないから。」

「そっか音楽オタクか。色々知ってそうだな。」

と今度遅番になった時に、上田さんに色々聞いてみようかと思った。


携帯を見るとメールが入っていた。

アキラからだった。

『明日、里楽ちゃんの地元に行くんだけど早速お昼でもどう?

配達の仕事だから、1時間しかないけどね。』

そのメールを見ている里楽をニタニタしながら見ている亜希子。


里楽は返事をすることなく携帯を鞄にしまい、

「お疲れ様でしたー。」

と言ってそそくさと帰っていった。


次の日。

里楽とアキラはファミレスにいた。

アキラは配達の仕事で里楽の地元によく来ていた。

「一昨日はお疲れやったねー。会ってくれてありがとう。」

アキラは笑顔で話す。

里楽はいい人だな。と思った。

「こちらこそ…」

とこの間とは違って少し恥ずかしそうにしていた。

アキラは

「とりあえず飯でも食べよか?」

と言ってメニューを取り出す。

アキラはハンバーグ定食。里楽はパスタを頼んだ。

食べながら会話が盛り上がる里楽とアキラ。

「リラちゃんって好きな音楽は?」

「私は何でも聴きますよ。ハードロックも好きだしJーPOPも好き。邦楽も洋楽も…。何ならアイドルの曲も聴きますよ。」

「へー。ボーカルはそれでもいいかもね。確かにアイドルの曲もいいのあるからね。azTimeグループとかさ。」

「そうですよね。アイドルとはいえいい曲多いですよね。あ、でもアイドルになりたい訳ではないですからね。」

「里楽ちゃんならaチームのエースになれると思うけどね。」

と、また変わらず人懐っこい笑顔で話すアキラ。


『azTime グループ』とは日本を代表するアイドルグループの総称だ。aチーム、bチーム、cチーム…とアルファベット毎にアイドルグループが存在し、最後のzチームまでアイドルグループがある。

そのほとんどの曲を音楽業界の重鎮、『春元 武司』が作詞、作曲をしていた。

「里楽ちゃんはビュジュアル系とかは?どのバンドが好き?」

「ビュジュアル系かー、クライジュエルとかは知ってるかな。」

「クライジュエルねー。まあ確かに曲はいいよね。」


『クライジュエル』とは3年程前にヒット曲を連発して一気にスターに駆け上がった日本を代表するバンドの一つだ。

「クライジュエルって北海道出身なんだってね。凄いね。あんな遠い所からメジャーデビューなんて。」

と話した後、里楽は耳に髪の毛をかけながらパスタを食べる。

「そうだねー、俺あの人達がインディーズの頃見てるんだ。」

「え?それは凄い。」

「まあ、たまたまね。5年程前か。でも大したことなかったけどなー。もっと凄いバンド見てたりしてたからなー。」

アキラはここで意外な質問をした。

「で、リラちゃんは彼氏いるの?」

「うざ。。」

間髪入れずに返事をする里楽。

アキラは、苦笑いをしながら固まった。


「で、、ウチのバンドはどうだった?」

と、アキラは話を変える。

「私の感想だから、気にしないでね。」

と言って、一昨日のアキラのライブの感想を話し出す里楽。

「演奏は凄い上手だと思う。ミスはあまり感じなかったし。ただ、曲が…。私はボーカルだからどうしてもメロディが気になるから…誰が書いてるの?」

「う…。。僕です。」

「あら、、それは失礼。」

少し落ちこむアキラ。

そして話し続ける里楽。

「あ、でも最後の曲のアレンジは良かったわ。急に演奏がなくなってボーカルだけになって、徐々に演奏が入っていく感じ。そして最後バーン!と持っていくみたいな?あれは初めて聞いた私でも印象に残ってるから。」

