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49.宿屋の食堂_冒険者パーティー


 そうだなぁ……“僕が神虹珠を知ってるかも疑惑”については誤魔化せると思う。だってこの人たちが持ってた()神虹珠って……うん、多分いける。その流れで連絡先ももらえる、気がする。


 本当はね、キナコくんとの打ち合わせでは今日の目標は、冒険者パーティーの情報を集められるだけ集める、以上、だったんだ。


 幻獣ってものすごく高値で取り引きされるらしい。しかも生きた状態で捕獲されてるなら、価値はもっと跳ね上がる。だから大事に運ばれていくことは間違いなく、そこは安心して良い、ってことだった。

 問題はその後で、依頼でその幻獣を狙って捕獲したものなのか、偶然見つけて捕獲したのかでだいぶ変わるそうだ。一番望ましいのは捕獲が偶然で、冒険者ギルドにさっさと納品してくれること、なんだって。そうすればギルドがオークションに出すだろうから、「それを落札すれば良いだけなんで楽なんですけどね」とキナコくんはさらっと言った。“ものすごく高値で、更に価値が跳ね上がってる”と言った、その口で……。


 ……まあそれは一旦置いて。とりあえず見失うのが一番痛い、パーティー名と、拠点にしてる街の名前だけはなんとか抑えたい、出来れば幻獣の種類を把握したい、とのことで。僕が冒険者パーティーの近くで幻獣くんの声が聞こえないか耳をすませ、キナコくんが姿を消して彼らの荷物をバレない程度に探る。その予定だった。


 なのに何故か今、一緒に食事してるんだよな……。予定は未定で想定外。

 でも雑談して分かったけど、この人たち自分を特定される情報は漏らさない。名前も知らないまんまだ。まあ、僕も名乗ってないんだけどね。だって食堂で一回相席になっただけの相手に普通名前なんて言わないよなーって……あ、キナコくんが荷物漁りから帰ってきた。なにか見つかったかな。首を傾げてる、ってことは今ひとつだったのな?


「男ばっかりのパーティーですかぁ。お師様だったら相手は絶対女の子ばっかり、しかも美少女ばっかりの冒険者パーティーで、何かトラブルを抱えててそれをお師様が解決すると同時に美少女たちが、決めた、あんたに付いてくわ! だの、お嫁さんでもいいのよ? だのなんだの言って無理やり付いて来て、なし崩し的に一緒に住むことになるというのがパターンとして完璧に確立されてたので、ある意味楽だったんですけどねぇ」


 飲んでたジュースを吹き出しかけた。ちょっとキナコくん、このタイミングでめちゃくちゃ気になること呟くの止めてもらえるかな!? それ詳しく聞きたい!


「要素要素は仲間フラグ立ってる気がするんですけど、相手が男ばっかりとなると確信は持てないですね……。そもそも今回は()()()()ですし。……あれ、思い返してみればセイくんのところへ集まってきてるのってオスばっかり? 子熊ちゃんまで全員オスって。お師様なら動物でもメスが集まってきてるはず。ということは、もしかしてセイくんには男ばかりが……?」


 ちょ、キナコくん!? 怖いこと言うの止めてもらっていいですか!? 女性はほら、母熊さんがいるし! キラキラさんだって声はオッサンだけど実は女性かもしれないし! これから来る子は女の子かもしれないし!

 そう声に出して言いたい、でも言えない!! 我慢する、よ……!


「でもそうですねぇ、セイくんが女性ハーレムの主になるとアズキくんと僕は弾かれちゃいますね、それは困ります。それにハーレムって実際にやられると周りにいるぼくらは結構迷惑……大変でしたし。ではいっそ、セイくんは男パラダイスでお願いします、この国の神々よ」


「ちょっと!?」


 さすがに我慢できずに声が出た。神様になんてことを……女の子ばっかりも怖いけど、男パラダイスって言葉の響きが嫌だ……!


「──なにか?」


 反応したのは当然冒険者たちのほうだ。やばい。

 どう言い訳したらいいんだコレ。元凶のキナコくんは「あれ? もしかして聞こえてました? おかしいな……」と他人事だし!


