表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/128

57.秘境の建物_シロちゃん2


 みんなが精神的なショックで倒れてしまうから、シロちゃんを投げるのは止めようね、というようなことを言ったところ。

 シロちゃんは、ぺしょーと頭を垂れて、悲しそうに呟いた。


『……ごめんなさい、シロ、わがまま言っちゃったです……。困らせるつもりなかったです、ごめんなさい……』


 急にしおしおに萎れたシロちゃんを見て、みんながどうしたどうしたと心配したのでそのまま伝えたら、アズキくんが「俺がなんぼでも投げ飛ばしたるー!!」と言って駆け寄って行った。でも手が短くて持ち上げられず、ならばと尻尾で叩いてシロちゃんを飛ばそうとした、その一瞬前、キナコくんが恐ろしい速さで近付き尻尾で()()()()()()叩き飛ばして止めた。……なにこれ。


 飛んで行ったアズキくんを見てシロちゃんがキャッキャと楽しそうにしてたから、まあいいよね……、いい気がする。


 シロちゃんが遊びたい気持ちも分かるんだ。どれだけの期間だったのかはシロちゃん自身にも分からないらしいけど、それなりに長い間、独りぼっちだったんだもんなぁ。投げるくらいのことはしてあげてもいいんじゃないかな。【神様】って言われても、やっぱりちょっと実感わかないし。


 ということで数回シロちゃんを雲熊さんの毛の入ったカゴに向かって投げてたら、子熊三兄弟も一緒になって飛び込み始めて、そのまま子供同士でコロコロと転がったりお互いを投げ飛ばしたりして遊び始めた。体格的にシロちゃんが投げられてることが多い。


 母熊さんが見ると言ってくれたのでお任せして、僕はコテンくんの話しを聞くことにした。……母熊さんの背中から、“私が命懸けで守る”、という強い覚悟が感じ取れる。通訳が必要な時はすぐ呼んでくださいね……。




「うーん、多分、そうじゃないかなー、って予想、でしかないんだよ、一応」


 コテンくんの歯切れが悪い。シロちゃんをチラチラ見ては不安そうにしてる。


「ボクの居たアスミ國はこの国と違って、龍は神様の使いじゃなくて、神様そのもの……龍神なんだ。龍姿も違うはずだよ」

「アスミ國ってそうなんですね。こっちの竜人族が竜になった時の姿って、西洋ドラゴンっぽいんですけども」


 キナコくん、宿屋でも似たようなこと言ってたね。セイヨウってなんだろ……と思ってたら、アズキくんが更に意味不明な言葉を言ってきた。


「西洋ドラゴンっちゅーか、火竜王はモンハ……のリオレ……スそっくりやし、風竜王は雄のリオレイ……っちゅー感じよな」


 真横に居たキナコくんが「ンンッ、うぅー、アー、アー、けほっ」と何回か咳き込んだからちゃんと聞き取れない所があったけど、どうせ聞こえても理解できない内容なんだろうな。


「すみません、喉にホコリが入りました。こほんっ。えー、話しの流れ的にアスミ國の龍神の御姿は、つまり……」

「うん、そっくりなんだよねぇ」


 コテンくんとキナコくんはそう言ってシロちゃんを見た。今は子熊三兄弟と金色リスくんたちと一緒に、母熊さんの大きな身体をよじ登って頭の上から飛び降りて、カゴの中の白毛に埋まったらお互い引っ張り出し合ってまた登る、という遊びをきゃあきゃあ笑いながら楽しんでる。あれいいなー、僕も小動物だったら一緒に飛び込みたいくらいだよ。


「ただねぇ、大きさが全然違うんだよねー。それと、龍彩、お色のことなんだけどー、アスミ國の龍神様は紅龍様と蒼龍様の二主神様で、あと地域ごとにそれぞれ緑龍様方が治めてらしてね。他の色……白の龍彩をお持ちの龍神様は寡聞にして知らない。あくまでもボクはってだけだけどねー」


 コテンくんが知ってる龍神様は、魔の森で見た巨木ほどの大きさらしい。めちゃくちゃ大きいな……。

 でも姿形はほぼ一緒。うーん、どうなんだろう。


 そうだ、父熊さんたちもシロちゃんを見た時に、何か知ってる感じだったような。


『我々は、向こうの方角の遠くにある白い山に住んで居た。白い山は、昼に見た黒い山同等の雄大かつ苛酷な山だ』

「黒山みたいな山……やばいですね」

『うむ。そのやばい山を、群れを持たず、たった一つの存在でありながら絶対的な力で以って統べている神獣がいるのだ。我が一族のみならず白い山に生息する全ての生物の頂点に君臨する、白き暴虐の牙。尊くも恐ろしく、そして美しい死のとばり。悠久の時を生きる古の天霊獣。……そのお方を小さくしたような姿をしておられるのだ』


