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46.話し合い_花びらの意志


 アズキくんが言ってた“マニア”はなんとなく分かるけど、“ガチ、強火、オタク”は分からなかったな。でもそんなことより、最後の“変態”という言葉に衝撃を受けた。


 だって、竜王って言ったら、【竜王】だよ? 国の最上位の神子より上だよ? ほぼほぼ神様だよ? それと、ものすごく気になったのが……。


「竜王様って、【職業、竜王】じゃないんだね」

「あれはネタみたいなもんや。でも実際、地竜王も火竜王も自分の島を放っぽってミヤコに住んどったから、そんな仕事て無いんと……」


 そこでキナコくんがアズキくんの頭を尻尾でスパーン! と叩いた。オオウ、痛そう。


「竜王は基本的には【神仕】ですから。それぞれの属性の神に仕えて、その要望に従って下界で力を使うことが仕事なんですよ」

「ハァン? 言うて、アイツら仕えるとか従ういう感じちゃうかったぞ。友達みたいやったやんけ。火竜王なんか逆に火の神いじめて……」


 キナコくんの尻尾がアズキくんの頭に、べしんっと叩きつけるように落とされた。そのまま地面にグイグイ押し付けてる。アズキくん、君、もしかしてアホの子なのか……?

 小説や演劇の内容ならそういう裏事情的なの大好きだけど、実際のことなら話しは別だ。うっかりどこかで喋って、嘘つきだと思われたり不敬だと罰せられるのは僕だからね、聞かなかったことにするよ。

 竜王が実は一人じゃないっていうのも、人に喋っていいことなのかどうか……。


 ミーくんが、もういいー? と僕によじ登ってきた。頭の上はシマくんの定位置になってるから、肩の上かシャツの中だね。まずは肩の上に乗って、疲れたら中に入って寝る、なるほど。


 あ、またヒゲが抜けた。細いそれを拾うとほぼ同時に、窓から強い風が吹いてきた。

 その風に乗って小さく白い花びらが数枚部屋へと入り、僕の前で踊るように回転した。その花びらは目の前でフワリ、フワッ、フワリと不自然な動きで下へ左へ上へと……ん? 【た】……?

 考えてるうちに花びらたちは、その小ささから出ているとは思えないほどの量の虹色の光を跡を引くように振りまきながら、僕の体の周りを円を描いて数回流れるように移動し、そのまま窓から外へと風に吹かれて出て行った。

 そして黒山がある方角の、遠くの空へと舞い上がり消えていったのだった。


「……今の、なに」

「セイが美少女戦士に変身させられてしまうんかと思った……」


 キナコくん、アズキくんをちゃんと抑えられてないよ。えーっと、今の怪奇現象の正体を知ってる子いないのかな。


 なんか花びらが文字っぽくなるように動いてた気がするんだよね。た、……ぬ? た、む……? ダメだ。


「シマくん、ミーくん、さっきの花びらって、文字っぽくなかった?」

『もじってなんすか?』

『ヒラヒラした虫っぽいの捕まえられにゃかった! もいっぺん来にゃいかなー』


 だよね。ごめん、僕が悪かったよ。

 ここで字が読めるのはアズキくんたちだけ……えっ、っていうか、読めるの? すごいね。でも今回のは角度が悪くて判別不可能だった、と。そうだね、真正面からじゃないと無理だろうな。文字じゃなかったかもしれないし。


 なにが書いてあったか? あれが文字だったとして、最初は【た】。でも次が【ぬ】か【む】か【の】かよく分からなかった……。【たぬき】? なにそれ。生き物の名前? コテンくんの國にいるんだ、へー。焦げ茶色のフサフサした犬みたいな……化けられる、化けるってなに。


 などと僕たちが脇道に逸れていってると、ロウサンくんが花びらの消えていった空を見ながら、硬い声を出した。


『セイくんが行こうとしてた村は、俺たちが初めて会った場所から山を下った先にある、湖のそばの人間の集落だよね?』

「ん? うん。マディワ湖村っていうんだ」

『花びらが向かった先がちょうどその村なんだ。今のがどの神の力によるものなのかは分からないけど、状況的に、セイくんに村へ向かって欲しい、という意志を表現したものだったと考えて間違いないだろう。しかし……』