「あのっ、ちょっと飲み物の追加をしようかなって、ちょっと店員さんって、あの。あっ、自分で払いますので!」


 我ながら苦しい。汗が一気に吹き出した。

 猫背の人がメニューを僕に渡しながらニヤ、と笑った。


「飲み物ッスか。少年くん、一人で宿屋にいるっつーことは成人してるんスよねぇ? 酒いっとく?」

「いえっ、僕は弱いので!」

「分かってねぇなぁ。酒っつーのは潰れるまで飲んで潰れて飲んでを繰り返して強くなるんスよ、オゴリなんだからドンといっとけ。柑蜜の酒値15な、決まり」

「えっ、あの」


「──キリィ」


 男前が、たった一言、しかも名前を呼んだだけでこのテーブルの空気を凍りつかせた。この冷え方はロウサンくんの氷撃五本レベル。

 思わず猫背の人、キリィさんかな、その人のほうへ身を寄せた。冒険者三人めの岩さんが男前を“可哀想な人を見る目”で見ている。この場合同情する相手はキリィさんでは?


 男前は、軽く咳払いをしてから僕をまっすぐ睨んできた。対面に座ってるから隠れようがない。


「君、その男の言うことは聞かなくていい。好きなものを頼みなさい。ケーキをもう一つ頼むといい」

「えっ、いえ、ケーキはもう……」

「要らないのか」


 えぇえ……これ断れないやつ? 酒かケーキ三つめか。……どっちも無理……。どうしたら。

 岩さんが「期間限定の王春モモカジュースはどうだ」と勧めてくれたからすぐさま飛びついた。王春モモカ水おいしいですよねー!

 僕は岩さんへと身を寄せた。今度はキリィさんが男前を“残念な生き物を見る目”で見ている。

 男前の眉間のシワが更にググッと寄って、小枝が挟めそうなくらいになった。その顔のまま、身を乗り出してくる。え、なに、こわ。

 

「君、あー、いつまでも“君”では呼びにくいな。差し支えなければ……君の名前と職業、所在する教会名を教えていただきたい」

「……は?」


 いきなり何言ってんの、この人。


 岩さんとキリィさんが同時に両手で顔を覆って俯き、震え始めた。岩さんは悲しそうで、キリィさんは……笑ってないか、もしかして。


「ああ、すまない、こちらから先に名乗るべきだった。俺はナギという。職業は冒険者で【白翼(ハクヨク)】というパーティーのリーダーをしている。では君の名前と職業、籍と所在教会名を嘘偽り無く速やかに答えなさい」


 めっちゃ早口。しかも命令形。ぽかんとしてしまった。キリィさんが横を向いてブフォッと吹いてから、苦しそうにむせてる。


「た、隊長……無理ッス、それ、違う意味で警戒されるッス。やべえ、ひでえものを見た……」


 キリィさんは自分の喉の下をトントン叩いて深呼吸してから、僕にニカッと人懐こく笑いかけてきた。


「あ、あー、少年くん、オレはキリィ、あっちの大きいのがヴァン、現拠点はガズルサッド。よろしく。警戒すんなっつーほうが無理あるんでね、少年くんは名前言いたくなかったら言わねぇで構わねぇッスよ」

「あの……」


 あなた達のリーダーが「構うに決まってるだろう!」とお怒りなんですが。


「ウチのリーダー、疲れ過ぎてちっとおかしくなってんスわ。おかげでもう段取りめちゃくちゃ。なもんで率直に聞くッスけどね、少年くん、君【神虹珠】って、知らねぇッスか?」

「しん……? シロコウジュ、じゃなくてですか?」


 内心、来た……と思いながら、出来るだけ自然に見えるよう、とぼける。キリィさんが「あ?」とややガラの悪い声で聞き返してきた。


「僕も聞きたかったんです。さっき、シロコウジュの木の実を持ってらっしゃいませんでしたか? 白い高い樹になる実なんですけど……ええとですね」


 ポケットから子熊くんたちがくれた木の実をいくつか取り出して、「これなんですけど」なんて言いながら手のひらの上に乗せて見せる。


 この白っぽいやつが()神虹珠に似てるんだよね。これと間違えました、神虹珠(本物)は知りませんで押し通す。


 シロコウジュっていう名前はさっき適当に考えた。この世には数え切れないくらい木の種類があって、その上同じ木でも国や地域で名前が違ったりするからね、専門のスキル持ちでもなければバレっこない。

