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47.マディワ湖村_冒険者ギルドの前


 ──死ぬかと思った……。


 ロウサンくんの全力は凄かった。生物としての限界を超えたなって思った。これもう、突風だよねって、僕は普通の生物だから風にはなれないんだよ、ロウサンくんって思……。

 声に出して言ったらロウサンくんが気にするだろうから、ぐっと飲み込んで、足に力を入れて地面に立つ。愛してるよ、地面!


 マディワ湖村近くの森の中に、ミーくんのヒゲを使って消えた状態で僕らは立っている。


 空は西側が橙色と紫に輝いてるから、ぎりぎり夕輝き刻に間に合ってる。すごいね、間に合う速さで飛んできたんだね、常識ってなんだろう……。

 ちなみに黒山の上は通らなかった。神泉樹を目指した行きの時は、コテンくんが指した方角に向かって真っ直ぐ進んだから黒山越えになったけど、目的地が分かってる場合は迂回したほうがかえって早く着けるんだって。


 ロウサンくんは疲れを一切見せずに、目を細めて村をジッと見つめ、『俺は別行動を取るよ』と言い出した。万が一を考えた結果らしい。

 それは良いけど、ミーくんのヒゲどうしようか。持てないよね。カバンも無理だし。……口の中に入れる? チクチクしそうだね。でも今はそうするしか無いか。はい、あーん。


 キナコくんはお腹のポケットにヒゲを入れた。僕はミーくんがシャツの中に入ってるから……ダメですか、はい。

 じゃあ、そうだな。手首に巻きつけてあるキラキラさんの足って所々に小さい粒々が付いてて、それがペタッとくっ付く不思議な感触だから、それにヒゲを手首内側にしてこう……、うん、しっかり付いた。


 シマくんは絶対にミーくんから離れないように。帰ったらヒゲで首飾りみたいなの作れないか試してみるよ。

 あとね、僕の胸ポケットに入ってる【ミニ樹ぃちゃん】、ちっちゃいからか声も高くなってる樹ぃちゃんの小枝くん、出来るだけ枝を動かさないよう頼むよ。


『まかせっちゅう!』


 ついさっき枝分けしたばっかりとは思えないほど、しっかりとした受け答えだ。というか樹ぃちゃんて枝を折るだけで増えるんだね。……ん? 膨大な神気が無いと無理? へー、って、今はそれどころじゃない。


「じゃあロウサンくん後でね。帰る時はここで名前呼んだらいいんだね?」

『ああ。村の中でなにかあった時も名前を呼んでくれたらすぐに駆けつけるよ』

「わかった!」


 一瞬で壁を蹴破って入ってきそうだから、雑談で迂闊に名前を呼ばないようそっちにも気をつける、じゃあね!


 さて、ミーくん、僕だけ【出る】よ。



 ◇ ◇ ◇



「お疲れ様でーす」

「おう、お疲れさん、今日は一人か」

「はい、成人したので、その仕事で……」

「お、成人か、おめでとうさん。ついこの間までこんなチビチビしたガキンチョだったってのになぁ」


 こんな、のところで門番のおじさんは膝の高さに手のひらを合わせて言った。いつの話ですか。

 下手に立ち止まると「何の仕事なんだ」だのなんだの捕まって長くなりそうだったから、さっさと通り抜けて村へ入る。すると、姿を消して肩の上に乗ってるキナコくんが「村は出入り自由なんですか?」って聞いてきた。王都以外は、基本的に出入り自由のはずだよ。でも陽が沈むと村の出入り口は閉鎖される。

 閉鎖って言っても、ロープを張って魔獣避けの結界を張るだけだから、門番に見つからないよう姿を消せば出られるよ、大丈夫。


 僕たちはヨディーサン村のある山のほうの入り口から入った。こっち側は村の収穫物を卸すためによく入ってきてたから、大体の建物の場所は分かってる。あの大きい建物が教会で、風の神様を信仰してるんだ。

 で、冒険者ギルドがあるのは湖側の、水の神様を信仰してる教会のあるエリアなんだけど。


 あの白いトカゲだか神様だかの希望が結局なんなのか分からないんだよ。どこへ向かえばいいんだ?


 とりあえず教会が閉まる前に急いで食料の買い物だけ済ませて、村の中をただ歩いていると、目の前にフワリと白い小さな花びらが風と共にやって来た。そして湖のほうへと飛んで行く。

 道案内してくれるんだね、良かったー。


 花びらの飛んで行った先を目指しつつ、村の人たちが僕を変な目で見ていないかも気にして歩く。やっぱりね、ちょっと不安なんだ……。

 お師様の建物で色々と検証済みとはいえ、実際に人のいるところへ来ると、本当に大丈夫かなとソワソワしてしまう。


 僕にはキナコくんが見えてるわけだから、肩の上にいるけど本当に消えてるのかな、とか。


 消えてる時に持ってるも一緒に消える仕組みだから──体だけ消えると、今度は服だけ動いてる状態になるからね──こう、逆にミーくんたちのいる僕のお腹のところだけ消えてたらどうしよう、とか。


 いや、顔見知りのおばちゃんが笑顔で手を振ってくれてるから大丈夫のはず……はず! おばちゃんが散歩させてる犬のルーカスも尻尾を振って、ワン! って言ってくれてるし!


 ……“ワン”?


