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2話 ライブハウス。。

2話 ライブハウス。


『ここに未来があるとすれば、僕は幸せかもしれない。

ここに過去があるとすれば、僕は幸せかもしれない。

時間は無情に過ぎていく。

そこに答えがなくとも…

時間は答えを知らないから…』


里楽は早速DVDレンタル店で働き始めていた。

同僚の先輩アルバイトの人達とはすぐに仲良くなった。

みんな大学生だ。

先輩といってもほとんど同世代だ。音楽に囲まれて、友達もできて里楽は高校卒業ライフを楽しんでいた。


お店では好きなCDをかけていい事になっていた。

里楽の知らないバンド。曲。そしてテレビとかで馴染みのあるアイドルの曲も改めて聴くと勉強になっていた。


日曜日になると里楽は都会のライブハウスに通う。

これは前から決めていた事だ。

郊外の更に郊外。いわゆる田舎で育った里楽だがやはり都会に憧れていた。

都会といっても地方都市だ。

地方都市とはいえ憧れの都会のライブハウスに通う。

そのライブハウスにはバスと電車で片道1時間半はかかるが里楽は全然苦にならなかった。むしろその道中も楽しかった。

里楽がライブハウスに通う理由はバンドメンバーを集める事。

そしていつかボーカルデビューするきっかけを作るための人脈作りだった。


そのライブハウスはインディーズもしくはまだインディーズさえも所属できないアマチュアばかり出ているライブハウスだった。

『egg sound』という名のライブハウスはその都会でも『老舗の箱』でキャパは80人が限界。そこに名もなきバンドが凌ぎを削っていた。

そしてこのライブハウスegg sound からもプロになっていったバンドも少なからずいた。


里楽は自分の容姿には自信があった。何しろ高校時代にナンパされた人数はゆうに100人は超える。

そんな男どもに対して里楽は睨みを聞かせて退散させていた。


里楽はバンドマンなら誰かしら声をかけてくれるだろうと思っていた。

何しろ一人で見に来ているんだ。ライブハウスには普通は友達と来るのに。

その容姿と一人でライブハウスの客席にいる事でかなり目立っていた。

誰かしら声をかけてきたら色々聞き出そうと、ライブが終わった後も外で一人立っていた。


そんな日曜日を過ごす事3回目。


「今日は見に来てくれてありがとう。一人?どのバンドが目当てなの?」

案の定一人のバンドマンが声をかけてきた。

歳は20代中ごろ、髪は茶髪で人懐っこい笑顔の男だ。

『あ、トリを務めたバンドのベースの人だ。』

里楽はすぐに分かった。

何しろ、この日出演のバンドの中でもダントツで上手かったからだ。

里楽は恥じらう事もなく、遠慮する事もなくそのバンドマンに話し出す。

「ライブ良かったですよ。私もバンドを組みたくてここに通ってるんだけど方法が分からなくて…」

そのバンドマンは少しキョトンとなった。

「え?バンドを?そっかー…」

意外な言葉になんて答えたらいいかわからない感じだった。

里楽は臆することなく話す。

「今日トリを務めたバンドのベーシストですよね?今日の出演、いや私ここに3回来てるんだけど今までで一番うまかったですよ。」

「へー君は一応音楽の事分かってるんだね。」

と少し胸を張るバンドマン。

そしてこう続けた。

「楽器担当なの?いや君はボーカルだな。」

「よく分かりましたね?そうボーカル希望なんだけど、バンドのメンバーをどう集めたらいいか…」

「やっぱりボーカルか。そうだと思った。君は華があるからな。」

「華…ですか??」

「そう。僕の尊敬するミュージシャンの人がさ、先輩なんだけどね。ボーカルは先ずは華がないとダメだと。黙って立ってても目立つというか、、」

「それって、茶髪や金髪な人は目立ちますよね?」

「いや、そうじゃなくて、、うーーん、俺ではうまく言えないや。」

そして、そのバンドマンはこう続けた。

「バンドをやりたかったら、まあライブハウスに来るのもいいけどやっぱり楽器屋に行ってメンバー募集のチラシを貼る事じゃないかな。後はネットか。そうゆう掲示板あるからさ。ほとんどの人はそうだよ。」

里楽ははっきりと話す。

「いやそれだと時間がかかるでしょ。下手な人となんてやりたくないし。それを確かめるだけでも面倒だし断るのも面倒だし。だから私がライブを実際見て、いいと思った人とやりたい。んだけどね。」

バンドマンは少し感動したかのように声を荒げた。

「いやー凄い!その自信!君いくつ?いやー大事だよ!バンドマンにとってはさ。君の歌声が聴きたくなったよ。」

すると、少し離れた所からそのバンドマンに声をかける集団がいた。

「おーいアキラ!そろそろ打ち上げ行くぞー。」

里楽に話しかけた男が応える。

「はいよー。今行く。」

声をかけたのはその男のバンドメンバーだった。

「俺アキラ。君は?」

「リラ」

「どこから来たの?」

「隣の県の○×市」

アキラは喜んだ。

「そっか!何かの縁かな。そこの街は平日仕事でよく行くんだ。良かったらランチでも。色々教えてあげるからさ。」

と言って携帯を取り出した。

里楽も携帯を取り出し、メール交換をした。

「良かったらリラちゃんも打ち上げ来る?居酒屋だけど。」

「私未成年だから。もう帰るね。」

と里楽は地下鉄の駅の方に歩き出した。

アキラも「気をつけてね〜」と気さくに声を出した。

そして、地下鉄のホームに降りていく里楽をしばし眺めていた。

『あの人が言ってたな。華…か。』

と呟いてメンバーの所に歩き出すアキラ。

アキラは自分の20歳の頃を思い出していた。

『俺もあんな感じだったな…』


電車に乗った里楽は「これで誰か上手い人を紹介してくれれば…」とライブハウスに通った成果が少しでも出た事に胸を踊らせた。


この時から時計は動き出していた。ゆっくりと。だが確実に。

その時計の針は何かに導いているかのようだった。

少なくとも里楽はそう感じていた。

いや…そう感じていたかったのかもしれない。

時間は実際は何も導いてはいない事を、里楽は漠然と理解していた。


そして、里楽はこの日の事をよく想い出して話していた。

「結局、、あのライブハウスに通ったのは意味がなかったのかもしれないけど私の中に今でも生きている原点なの。メンバー探しで通ってたけど、あの頃の私はやっぱりあの小さいステージでも私には凄く遠かった。すぐそこにあるのにね。方法が分からないって無知で情けなくて…それを一気にいくチャンスをあの人はくれたわ。私にとって望んだ事が一気に…」

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