1話 面接。。
ボーカリストとギタリスト。
この二人が出会ってバンドストーリーが始まる。
もし、この二人が天才と天才だったら…。
必死に夢を叶えようと頑張る少女と、
もう夢を諦めた男。
この二人が出会って幾つかの奇跡が起ころうとしていた…。
そこに待ち受ける結末とは…。
1話 面接。
『外を見ていた静かな雨を。心が濡れてくるように。
見つめた先は明日が見えない、自分の心に雨が降る‥』
18歳になる少女は郊外の幹線通り沿いにあるDVDレンタル店の前にいた。
アルバイト募集の文字を見る。
「ここなら好きな音楽に囲まれてお金貰えるから…絶対受かりたい!」
茶髪のセミロングの髪型だが、その品性な顔立ちでヤンチャには見えない。むしろその茶髪が似合わないぐらい綺麗な顔立ちな少女は、臆することなく店の中に入っていった。
店内には当たり前だが音楽が流れていた。
同じ年頃の店員が3人ほどいる。その中の女性の店員に話しかけた。
「あのー、すいません。アルバイト募集の広告を見たのですが、、」
女性店員はすぐに答えてくれた。その顔は笑顔だ。
「アルバイトですね!お待ちください!」
と、店の奥の方に行ってしまった。
「なんだか、嬉しそうだったな。」
と心の中で呟く。
女性店員は一人の男を連れてきた。
「店長が話をお聞きしますので!」
と、満面な笑顔で答えて仕事の持ち場に戻っていった。
少女はその女性店員の奥に目を配る。
同僚の店員に何か話しているようだった。
そして、チラチラこちらを見ているようだった。
「お忙しい中すいません。アルバイトの募集を見たのですが…」
と目の前に現れた店長らしきその男に話しかけた。
その男は髪はボサボサで眠たそうな顔をしている。が、服の着こなしはしっかりしていた。何しろネクタイがとても綺麗な形をしていた。
店長はボーとしながらも、「こちらにどうぞ。」と暗い声だが不快に思わない声で答える。
この『不快に思わない声』にこの時の少女は違和感を感じていた。
違和感…?
少女は違和感という思いついた単語にすぐに?マークだった。
が、ただ本能的に何かを感じ取っていた。
少女は店長が歩き出したのでその後をついて行く。
アルバイト店員は、その光景を3人集まって遠目から覗き込んでいた。
「綺麗な髪、、」
「しかし細い子だなぁ、顔も小さいし、、」
と、その新しく仲間になろうかと思われる少女を好奇心で見ていた。
店の奥に行くと扉があった。そこに店長は入って行く。
「失礼します。」
と言って少女も部屋に入っていく。
ソファが向かい合わせで並んでいた。真ん中にセンターテーブルがある。事務所のようだった。
ソファーから少し離れた隣には、会議室とかでみる長い机とパイプ椅子が並んでいた。休憩で食事をするのだろう。
中は意外と広かった。
店長はソファに座って、向かい側に座るよう促した。
少女は頭を下げて、ソファに座った。
するとおもむろに店長が話し出す。
「あ、君合格だから。」
「え?」
少女は少し驚いた顔を見せた。
「いや、アルバイトね。君合格してるから。」
と、店長は少女に話す。
「え、あ、ありがとうございます。」
少女は少し驚いたが内心嬉しかった。
「あ、履歴書、、」
と言って少女は自分の鞄から封筒を取り出す。
店長は静かに受け取った。
封筒から取り出して中身を広げる。
そして、黙って読み始めた。
天谷 里楽 18歳
学歴は高卒。就職経験なし。
「就職経験がないのは当たり前だな。今4月だから。」
と店長は独り言のように話す。
「りら…と読むのか。キラキラネームになるんかな。」
とまた独り言のように話す。
里楽と履歴書に書かれた少女は、その独り言に答えていいものか分からなかった。
里楽は先月の3月に高校を卒業した。
同級生や友達は当然ながら就職、進学していった。だが里楽はその『当然の進路』には進まなかった。
履歴書の特技の欄に里楽は『歌を歌う事』と記入していた。
そして、『バンドのボーカリスト』とも記入していた。
里楽はその特技の欄について何か聞かれるかも…と思っていた。
何しろ普通はスポーツとか習い事、例えばバレーとかピアノとか書道とか記入するだろう。だが里楽はそんなつまらない当たり前な特技は書きたくなかった。
趣味もそうだ。普通は読書とか映画鑑賞とか記入するだろう。
だが、里楽はライブ鑑賞と記入していた。
しかし、店長はその特技や趣味の事には何も触れずに、履歴書を封筒にしまい始めた。
そして店長は話し出す。
「店長の神谷です。シフトは今後決めるとしていつから来れる?」
と聞いてきた。
「え?あ、明日からでも大丈夫です。が、土曜日の夜や日曜日は知り合いや色々なバンドのライブに行きたいので、その日以外のの週5日ぐらいでお願いしたいのですが…」
と答えた。里楽はそこははっきり言っておかないと…と面接前から思っていた。
店長は、「OK。」と短く答えた。
明日から出勤する事に決めて、面接を終えた里楽は事務所から出ようとした。
が、やはり気になるので里楽は店長に聞いた。
「あのーどうしてすぐに合格と言ったのでしょうか?」
「ん?あー最初の挨拶でね、君何て言ったか覚えてるか?」
と店長は逆に質問をしてきた。
里楽は少し考え込んだが覚え出せなかった。
「何か言いましたっけ?私…」
すると店長は先程よりもはっきりとした口調でこう話した。
「どんな世界、業界でも、人を気遣う言葉を言えるのは物凄く大事な事だ。それだけでも君は成功者の入口に立っているのかもな。」
と店長は里楽の眼を見て答えた。
「???」
里楽は、ペコリと頭を下げて事務所を出ていった。
『なんか…怖いんだけど…』
と内心思ったがとりあえずこのお店で働く事を嬉しく思った。
後に、里楽は履歴書に書かれた『特技』や『趣味』をちゃんと読んだのか、読んだけどスルーしたのか、ずっと聞きたかった。
が…
結局聞かずじまいだった事を告白している。
店長の名前は『神谷 健也」。
後に、里楽にとって大きな大きな存在になっていく人物であった。
里楽は後世にこんな言葉を残している。
『大きな存在になるかどうかは自分の意思で決まる。』
と…。