 あれ、ルーカス?

 しゃがみこんで撫でると、ハッハッハッと息荒くキュフキュフ鳴きながら顔を舐めてくる。んん? ルーカスくーん? お元気ですかー? ワン! ……そうかあ、なんとなく気持ちは伝わるけど、言葉は通じないのかー。


 またねと手を振ってルーカスたちとは別れる。少し進んだ所に懐いてくれてる地域猫たちがいたからご挨拶。今日も可愛いね。にゃーん、にゃーお。……なるほど?


「セイくん、どうしたんですか?」

「今のわんこさんと、このにゃんこさんたちが何言ってるか分からないんだよね。普通に、ワンとニャンって聞こえる」

「えっ」

「スキルチェックの時に【会話】できる相手は動物じゃない、とは言われてたんだよ。でもシマくんたちとは会話出来たから……」

「うぅーん、検証してないので、あくまでも予想ですけど、幻獣以上の生き物限定なのかもしれませんね」

「やっぱり? ロウサンくんが幻獣は知能が高いとか、そういうようなことを言ってた気がするんだよね」

「知能は関係しそうですよね。あとは、神気、でしょうか……」

「あー、ありそう。──と、あそこみたいだよ」


 お店っぽい造りの建物の前で、白い花びらがクルクル舞いながら、その場で留まっている。あそこに行けってことだよね、あれは……、え? うっそ。


「冒険者ギルドだ……」


 キナコくんが前のめりになり、シマくんとミーくんも襟から顔を出して見ようとしてる。キナコくんの「あれが冒険者ギルド……。なんだか小さくありませんか?」という質問に、無意識に「田舎だからちゃんとしたギルドじゃなくて、出張所って聞いたよ」と答えながら、心の中は大パニックだ。


 えええー、どういうことなんだ、僕に冒険者になれってことなのか? 今日中に? 実はあれ冒険者ギルドじゃないとか……でも看板がしっかり上がってるんだよなぁ。えええー?


 うーん、とりあえず行ってみるしかない、よね。膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしてた猫さんと、僕の足に全身の体重をかけて擦り寄ってた猫さんを撫でる手を止めて、立ち上がろうとする。今は用があるから、また今度ね、ごめん、またね、ほんとごめんって。


 猫さんに降りてもらったところで、花びらが一枚飛んできて僕の目の前でピタリと止まり、ゆっくり下へ落ちた。もう一枚飛んできてまた止まり、落ちる。

 ……つまり、行くな、と? はあ? 何を望んでいらっしゃるので?


 仕方なく様子見をすることにして、いそいそと猫さんのなでなでを再開させた。すぐに、冒険者ギルドから男の人たち三人が出てくるのが見えた。こっちに来る……僕に用があるわけじゃなく、僕の後ろに宿屋があるからだろう。


 わ、すごい剣持ってる。こわー。


 村の中で長剣の携帯が許されてるのは騎士と警備団団員、そして冒険者だけだ。中型までの魔獣対策用の伸縮性棍棒は僕みたいなのでも持ってるけど、それより上の武器は許可がいる。訓練を受けてない素人が殺傷力の高い武器を持つのは危ないから駄目なんだって。


 こんな田舎であんな立派な剣を持ってる人なんて滅多に見ないよ、珍しい。しかも、服装は冒険者っぽいけど、山賊と間違うようなガラの悪いガズルサッドの冒険者のオッサンたちと違って、この人たちはちょっと都会風というか……。


 先頭をヒョロッと細い猫背の男の人、やや後ろを縦にも横にも大きい岩みたいな男の人。

 そして真ん中を歩いてるのが、なんかめちゃくちゃ“女の人にモテそう”な雰囲気の男の人だ。濃い金髪に引き締まった筋肉、背も高い……羨ましい……足まで長い、おのれ……。

 強そうだけど上品さもあって頭も良さそうでカッコイイって、なんだあれ、出来過ぎじゃないか?


 あの人あれだ、“十年後のジン”っぽい。幼馴染で僕たちのリーダー的存在だったジン。

 ジンがもっと強くなって落ち着きが出て、大人になったらあんな感じになりそう。顔も無駄に良さそうだし。無駄に。

 違うのは、ジンは愛嬌があるけど、あの男の人は恐ろしく険しい顔してるってとこだね。眉間のシワがやばい。


 怖いし近寄らんとこ……。


 そう思ったのに、花びらが不自然な飛びかたで浮き上がり、よりにもよってその“十年後ジンもどき”の男の人の肩にくっ付いた。


 いやいやいや、嘘だよね。……三枚同時に向かう、だと。マジか。


 待って、こんなことなら普通に冒険者に登録して終わりたい。あんな人たち相手に、僕に出来ることなんてあるか……?


 猫さんを撫でながら静かに動揺してる僕の横を、冒険者たちが通り過ぎた。その時、子供の声が聞こえてきた。


『……んっぎぃいいいい、ぐるじいいい、じぬぅううううう』


 思わず凝視した。えっ、どう見ても大人の男の人三人しか……。あの荷物の中に子供が? でもこんなに大声で叫んでるのに、あんな平然と歩けるものか? いやでも、声が一緒に遠去かっていくってことは。


『んあああ、神浄水が離れてくですぅう! おだずげぇええ!』


 ──あ、そういうことね……。


 

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