「今から? まだ夕輝きは始まってないのかな」


 そう、もう村へ行ける時間じゃないんだ。ここの窓から見える空はまだ青いけれど、建物に入ったとき既に金陽が西のほうへ進んでて、それからミーくんのヒゲの検証だなんだでだいぶ時間が経ってるはずだ。

 一日の陽の長い時期ではあるけど、そろそろ夕輝き刻になっててもおかしくない。村に着く頃にはギルドも教会も閉まってるんじゃないかな。


 でも、明日には確実に村へ行くのに、花びらが今やってきたってことは……。あ、また窓から花びらが一枚。今度は勢いのある風に乗って飛んで来て、僕の鼻の頭に引っ付いた。──はい、すぐに向かえってことですね。

 神様からの指示なら、いっそ這い蹲って拝命させていただきたいところなんだけど。なんだろう、神様というよりあの白いトカゲの気配を感じて……あっ、はい急ぎます、何枚も飛ばすのやめてください。ミーくん、花びら狙って僕の鼻に爪たてるのやめて。


『セイ殿には極力危険の無いように過ごして頂きたいのだが、神の意志ならば仕方あるまい。せめて樹を連れて行ってくれ』

『小枝折るっちゅう。ちぃと待て。──フンッ』


 樹ぃちゃんが自分の体から枝を一本へし折って渡してくれた。えっ、これどうすれば。雲熊さんの毛に包んでいけばオーケー? じゃあ、アリガトウゴザイマス。


『神様が相手じゃ分が悪いわね。アタシの足を一本持って行ってちょうだい。荷物に入れちゃダメよ、首か手首に巻くのよ。肌身離さず持つのよ! いいわね?』


 キラキラさんが足を一本引き千切って渡してくれた……。痛い、よね? 大丈夫としか言えないよね、ごめんね。大切にする、よ。

 ……この千切りたてホヤホヤの足を首に巻くのか……、手首にするね……。紐みたいな形だから巻きやすいナー。アリガトウゴザイマス。


『その可愛い猫の能力が判明した直後に、これか。恐らくはそれも“神の意志”なんだろうね。俺はその猫くんの能力を使ったとして、村の中へは入れても建物の中へは入れない。セイくんの護衛として、その小さい生き物の、色の薄いほうを連れて行くよ』

「キナコくん? でも行きたがってるのはアズキくんで……」

『キナコ、という名前のほうだ。絶対に譲らないよ』


 意志が、固い。しかもその場にいた全員が──キナコくんまで──ロウサンくんに賛成した。アズキくんだけ「なんでや!!」と足をダンダンさせてたけど、ほんとにねぇ、なんでだろうねー……。


 キナコくんが僕から新しく抜けたミーくんのヒゲを受け取り、すぐにアズキくんに差し出した。


「今日は短い時間の下見なんでぼくが行きますねっ。ミーくんのヒゲも神気がどこまで保つのか分からないと怖いので、引き続き詳しい検証お願いします! アズキくんじゃないとそういうの無理なのでー」


 アズキくんは「ま、まあそういうことならしゃーないな」と満更でも無い感じで受け取ってた。さすがキナコくん、上手いなー。


 さて、慌ただしく出発準備。といっても神浄水を水筒に汲んで僕の荷物担ぐだけだけど。

 ここまでみんなが“神様の意志なら仕方がない”という前提で動いてるのに、今更“神様じゃなくて白いトカゲの意志の可能性がある”なんて言えるはずもなく。

 どっちにしろ今すぐ行くことに変わりないんだし、いいか。なにより時間が無い。


 シマくんとミーくん、そしてキナコくんにシャツの中に入ってもらい、ロウサンくんに乗って、いざ出発!


『翼を出して全力で翔けるよ。速さが今までの比じゃないからね、しっかり掴まっててくれ』


 えっ、今までも十分速かったですけど!?

 うわっ、ああああ、見送ってくれてるみんなが、あっという間に小さく。聞こえないだろうけど声をあげる。


「ちょっと行ってくるね! あとよろしくー!!」


 すぐにお腹のあたりからキナコくんの悲しそうな声が聞こえてきた。


「アズキくんがここにいたら、すかさず“ガキの使いちゃうんやぞ!”ってツッコミ入れたのになって。ツッコミ不足の予感で泣きそうになってるぼくはもうダメかもしれないですぅ……」


 ああ、それは重症ですね、お大事になさってください。


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