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44.話し合い_村へ出発……できない


暢気のんきか!!」


 冒険者ギルドへの登録は、準備期間が一カ月ほどあってからの明日が期限と伝えたら、アズキくんが真正面から吠えた。小さいけど鋭い良い牙をお持ちでいらっしゃる……。


「さては夏休みの宿題を最後にやるタイプやな!? 申告類最終日駆け込みタイプか!」とまた意味不明なことを喚くアズキくんを、キナコくんが宥めてる。


「まあまあ。セイくんがのんびり屋さんで、このタイミングになったからこそ、ぼくたちは出会えたわけですから」

「それはそうかも知れんけど! こういう納期ギリタイプに俺がどれだけ苦しめられてきたか……!」

「大変でしたね、忘れましょう」


 アズキくんたちの会話の内容がたまに意味不明なのは、もしかしたら国が違う可能性が……と思ってたけど、ロウサンくんたちが【スキル】を知らなかったことで、やっぱりここも同じドゴナル国なんだと考え直した。【スキルを知ることが出来るのははこの国の人間にのみ許された特権だ】って、飽きるくらい聞かされてきたことだったよ。

 なにより神様の名前が一緒だからね。同じ国で間違いない。


 よく分からない話しをしたり、家の中がおかしかったりするのは、100年も経ってたせいだったんだね。これがジェネレーションギャップってヤツなのかな。最近読んだ小説にあった言葉で……なんて考えてたらコテンくんが僕の腕をちょいちょい、とつついてきた。ん? どうしたんだろう。


「セイには帰る家があるんだよねぇ? そろそろ帰らないと、おうちに着く頃には暗くなりそうだよ。おうちの人が心配しないかなー?」

「おうち? ああ、教会のことだね。それなら大丈夫だよ、冒険者登録済ませたら一週間以内に一回は顔を見せるようにってことだから、今日は帰らなくても別に……」

「教会? え、じゃあセイって……あっ、ごめんね。えーと、教会に住んでるということは、その……」


 コテンくんが何故かしどろもどろになった。そしてアズキくんが突然「セイはもう、うちの子やから! うちに住め!」と僕の足にしがみついてきた。


 大丈夫かな、この子。叫んだり怒鳴ったり、かと思えば急にすがりついたり。情緒が心配だよ。結界に100年も寝てたせいでコテンくんは体に不調が出たけど、アズキくんは精神に不調が出てるんだろうか。


 よしよし、落ち着いてねー、と心を込めて頭を撫でる。

 最初は、む? と不審そうだったけど数回ほどで、アズキくんは目を細め、両手を広げ、ちっちゃいちっちゃい指を、ぱあああ……と開いて「ふおおおおお」とため息のような声を出すようになった。

 もう大丈夫そうかな。最後に背中のほうまで撫でて手を離すと、アズキくんは両手で口を押さえて、潤んだ目で僕を見てきた。


「……やだ、めっちゃときめく。これが噂の、なでぽ?」


 うん、ちょっと気持ち悪いな。なんでだろ。

 キナコくんが「アズキくん、それはなでぽじゃありません。落ち着いてこっちでお話ししましょうか」と初めて聞く冷たい声でアズキくんを引っ張って行った。あの子たちは放っておいていいかな、いいよね。


 コテンくんは言いにくそうにしてるけど、ロウサンくんが『セイくんは孤児院育ちなのかな?』とはっきりと聞いてきた。

 孤児院? 昔はあったみたいだけど、今は戦争も無いし孤児がいないからね、違うよ。どうしてそんな……ん? 子供はみんな教会で育てられてるよー。

 ああ、そうか、外国では親とだけで住んでる家で育てられる子供もいるんだっけ。僕たちはみんな教会育ちだから。親? いるよ、村の家に住んでるよ。一緒には住まないよ。……なんでって、なにが? 成人したら働きに出るし……そうじゃなくて?


 噛み合わない会話をしてると、アズキくんたちが「セイのは【なでぽ】じゃなくて【なでとろ】と命名したわ」と、めちゃくちゃどうでもいいことを言ってきた。

 そんなことより、教会育ちを分かってもらえないんだけど、って、君たちも知らないの!?


 えー、これもジェネレーションギャップ……なのか?