 子熊くんの木の実はここら辺では採れない珍しいものだし、かと言って見られて困るほど希少でもない。シマくんチェックで神樹の実じゃないって分かってるから大丈夫。


 木の実を見せて欲しいと言われたので、渡す前に僕もさっきの白い珠を見せて欲しいと頼む。わりとあっさり了承されて、一時交換になった。


 偽神虹珠を間近で眺めると、少しデコボコしててやっぱり珠というより木の実に近い。

 冒険者たちも木の実をいろんな角度から見て「確かに似てるッスね」「名前も似ているのか……」「アレも珠というにはいびつな形だ、実は木の実なのか?」と、納得しつつあるみたいだ。


 ここまでは良い感じ。僕が考えてた予定では「変わった木の実や種を集めてて」という理由でこれを譲って欲しいとお願いして、その流れで連絡先を聞き出すつもりだったんだけど。譲ってもらえるまで何度でも伺います、もしくは手持ちが足りないので後日伺います、みたいな。


「──君、この木の実を譲ってもらえないか。譲ってもらえるまで何度でも頼みに行くから名前と所在教会名を教えて欲しい」

「……えぇえ」

「金なら言い値で払おう。しかし残念ながら今は手持ちが少ない。後日になるから名前と教会名を教えてもらえないか」

「うわー……」


 リーダーさんが必死過ぎる。そして考えが同じ過ぎる。体を後ろに引いてたら、キリィさんが「待って少年くん、ちっと聞いてくれ」と引きつった笑顔で僕の座ってる椅子を掴んできた。いや、逃げたいけど逃げませんよ。ところで今、テーブルの下からゴツッと大きい音しましたけど、もしかしてリーダさんの足を蹴りました?


「もし神虹珠を知ってるんなら情報もらえねぇかと絡んだんスけどね、今となってはこの木の実のほうがメインっつーか。この先長く取り引きしてもらえねぇかと思ってさぁ」

「えっ」

「オレたちは採取がメインのパーティーなんスわ。山に入りゃあ魔獣には絶対に会うんでね、駆除も出来るッスよ、でもそれはあくまでついでで……」

「はぁ」

「で、依頼の草だの石だのと一緒に、貴重な木の実や種なんかも集めてるんス。少年くんの持ってるこれはどっちも珍しい植物のものだ。……ああ、仕事で手に入れたモンなら出どころは言えねぇっしょ、無理には聞かねぇよ。この実自体も無理に譲ってくれとは言わねぇ。つーかさ、他にも変わった植物の何かを持ってるなら、今回限りじゃなくこれから先も、オレたちと取り引きしてくれるとありがてぇんだ。ちゃんと対価は払うんで」

「えーと」

「最近苦労のわりにあんま良いのが見つかってなかったもんでさ、焦ってたんス。しつこく連絡先聞いて怖がらせてゴメンな!」

「いえ」


 どうしよう……僕が考えてた内容をそのまま言われてしまった……。

 元々詳しい連絡先を聞きたかったんだし、秘境に繋がることじゃなく僕個人のことなら教えても構わない。メインの幻獣くんのことがまだ何一つ分かってないからね。


「あの、僕はセイと言います。職業は見習い中、とだけ……すみません。移動中なので所在教会はこれからです。……しばらくはこの村にいる予定です。……あの、取り引きについては僕ひとりでは決められないので……」

「オッケーオッケー、セイくんね、充分ッスよ、サンキュー! さっき冒険者ギルドに行ってたっしょ? ギルドにオレらのパーティー宛てに連絡願いで依頼出してくれればこっちから指定の場所に向かうッスよ。依頼料もオレらが持つんで気軽にバンバン連絡依頼出してくれ。な!」

「はい……」


 僕が話してる間、リーダーの口が開きかける度にテーブルの下からガンゴン聞こえてたのが気になるけど。

 ちょっと胡散臭くても幻獣くんが見つかるまでは繋いでおかないといけない。鳴き声ひとつ聞こえないからね、実は急いだほうがいいかも。


 幻獣くん、ほんとどこにいるんだよ……。ため息をついて【偽神虹珠】を手のひらの上でころりと転がした。シュルリ……と音がした。

 ──え?


『ふぁあああ、生き返ったですぅうううう!』


 硬かった偽神虹珠が解けるように崩れて、真ん中あたりからトカゲっぽい顔のようなものが。小さく赤い瞳が。それが僕を見て、キラキラキラァ! と輝いた。


 嘘だろ、まさかの……!


『おにいさんありがとうですっ』


 ちょっ、待っ、こら、──動くんじゃない……!!!



お読みいただきありがとうございます。

主人公は性別ではなく、もふもふハーレム、もふもふパラダイスになります(念のため……)


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