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隠された神域で幻獣をモフるだけの簡単なお仕事です  作者: 紺たぬ壱
番外(エイプリル企画)異世界に召喚されましたが、僕は【ハズレ】だそうです。
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番外 7_冒険者ギルド入口_魔法士ギルドの御大


 扉を開けると、冒険者ギルド入口にある受付場所には、筋骨逞しい冒険者の男たちが沢山、みっちりとひしめいていた。


 そしてセイを見て「出てきたぞ!」「あのガキだ、間違いねぇっ」「表から出てきたぞ、裏口張ってた奴ら呼んで来い!」と殺気立つ勢いで騒ぎ出した。


 え、こわ……。後ずさったけど、背後にいたギルマスにぶつかっただけだった。怯えるセイに冒険者たちが、わっと迫って来る。


「おいっ、お前冒険者になったんだよな!?」

「ソロってマジか? 俺は“深緑の暴れ顎”っつーパーティーのリーダーやってんだ、メシ奢ってやっからちっと顔貸せや!」

「俺は“焼土の森の怪力”のサブリーダーだ。すぐにリーダーも来るからよ、ボク、ちっと俺たちとお話ししようや」

「うちは“深い河の巨大牙”だ、ダンジョン攻略じゃ名が知れてて……」

「ふざけんなっ、ダンジョン攻略ならうちの方が進んでんだよ! うちは“荒野の斑爪”ってんだが……」


「……あー……」


 どうやらセイをスカウトしに来たらしい。

 そりゃまあね……セイは遠い目になった。みんなの前で診断して全属性光らせた挙句、ダンジョン部の長が「【無属性】持ちキタァー!」と叫びながらギルド内を疾走して行ったのだ。冒険者たちにとってダンジョンが大事な物なら、セイに目を付けて当然だ。


 何はともあれ、とりあえず逃げよう。

 素早く逃げ道を探す。


 すると目に入ってきたのは、むさ苦しく荒っぽい男たちが押し合いへし合いしてる奥の方で、今にも潰されそうになっている存在が──。


(……ッ、嘘だろ、なんでこんな所に……!)


「ちょ、どいて!」


 小柄な女性冒険者……の足下に、灰色の()()()を見つけて、セイはノータイムで駆け出した。


(なんでこんなオッサンでぎゅうぎゅうのとこにワンコまで一緒に入れてるんだよ、踏まれたり蹴られたりしたらどうするんだ!!)


 女性冒険者自身はどういう状況なのかわかった上で来ているし、いざとなれば自分の意思で出て行ける。でもワンコは飼い主に連れられたら拒否できないだろうに、なんてひどい事を……!


 厳つい金属鎧や、使い込まれた革鎧の男たちをグイグイ押し退けて進んで行く。

 冒険者たちも、セイの骨の細そうな体は手が軽く当たっただけで怪我させてしまいそうで、こんな事で貴重な全属性持ちに嫌われちゃたまったもんじゃねぇと、慌てて後ろへ退いて道を作る。


 近づいて見れば、ワンコは狼みたいな子だった。全身灰色で胸と尻尾の先が白く、頭の上の毛が長めで……額から何か尖った物が。──角?


 目の位置を合わせるようにしゃがんだセイに、ワンコは硬そうな毛質の尻尾をブンブン振り始めた。目もキラキラ輝いてる。


(あれ? なんか、余裕そうだな……?)


「えーと、人いっぱいだけど、大丈夫?」

「この子の心配してくれたの? ありがとう!」


 答えたのは飼い主らしき若い女性冒険者の方だった。


「この子は尻尾が武器みたいなものだから大丈夫だよ〜。当たった方が怪我するだけだから!」

「……えーと」


 それはそれでどうなんだろう。

 落ち着いて見回すと、確かに冒険者の男たちはこの満員状態の中でも、ワンコの背後からはしっかり距離を取っていた。


「魔獣に興味あるの? ありそうだよね、動物好きそうな顔してるもん! モフモフした生き物好きでしょ?」

「そりゃ好きだけど。え、……()()?」


 【魔獣】──このワンコが?


 セイの世界の魔獣は、真っ黒の泥のような魔瘴気で全身覆われていて、瘴気が剥げた本体も目の数が異常に多かったり、全身にエグい形の角が生えてたり、虫と動物を掛け合わせたようだったり……そんな、異形と言うより他無い姿をしている。


 アレらと比べると目の前のワンコは、セイの感覚では【幻獣】に近い。

 いや、【幻獣】ともやっぱりちょっと違うな。なんだろう、この違和感。軽く眉を寄せて考える。

 

(……ああ、そうか)


 お利口そうな顔で行儀良くお座りしていて、()()()っぽ過ぎるんだ。

 幻獣はもっと自由な性格というか、独立精神が強い……それも違うかな、種族としてのプライドが高い……うーん。つい考え込みかけて、ストップ。それよりも、どうして魔獣がこんな普通に街中にいるのかを聞かなければ。


「あの……」

「この子は私の従魔のシルヴィだよ〜! うちは“嘆きの谷に遠吠え”っていうパーティーで、“乾いた森に黄金のたてがみ”っていう従魔専門のクランに入ってるんだ! 従魔に興味ある? あるよね? ありそうな顔してるもん。うちのクランに入ったら従魔いっぱいでモフモフだよ〜!」