 ◇ ◇ ◇



 教会の仕組みを軽く──細かいところまで言うと本当に長くなるから──説明したら、みんなが引いていた。なぜ。

 特にアズキくんとキナコくんは「100年でここまで変わるんかー」「江戸から昭和ですもんねぇ」と頭を抱えていた。アズキくんたちの時代は家族で住む家のほうが多かったんだって、びっくりだよ。


 こんなに色々変わってるなら早めに街を見てみたい、あと食べ物もなにも無いから買い物にも行きたいとのことで、急に近くの街……というか村まで行きたいということになった。


「セイくんごめんなさい、アズキくんは思い立ったが吉日タイプの“いらち”なんです」

「僕はいいんだけど……」

「もう夕方でいつ店が閉まってもおかしくないからな、急がなマズイやろ。それにセイの登録期限が明日なら今日のうちに冒険者ギルド見といたほうがええで。行ったことないんやろ?」


 そうなんだよね。うちの村は小さいから教会がひとつしかないけど、マディワ湖村はエリア分けして教会が二つあるんだ。だからマディワ湖村へは月に二回は荷馬車に乗ってみんなで行ってても、僕が入るのは基本的にうちの村から入る側にあるエリアまで。冒険者ギルドは奥のエリアにあるんだよなー。


「下見は大事やで。あと、実際に見てみた時の印象、な。これがめっちゃ大事」


 そういうものなのか。ただ、僕としてはロウサンくんが行けるかどうかのほうが大事かな。


『時間としてはすぐに行けるよ。でも冒険者ギルドがある村なら、俺はあまり近くまで行かないほうがいいんじゃないかな。人に見つかれば騒ぎになるよ』

「そ、それはそうかも」

『人目につかない離れたところへセイくんを降ろすと、今度は村に着くのに時間がかかる。それに、その可愛らしい生き物も村の中に入るつもりならもっとちゃんと対策をしていかないと。珍しい生き物なんだろう?』

「それはそうだね」


 ロウサンくんの指摘を伝えると、アズキくんはウッキウキで振り回してた何かの鍵を、チャリーン……と落とした。

 そんな泣きそうな顔しなくても。


「ロウサンくんって白くて大きいから、どうしても目立つと思うんだよね。アズキくんも村の中で黙ってられなさそうだし」

「……ぐうの音も出ない」

「ロウサンくんは、出発を明日にして離れたところに降ろしてもらえばどうにかなるかも。でもアズキくんを連れて歩くのもそれなりに目立ちそうだよね。うーん、でも自分で実際に村を見たいんだもんねぇ……」

「見たい、けど」

『セイ兄さんっ、オレを忘れてもらっちゃ困るっす! オレも付いて行くっすよ!』

「えっ、シマくんも? 人間の村の中に入るんだよ?」

『セイ、おれも』

「ミーくんまで、って、ミーくん?」


 今の今までずっと熟睡してたミーくんが、大きなあくびをしてから、ぐーと伸びをした。


『んにゃあ、よく寝たあ。ねえねえ、おれの尻尾どうにゃった?』


 言うなりお尻をあげて僕に見せつけてきた。マイペースだな。ごめん尻尾の話しは今は……、あれ?


「二本めの尻尾が、伸びてる?」

『やっぱり? やったあ!』


 長い普通の尻尾の横に、デキモノと間違えるくらい小さかった二本めの尻尾が、まだ短いなりにしっかり生えてきてる。えええ、短時間でこんなに?

 コテンくんたちも気になったらしく覗きに来た。


「二本めの尻尾ってー? あれ、これ……」

「へー、このにゃんこ猫又やったんか。すごいな」

「うわー、実在したんですね!」


 はしゃいだ声を上げたキナコくんたちと違って、コテンくんの雰囲気は固い。なにかあった?


「……多分だけどー、この子は猫又じゃない、と思うよ。ウチの國にいた猫又は、尻尾の先から二又に分かれてってたからね。この子は根元から二本めの尻尾が生えてきてるわけだからー。ってことはー、うーん」

「なにか気になることがあるの?」

「うーんとね、猫又じゃない尻尾が二本ある猫に、心当たりがあるんだよね……でもそれって、実在を疑われてる幻の種族、なんだよねぇ」


 ……えーと、実在を疑われてる幻の存在って、結構多いね……?


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