41.大きい小屋_話し合い
「まあええか。よう分からんけど、もし理由があるんならその内、神さんからなんか言うてくるやろ」
「それもそうですね」
そんな風にアズキくんとキナコくんが【神様と会話が出来る】ことを当然のように話してる。……やっぱり神子なんだ!
暖炉で火の神様に僕が怯えた時に、実際に神様とお会いしたことがあるかのように言っていたのがアズキくんたちの夢や妄想じゃなくて現実のことだったら、確実にこの子たちは最高位の神子だ。うわー、拝んでもいいかな。
神様の加護でこの国は成り立ってるわけだから、やっぱり【神子】がこの国で一番偉い立場になるんだよ。ただ神子にも階級があって、神様の声が聞こえる、神様に言葉を届けられる、神様にお願いを聞いてもらえる、この順番で偉くなってくらしい。
つまり、頼んでもないのに神様が直接力をふるって埃を飛ばしてくれる、なんていうのはとんでもない伝説級の神子様で、この国の権力者トップになる可能性が……!
『セイくん、このカゴはどこへ置けばいいのかな?』
「あっ、ごめん」
感動するのは後にしよう。ロウサンくんは親熊さんの毛の入った大きなカゴと、リスくんたちの巣になった三つのカゴ、樹ぃちゃんたちがせっせと作った空のカゴ複数を一度に運んでくれたんだ。ありがとう。
恐れ多くも神様に綺麗にしていただいたけど、硬い床に直で座るのはどうかな。でも椅子もクッションもないよね。
ということで、親熊さんの毛を浅めのカゴに入れて代用することにした。親熊さんたちにも手伝ってもらって毛を適量移していく。
「アズキくんとキナコくんって、神様が直接助けてくださるような高位の神子っぽいんだ。教会に行ったらすぐに最高権力行使者になりそうだよね。すごいよね」
『……セイくん、残念だけど』
炊事場を短い足でちょこちょこ歩いてる彼らは、本来なら王都の中央教会の神輿の上で、偉い神官様たちに傅かれてる立場なんだよな、そう想像してワクワクしてしまう。
だけどロウサンくん困ったような声を出した。残念とは?
『能力とは関係無く、小動物が人間社会の権力者になるのは不可能じゃないかな』
「…………デスヨネ……」
やっぱりダメかなぁ。あの子たちは人語をしゃべれるし、これだけ“神に近い”神子の能力があるなら見た目なんかどうでも良いレベルだと思ったんだけど。
『俺は可愛くて良いと思うけどね。しかし同じ人間だったとしても権力の中枢というのは血筋が物を言うことが多いから、結局無理だと思うよ』
うーん、それはどうだろう。血筋よりスキルのほうが重要視される、はず。
ロウサンくんの声が聞こえていない父熊さんが、毛を移動させながら僕の言った最初の言葉について話しかけてきた。
『神が直接手助けをしたのがあの小動物の為とは限らんだろう。私には、新たな人成神を歓迎する為の神力に見えたがな』
「それは無いです」
それって僕の為ってことだよね、ないない。まず僕は神じゃない。僕を神扱いなんて、そろそろ神罰が下りそうなんで勘弁して欲しい。
どうしてそこまで勘違いしてるんだろう。さっき庭で色々試したけど僕に特殊な能力は、ひとっつも! かけらも! 無かったよ。それはそれでガッカリだよ。ちょっと良いスキルの一つくらい新しく増えてくれたら良かったのに。
あと、フォーライソー教は他の宗教を禁じてるからね。僕がどうこうじゃなく、他の神を歓迎なんて有り得ない。
やっぱりあの子たちがすごいんだ、そう思って見たら、炊事場でコップを並べて困ってる雰囲気だった。洗いたいのかな。
僕、あっちを手伝いに行ってきます。
「おーセイ、いいところに来た。すまんが洗ってくれ」
「いいよ、コップとお皿だね。お皿も水を入れる用だよね」
「ほんまなら菓子くらい出したいんやけどな、さすがに食いもんは全部処分してあるからなー。水しかないわ」
「早めに生活に必要なものを用意しなきゃですね」
「そこらへんもこれから一緒に考えようか。水はこの水樹でいいんだよね」
壁の横穴から生えてる水樹の枝は二本。一本の枝から枝分かれした小枝が更に三本ずつ。その中の一本を折って、水を出し……たい。……うん、この太さを手で折るのは無理だ。アズキくん、お願いします。
水樹っていうのは枝を折ると半日くらい水が流れっぱなしになって、そのうち止まって塞がる。そこから二日ほど置けば小枝が伸びて、また折って使えるようになる。だから元々たくましい木ではあるんだけど、ここの枝は更に立派で……。ここの小枝が僕の村の枝の太さだね。
──さて、じゃあみんなで話し合いしよっか。