 女性冒険者が、自分たちに興味を持ってる今がチャンスと、ぐいぐい話しかけてくる。


「ごめん、ちょっと待って。……【従魔】って?」

「従魔知らない? 魔獣をテイムして、従魔契約の魔法掛けると契約した人間の言うことを聞くようになるの。この子は一角魔狼っていう魔獣で私と契約してて、一心同体っていうのかなー、私と特別な絆で結ばれてるんだ!」

「【テイム】……」


 聞いたことある気がするけど、何だったっけ? と訊ねる前に女性冒険者は目をギラギラさせてセイに迫ってきた。


「君、ほとんどの魔法使えるんだよね? テイム魔法も使えるよね!? 使えそうな顔してる! 仲間になって私たちと一緒に魔獣パラダイス作ろう〜〜〜! ほら、シルヴィも仲間になりたいって言ってるよ。シル、ご挨拶して!」

「バウッ」


 絶妙なタイミングで一角魔狼が吠えた。


『こんちわ!』

「えっ、はい、こんにちは」


 ──あ。

 魔獣と、会話出来た。


 展開の早さにセイは戸惑っていた。

 実を言えば、セイたちは魔術士塔に監禁されている間も、短い時間こっそり抜け出して森を探索していた。しかし魔獣らしき生き物が全く見つからなかったので、冒険者になって情報を集め、地道に山に入って探すしか無いと、長丁場を覚悟していたのだ。


(まさか街の方が簡単に見つかるなんて。しかもこんなにあっさりと判明するとは思ってなかったな)


 ……いや、待てよ。この子が従魔契約とやらをしてるから会話出来てるだけの可能性があるよね、人間と一心同体って言ってたし。この子一匹だけで判断せずに、やっぱり野生の魔獣も探さなきゃ……と考えに没頭しているセイに、「ワウ、ワフワフ、キュフ」と一角魔狼が声をかけてきた。


『おにいさん、ぼくたちのボスより、つよいにおい、ついてる。なんで? つおいの、どこ?』

「強いにおい……ロウサンくんかな、狼仲間だし。ロウサンくんはちょっと大きいからね、お外で待ってもらってるんだ」

『あいさつしたい! なかまなる、ぜったいあたらしいボス!』

「うーん、ごめんね、仲間にはなれないかな。挨拶も無理かも……」


 眉を下げて断るセイに、魔狼は悲しそうに「キューン」と鳴いた。


「わ、わぁ、君、やっぱり動物に普通に話しかけちゃうタイプなんだね! すごーい、なんだか……話が通じてるように見える、よ……?」

「……え?」

「え?」


 女性冒険者が、笑顔だけれど探るような目で見てくる。そっと視線を周りにやれば、セイを囲むように立っている冒険者たちも「まさか?」「こいつ、まさか?」という目で見ている。


(嘘。……僕、やらかした?)


 冷や汗がドッと吹き出した。まずい。だって女の人が「シルヴィも言ってる」って言ってたじゃないか、会話出来てると思うだろ。勝手に言ってただけかよ。どうしよう。


「あー、その、これはアレだよ……」


 なんとかごまかそうと脳みそが空回りしてるセイに、キナコが囁いた。


「セイくん今です! 今こそ、あれ? 僕、何かやっちゃいました? って言う時です、さあ早く!」


 お願い黙ってて。


(キナコくんいつもしっかりしてるのに、どうしてこの世界に来てからはそんなにポンコツなんだ。僕だってこんなミスしてポンコツだけど、でも……!)


 ぐぬぬ、と唇を噛みしめる。


「その、今のは、ものすごくてきとうに、返事しただけって言うか……」


 苦しい言い訳を口にした直後、出入り口のほうから強い風がゴウッと吹き込んで来た。付近にいた屈強な男たちが頭を庇うほどの強風。

 セイの真後ろに護衛のように立っていたギルマスが、風から庇う為にすぐに前へと移動してくる。しかし強風は天井付近を二度ほど吹き荒らしただけで、フッと消えた。


「おいおい、随分と賑やかじゃあねぇか。ちっと邪魔するぜ。──場所を開けな」


 お爺ちゃん……にしては、随分と()のある声が響いた。

 冒険者の男たちが「おい、あれって魔法士ギルド本部の……」「え? あの爺さんが?」「伝説の、会長……」「初めて見た」と小声で騒めき、一人、また一人と外へ出されて行く。


「……クソが。御大(おんたい)自らのお出ましかよ」


 舌打ちと共に呟かれたギルマスの言葉を聞いてセイは、嫌な予感しかしない、と強く歯を食いしばった。どんどんどんどん事が大きくなっていく……街へ来て初日だぞ。なんだこれ。


 冒険者が減って風通しの良くなった受付に、漆黒のローブをマントのように肩から掛け、顔の皺は深いものの背筋を真っ直ぐに伸ばし、“強者オーラ”を漂わせている白髪の老人が立っていた。そしてその人の護衛だろうか、フードを外した状態の漆黒のローブを纏った男女が数名。


 迫力のある雰囲気の御大とやらが、凄まじく鋭い眼光で部屋を見回した後、セイにヒタリ……と視線を固定した。目力めっちゃヤバイ。出来るだけさりげなく目を逸らした。



「──そいつか」



 御大が、一歩踏み出す。戦闘用の厳ついブーツを履いているその踵が、ゴツ……と硬く音を立てた。


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