「…………。えー、なんかね、白い山で一番強くて、昔からいた長生きの白い神獣、テンレイ獣に似てるって……」

『セイ殿、それではすごさが伝わらない。“弱き生き物では生息できない過酷な白い山、その頂きに座す偉大な神獣がいる。そのお方は、把握の難しい広漠で雄大な山の全てを、そこに生きるあらゆる幻獣の群れを、絶対的な力で統べ、頂点に君臨している。群れを持たない、唯一無二にして孤高の主……。その存在は例えるならば白き暴虐の牙”、まずはここまで伝えていただきたい』


 増えた。

 えええええ、僕がそれ言うのか。なんか恥ずかしいんだけど。っていうか暴虐の牙だの死の帳だの、山の熊さんなのになんでそんな小説的な言い回し知ってるんだよ。えーと、弱い生き物では生きていけない大きな白い山……はい、正確に、ね。過酷かつ雄大なー……。


『──まぁ、そうね。アタシも白い山から来たんだケド、あの小さいのは白い山の【ヌシ】にそっくりだわ。白い山にはアタシやそこの雲熊みたいに強い戦闘能力を持った幻獣が何種族か縄張り持ってて、でも【主】相手には皆、姿を見ただけで服従を誓い場を明け渡したわ。頼もしくもあり、恐ろしくもある、最強の神獣よ』

「最強ですか……」

『主はこの建物半分くらいの大きさの体躯で、何千年生きているのか分からない。ひと声咆えるだけで猛獣魔獣を気絶させ、尻尾をひと振りするだけで辺り一帯の木々を薙ぎ倒す驚異的な攻撃力を持っていて、天候すら操る力があると言われてるの』

「すごいですね……!」


 キラキラさんの説明のほうが分かりやすい! くそー、キラキラさんに先に聞けば良かった。父熊さんの説明を通訳した僕がアズキくんたちから生温い目で見られたんだよ。病気かとまで言われたんだ、チュウニ病がどんな病気かは知らないけどさあ。


『あの子はその主に、大きくなるまで神気のある所へ行けと直接飛ばされたのよね? だったら、おそらくあの子は次の“主候補”なんじゃないかしら』


 その“主様”はすごい存在みたいだけど、この言い方だと“神様”では無いっぽい?

 と、思ってたのにコテンくんが体を後ろに引いて「天候を操るって……。もう完璧に龍神様だよー、うわあ」って呟いた。つまりどっちなんだ。


 白い山出身者たちがそこまで言うんなら相当強いんだろう。でも僕、ロウサンくんとアズキくんが小屋みたいな大きさの魔獣を一瞬で倒したの見たからね……。ロウサンくんもひと吠えで気絶させられそうだなって。


「次の主候補ってことは、今のその最強の主様はどうなったんです?」


 キナコくんの質問は僕も気になる。キラキラさんたちによると、正確な事は分からないけど、山から神気が減っていくのだから主様も弱くなっていくだろう、って。主とは言え生き物である以上寿命もあるだろうし、それで代替わりをしようとしている可能性がある、とも。


 とは言っても、全部みんなの想像でしかないからね。本当に代替わりするとも決まってないし。

 そのうち庭の白トカゲが出てきて何か説明を……してくれるかなー。あんまり親切な性格には見えないんだよな……。

 いやでも、今は小さくて可愛くてもいずれシロちゃんもそんな強くなるなら、いつまで預かれば良いのかとか、本当にここに置いて良いのかとか、ちゃんと説明してもらわないと困るよ。

 花びらで僕に行くように指示して、その後は放ったらかしってことはないよね……。


「白いおチビは実はとんでもない能力持ってるかもしれんのやな。もう天気変えられるんやろか」

「天気は分からないけど、シロちゃんは相手を眠らせられるよ」

「──……なんやと?」


 アズキくんが、ぐりんっと首を振って僕を見た。角度おかしくない? 大丈夫? そんなことはどうでもいい? そうかなぁ。


 簡単に言うと、そこの黒フサ二匹を眠らせてるのは、シロちゃんなんだ。

 もっと詳しく? えーとね、眠らせる時の掛け声は「んぱぱっ」だったよ。


「そうかそうか。キナコ、説明頼む」

「了解です」


 あ、じゃあ僕はトイレ行ってくるよ。キナコくん、よろしくねー。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