円形になって、親熊さんの洗った毛を入れたカゴの上に座り、目の前に水の入ったコップやお皿を並べる。
大きいカゴ二つをそれぞれ親熊さんに渡したら『私たちの分もあるのか……?』と目をカッと開いて震える手で受け取ってたけど、あなたたちの毛なんだから最優先で渡すに決まってますよ。親熊さんが寝転べる大きさのカゴに分けたから、少なくてちょっと薄いかもしれないけど。
子熊くんたちは母熊さんと同じカゴに入って、今は寝てる。
リスくんたちはカゴの毛の中に埋まってるけど、一応参加する意志はある。ミーくんは意外にさっさと出てきて、あぐらをかいた僕の足の上で丸まってゴロゴロ喉を鳴らしてる。シマくんは僕の頭の上。
ロウサンくんは残念ながらカゴ無し。さすがにそこまでの量は無かったよ。
準備をしてる間に『華麗に復活したわー!』とこの建物までやって来たキラキラさんは、当然浮いてる。
アズキくんとキナコくんは「これはまさに生き物がダメになる白天毛……」「コタツとお酒の組み合わせ並みの魔力ですぅ」とカゴの毛の上で伸びきってしまった。コテンくんは「起きる……あとちょっと。起きるよーう」と言いながらなかなか起き上がれず。
そんなトラブルはあったけど、なんとか全員揃って話し合いを開始。
まずはさっきの白いトカゲについて。アズキくんたちの知ってる生き物かな?
「知らんなー。元からここにいたのは俺とキナコだけや。結界を張ってもろてたからな、それは確実や」
「あのう、気になってたんですけど、そもそもロウサンくんや蒼雲白天獣さんたちは、ココを目指してやって来てたんですか? 結界が崩されてからじゃなくて、もっと前から来てたんですか?」
目指して来てたっぽいことを言っていたような? 聞いた気がするけど僕が勝手に答えるわけにはいかないから、みんなに通訳して改めて聞いてみると、それぞれが一斉に話し始めた。待って待って、順番にお願いします。
……はい、まとめるね。
「えーとね、雲熊さん一家とロウサンくん、あとシマくんとミーくんが、黒い山の方角から神気の気配を微かに感じ取って、それで少し前からやって来てたんだって。神気の源をずっと探してたって。この場所がはっきり分かってたのはコテンくんだけだね」
伝えると、アズキくんとキナコくんが顔を見合わせた。
「……ということは、他にもここを探してやって来てる生き物がいるかもしれん、いうことやな」
「でもここって、早々簡単に辿り着ける場所じゃないですよね」
「ロウサンくんが、ここに来れるのは神力や神気の強い生き物だけだって言ってたよ」
名前を出したからか、ロウサンくんが前のめりになって力強くしゃべり始めた。
『セイくん、他の生き物がやって来る可能性は非常に高い。実際にセイくんが遭遇したわけだからね。そして、残念ながら全ての生き物が理性的で温厚とは限らない。極力セイくんの側に付くよう心掛けるけど、それとは別に危険は速やかに排除できるよう、今のうちに対策を講じるべきだ』
「な、なるほど……」
ロウサンくん、途中から立ち上がっての力説。慎重……なのはともかく、やや過保護な気がするな。僕をここに連れて来たから責任者気分なんだろうか。
僕の個人的な印象は置いといて、内容はそのままみんなにちゃんと伝えるよ。ロウサンくんの意見に一番に反応したのはコテンくんだった。
「危険を完全に排除できるとは言わないけどー。さっきみんなで誓言したでしょー? その時に神気が過剰になって範囲が広がったって言ったの覚えてる? それってねー、あの時に誓言してない生き物も、ここら辺一帯に来たらそれだけで適用されるっていう効果がねー。多分ねー」
「……来ただけで?」
「来ただけでー。……ほんと信じられないよね、どういうアレなんだろ……。あ、でも実際に誓言したよりは強制力弱いからねー、そこはやっぱりどうしてもね。だから新しい生き物を見つけたらちゃんと“身の危険が無い限り、ここの生き物に攻撃しません”って誓ってもらったほうが良いよー」
みんなにコテンくんの言ってることを伝えつつ、返事をする。
「うーん、でも誓ってもらうって、そのたびにコテンくんに誓言してもらうってことだよね、大変じゃないかな?」
「それくらい僕はいいよぅ。僕自身の身を守るためでもあるからねー。それより、誓言にはセイの協力が絶対に必要なんだよね、言葉が通じないと無理だからー」
「それは、……そうだよね」
「うん。でー、セイってさー」
コテンくんがまっすぐに僕を見つめて、真剣な空気を出して問いかけてきた。
「ずっとここに居られるのー?」




