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58.秘境の建物_黒フサ


 シロちゃんの能力だけじゃなく、いっそ黒フサの説明も全部キナコくんに任せてしまおう。あ、でももしかして雲熊さんやキラキラさんも聞きたいかな?

 ……後で能力部分だけ聞ければそれでいい? はい、分かりました。じゃ、ちょっといってきます。


 お師様の家に行こうとしたら、暗くて危ないから絶対にダメだって反対された。どうしても行くんなら一緒に付いて行くって全員に言われたから、さすがに諦めるしかなかった……。


 庭で白トカゲに会えないかなーって期待もあったんだけどね。でもあのトカゲって昼の生き物っぽいし、行ってもどっちみち会えなさそうかな。


 トイレ自体はこの建物にもちゃんとあった。部屋があんまりにも広いから、ここで建物の全部だって勘違いしてたよ。


 玄関から離れた場所の壁にドアが三つあって、一番奥にあるドアが人間用トイレ。となりのドアもトイレで、その次がお風呂らしい……でもこれ、両方ドアっていうより“壁”だよ。一体何用なんだ……。

 ロウサンくんや雲熊さんより大きい生き物が入れる大きさだよな。アズキくんたちは今黒フサの話しを真剣にしてるから、また今度聞いてみよう。

 ロウサンくんに行く? って聞いたら、砂場じゃないと無理だから外で穴を掘ったって。賢いけど犬──狼だっけ──だもんな、水で流れてく場所ではしにくいよね。雲熊さんも同じみたいだ。


 やっぱり広くて綺麗で変わった作りのトイレに落ち着かない気分で用を済ませて出ると、ドアの真横にロウサンくんが座っててビックリした。ど、どうしたの。送迎が必要な距離じゃないよ?

 ロウサンくんは真剣な表情で、前足をきゅっと揃えてる。


『セイくん、俺は……。俺は、もっと強くなるよ』

「えっ、充分強いよ」


 災害級の大型魔獣を瞬殺できるのに、何を言ってるんだ。


『いや、反省したんだ。俺は破壊する力は持っていても、守る力には乏しかったのだと痛感した。本当の強さとは何かを考えさせられる一日だったよ』

「本当に強いと思うけどなあ。僕は今日、ロウサンくんにめちゃくちゃ守ってもらったよ、ありがとう」

『元は俺が頼んだことが発端だからね。守るのは当然のことだよ。なのに……何度かセイくんを危険に晒した場面があった』


 ……あったかな? 僕が怖いと思ったのはロウサンくんの全力山越えくらいだったよーなんて、本人には言えない。


『俺は自分が情けない。……でもね、セイくん。俺は言葉が上手くないから、ちゃんと伝えられないのがもどかしいけれど、自分の弱さを知れて喜んでもいるんだ。傲慢で漫然とした生き方をしていたと気付くことができた。俺は、今はやりたい事がたくさん出来てワクワクしているんだ』


 深い青色の瞳で真っ直ぐに僕を見つめてくるロウサンくんは、つい拝みたくなるくらい厳かな空気を出している。


 そんなロウサンくんに、『セイくんのおかげだよ。ありがとう』なんて言われてしまって、わたわたと手を振りながら僕もお礼を言った。


「お礼を言うのは僕のほうだよ、ありがとう。ここにロウサンくんに連れて来てもらったから、僕も色々覚悟が決まったんだ」


 あの時、ロウサンくんが僕にコテンくんを助ける手伝いをして欲しいって頼んでこなかったら。あそこで別れてたらって想像してみる。

 面倒を見る自信ないからシマくんミーくんとも別れなきゃいけなかっただろうし、当然みんなにも会えないままだった。そんなの寂しいよ。


 それに、あのまま一人でマディワ湖村に行って普通に冒険者ギルドで就職してたら、どうして僕が冒険者なんかにって、ずっと不満に思いながら嫌々仕事する毎日になったと思う。