「やっぱり!?いやーそれ聞くと余計と落ち込むというか…いや嬉しいんだけど…」

「落ち込む?」

里楽は不思議な顔をした。

アキラが答える。

「あの最後の曲だけ、アレンジは僕じゃないんだ。先輩がアレンジしてくれて…」

「あら、それはまた失礼。」

「いや、でもいいんだ。僕の尊敬する人だから嬉しいよ。それに…」

ここで間を空けるアキラ。

「それに??」

里楽はパスタを食べ終えてアイスティーを飲んでいた。

「それに、さっきのクライジュエルね、インディーズの時に見た、、っての。その先輩のバンドと対バンしたんだ。ツーマンライブね。」


『ツーマンライブ』とは二つのバンドがそれぞれメインで出演する。一つのバンドがライブをする事を『ワンマンライブ』

という。


「へー。あのクライジュエルとツーマンしたって凄いわね。」

「そう。クライジュエルが地元に来た時にね。地元では先輩のバンドが勢いがあって、当時のクライジュエルはメジャーデビュー間近だっだけど、先輩のバンドの方が上だったな。」

「へーそれは貴重な経験ね。あのドームでさえもソールドアウトするクライジュエルだもんね。で、その先輩のバンドはどうしたの?」

「まあ解散したんだけどね。インディーズ界では有名だったけど…」

「何てバンド名?」

「Trash ride」

「トラッシュライド?知らないわ。」

「まあ、そうだよね。」


ここでアキラは思い出したかのように話した。

「あ、華がある…って話し。」

「華?あーボーカルは華がないとって話し?」

「そう。それ。それ言ったのその先輩なんだ。意味思い出してさ。華ってのは自信なんだって。自信がないと華は咲かない。これは音楽に限った話ではないが、ボーカリストは必須条件だ。って。この間のリラちゃんの自信有り気な話聞いて思い出した。」

「へー。まあ当たり前じゃない?」

と素っ気なく答える里楽。

「その当たり前がバンドとなると難しいんだよなー。」

と、遠い目で答えるアキラ。


話は弾んであっと言う間に2時間経っていた。

「いけね。行かなくちゃ。じゃあまた連絡するね。」と言ってお金を二人分置いてダッシュで外に行ってしまったアキラ。

里楽はお金は私が払うから…と言いたかったが、よっぽど焦っていたのだろう。あっという間に行ってしまった。

「なんだか、申し訳ないな。こんな私のために…でもいい人ね。アキラ君」


里楽はアイスティーをゆっくり飲んでファミレスを後にした。


その次の日の夜。その日は雨が降っていた。

里楽は遅番のシフトでアルバイトをしていた。


19時半になると上田さんが出勤した。

里楽は早速色々な音楽の事を聞こうかと思っていた。

すると上田はおもむろに自分の持ってきたCDを店内にかけ始めた。

『あ…このバンドだ。』

里楽はこの間も店内にかかっていたこのCDが気になっていた。

「上田さん。このCDの人ってどんなアーティストですか?バンドですか?」

と上田に尋ねる里楽。

そして里楽は思いもがけないバンド名を聞く。

「ん?知らないの?それはダメだな〜。」

もったいぶる上田。

「え?そんなに有名なんですか?」

「有名っていうか、、バンドだよ。トラッシュライドってインディーズのバンドね。」


!!!

「え!?トラッシュライド!?インディーズのですか!?」

里楽が大きい声を上げたので上田もビックリした。

「そんなに驚かなくても。でもインディーズなのによく知ってたね。」

「まあ、知り合いの人がそのバンドのメンバーの後輩みたいで、名前だけは聞いてて、、でもさっきの…知らなかったらそれが何でダメだな〜って発言になるんですか?そんなに有名…って訳じゃあ…」

里楽は先程の上田の発言が気になっていた。

そして、もっと驚く事を耳にする。


「え?だってトラッシュライドって店長がメンバーだったんだよ。」


!!!


「え!!!」


店の外は静かな雨が降っていた。


里楽は呟く。

「私が一番驚いた出来事はあの上田さんから聞いた時ね。あれは何かのマジックにかかったかのようだった。今思えば信じられないけど…。これもどれも運命なのかしら…」

と、里楽は一人誰もいない部屋でワインを飲みながら想い出していた。それは決まって雨の日の夜だった。

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