 でも今は、みんなの為にも冒険者になって頑張ろうって思えるようになったんだ。

 まだみんなには言ってないけど、さっきマディワ湖村に行って、見て考えて、決めたんだ。


 やることは同じ冒険者なのに、全然気持ちが違う。それはみんなと出会えたからなんだよ。連れて来てくれて、ありがとう。


 そんな風に伝えると、真っ白ふさふさの顔を寄せてきた。もっふもっふと頬を揉むようにして撫でる。

 だからこれからもよろしくね。


 気持ち良さそうに目を細めて、感心したようにロウサンくんは僕に言った。


『すごいよ、セイくん。また一段と腕を上げたね』


 …………なんの腕?



 ◇ ◇ ◇



 みんなが集まってる場所へ戻ると、置いていったシマくんが僕の頭の上に飛んできて、ミーくんが足をよじ登ってきた。

 抱っこすると、猛然と僕のお腹を踏み踏み揉み揉みしてきた。実はミーくんちょっと落ち込んでるんだよね。よしよし、充分すごい能力なんだから気にしなくてもいいのに。


「ええとこに帰ってきた、セイ。シロちゃんに聞きたいことがあるから通訳してもらえへんか」

「いいよ。シロちゃんも休憩してるみたいだし」


 全力で遊んで笑って、さすがに疲れたみたいだね。楽しかった? はは、めっちゃ鼻息荒く腕に巻きついてきた、そんなに楽しかったのか、良かったねー。待って待って、締まる。いてて……。


 アズキくんの質問を通訳してみたところ、眠りの深さは調節できるそうだ。浅くかけた場合は時間が経てば勝手に目を覚まし、深くかければシロちゃんが起こさない限り目を覚まさない、らしい。……え、怖くないか? 忘れずに起こしてあげて欲しい。


 次の質問、起こした後に特に動きがおかしくなることは無いか? 無いらしい。キナコくん風に言うと「後遺症は無い」ってヤツだ。


 ただ、シロちゃんは感覚で力を使ってるから後を気にした事が無く、どっちも確実ではないって。アズキくんが「検証せな!」と張り切ってたけど、それはもう明日ね。


 ということで、今の問題は深く眠らされてるこの黒フサ二匹だね。

 一旦起こしてあげないと、水も飲めないし明日には可哀想なことになってそうだ。


 黒い毛玉にしか見えないコレは、僕たちが帰る為にマディワ湖村の門を出て森の中に入り、ロウサンくんの名前を呼んだと同時くらいに『神浄水を寄越せェッ』『神浄水神浄水ヒャッハー!』と襲いかかってきた子たちだ。


 キナコくんが応戦して、ロウサンくんもすぐに来てくれたけど、小さい上にとにかくすばしっこくて。周りを木で囲まれてるからそこを足場に、まさに縦横無尽に飛び回られて、かすりもしなかった。


 最初は、黒いから魔獣だと思って倒すつもりだったんだ。でも言葉が聞き取れてたからね。だったらとりあえず話し合いをしようって何度も声を掛けたのに、もう、全然聞いてくれない。『神浄水ィ!』って興奮して暴れまくってくれた。


 そしたらシロちゃんが顔を出して『んぎゅううううっ』と不機嫌に唸り初めて。


『シロは、自分の縄張りでうるさくする子はキライですぅうーうううううう』


 この『うううう』の声が高くなっていくと同時にシロちゃんのお口の前に、“光りがぐんぐん集まって固まっていった”としか表現しようのない玉みたいなのが出来ていった。“これが当たったらヤバイ”と本能的に思って、「シロちゃん駄目だ!」って止めたんだよ。


 シロちゃんはお願いを聞いてくれて、パクッと光りの玉を飲み込んで次に『んぱぱっ』と、あれだけ飛び回ってた黒フサ二匹に見事に【白い煙のカタマリ】をぶつけてみせた。


 二匹がボトボトッと落ちたから見に行ってみれば、フッサフサの黒い毛に包まれた小鳥のような変な生き物がイビキをかいて寝てたんだ。


『オレが()()()たのに、コイツらにゃんでセイの場所が分かったんだ?』


 襟からミーくんが顔だけ出して不満そうに言った。詳しくは黒フサ本人に聞かないとだけど、シロちゃんも遠くから【神浄水の気配】に反応してたから、それでじゃないかな?

 ミーくんは『ふーん』と興味なさそうに服の中に戻った。でもそのすぐ後、すさまじい勢いで僕のお腹を揉みまくって『今に見てろ! 今に見てろ!』って小声で悔しそうにしてた。あれからずっと落ち込んでるんだよな。


 黒フサを直接触るのは危ないということで、ミキちゃん──ミニ樹ぃちゃんを呼ぶ時に噛んだらそのまま名前になった──に木の枝で拘束してもらって、檻も作ってもらってそれに入れて運んできたんだ。


 ここまではキナコくんがアズキくんに説明し終わってるはずだから、僕はこの子たちをどうするかを考えないと。


 このまま目覚めさせても、また暴れるかもしれないんだよなぁ。


「それについては、俺に考えがある」


 アズキくんが顎の下をさすりながら言い切った。頼もしい。


 えーと、まず寄生虫対策に、木の檻に入れたままキラキラさんに神浄水で洗ってもらう。ふむふむ。

 頼んだら、細長い紐みたいな足で檻を掴んで、洗いに行ってくれた。

 もう触って大丈夫だね。黒フサを指先でつまんで広げると、ツルツルした翼みたいなのが出てきた。


「胴体は女子が持ってたキーホルダーの黒いフサ玉みたいで、羽はこれ、コウモリやな。初めて見たわ、こんな生き物」

「あれファーのポンポンっていうらしいですよ。顔もコウモリっぽいですね。幻獣ですかねー」

「君たち普通に分析してるけど、黒い幻獣ってすっごく珍しいよね……?」


 コテンくんが疲れた顔で呟いてる。そりゃ眠いよね。この子たちの問題が片付いたらご飯食べて寝ような、もう少しだよ、頑張って!


 アズキくんの指示で万が一に備えて、黒フサをキラキラさんにも拘束してもらう。力の強さが分からないから木の枝だけでは心許ないんだって。

 それにしても、ここまでしても目を覚まさないんだな……こわ。


「準備はこれでオーケーや。よし、セイ。──撫でろ」

「……ん? 撫でる?」

「絶対上手くいく。コイツらを撫でるんや!」


 ロウサンくんが『なるほど』と感心したように頷いた。な、なんで? なにが?


 よく分からないけど、撫でるんだね? 両手で二匹同時に指先でモサモサと撫でる。

 それからシロちゃんに起こしてもらうと──。


『……ハッ!? ここは……? おいっなんだテメェッ、触んじゃね、ぇ。あ……?』

『フゴッ……? なんだこれ……、なんだコイツ! 離せ、ぇ。お……?』


 起きた直後は暴れかけたけど気にせず撫で撫でしてると、黒フサたちは両羽を広げて、ぐんにゃり全身の力を抜き始めた。


『あ、ああ、ああああああ……』

『ふおお、ふへぇ……たまらーん……』


 黒くて小さいから分かりにくいけど、顔がだいぶ緩んで口まで開けてる。

 ごめん、これ、何が起きてる?


「これがセイの能力、【撫でとろ】の威力や。思い知ったか!」

『セイくんの【撫で力】は最強な上に更に威力が増してるからね。抗える幻獣がいるとは思えないな』


 なぜかアズキくんとロウサンくんが誇らしげに胸を張った。


 ええええ、能力が増えるのは嬉しいけど、【撫でとろ】って……。どうせなら錬金術とかのほうが良いなぁ。


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