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40.大きい、小屋?


「──ハァ……ッ!」


 気合いと共に前へと突き出した僕の手のひらから、まばゆい光が! ……出ない。

 なんなんだよ、もう。


 白い変な生き物が去った後、その生き物が巻きついてた木にたくさん咲いてた白い花が全部消えてて、代わりに青緑色の小さい葉っぱがわっしゃわっしゃと風に揺れていたんだ。


 ……もしかしなくても、あの生き物はものすっごく強い神気の持ち主だったのでは?

 ここに来れるのは神気だか神力だかの強い生き物だけだってロウサンくんも言ってたし。それに両目が金陽と銀陽にそっくりって、相当な特別感がある。


 ということは僕はさっき、そんな生き物に“何かは分からないけど不思議な力”をもらえた?

 そんな期待をしたのは、当然のことだと思うんだよね。


 筋力アップしたのかな、なんて期待しながら大きい石を持ち上げてみたら、普通に重かった。小石を握っても砕けるどころか、手が痛くなっただけだった。その場でジャンプしてみたけど、高くも跳べず、空にも浮けず。


 もっと変わった能力がもらえたのかも、とドゴナル国の人間としてまず錬金術を試してみた。

 確か錬金の授業によると、物質は全て【気素】という、神気、幻気、聖気、魔気、あとなんだっけ、そういう基礎となる……なんだっけ、そういうのがあって、それらの量と質と組み合わせによって出来ているからー、だからー、錬金スキルで気素に分解して、抽出、選択し、えーと、それを他の気素や何かと練り直すことによりー、他の物質を作り出しー、かつ、なんとかという回路を付与することによりー……。


 ……もうね、ほぼ忘れてるよ……。


 錬金の授業なんて僕には関係ないし理解できないしで、まともに聞いてなかったんだよ。ほとんどの子が無関係なんだけど、でも国としては一人でも多くの錬金術士を誕生させたいから、とりあえず子供全員に基本的なことを学ばせて伸びそうな子は王都へ、っていう、ね。


 錬金知識は曖昧だけど、謎の力が発動してやってみたら意外に出来るかもしれない。

 いくぞ、小石を【気素】に分解……! 出来ない。出来ないと思いました! ちくしょう。


 えーと、あと不思議な力と言えば。ロウサンくんの物を浮かす……はい、念じても小石はピクリとも動きません。

 それから色々試してみても何も起きず。ヤケクソで気合いと共に手のひらを突き出して、それも無意味に終わったところだった。


 さっきの、光が僕めがけて降りそそいできたアレはなんだったんだ。力をくれたのか、なんか思わせぶりな事をしてみただけだったのか、ハッキリしてよ。

 恨めしげに木を見つめたら、葉っぱが上下に小さく揺れた。『お主、先程から何をしておるのだ』と笑われた気がして、恥ずかしくなってきた。僕の同意無く意味不明なことをしたそっちに問題があると思うんだけどな。

 ここは一旦諦めて、言葉は通じるんだから次に会えたら何だったのか聞こう。


 すっきりしない気持ちのまま、とりあえず玄関へ……うおっ、びっくりした。

 ロウサンくんと親熊さんと子熊くんたちが、玄関先を囲むように並んで座ってこっちを見てた。大人組はみんな大きいから壁のようになってる。


『セイくん、少し前にそちらから清冽かつ清麗な神力の流れを感じたんだけど、なにがあったのか分かるかな?』

「あー、向こうの庭に、白いトカゲみたいな生き物がいて、少し話したんだ。その時に光ってたから、それだと思う」

『──その生き物はどうしたのかな?』

「すぐに木に登ってどっかに消えてったよ。僕もよく分からなくて……」

『そうか。……そうか。うん、セイくんに害が無かったのなら、それでいいんだ。でもこれからどんな生き物がやって来て、そいつがセイくんに害を与えないとも限らない。あまり一人にならないで欲しい』


 いや、トイレとシャワーは一人になりたい。ロウサンくんは心配してくれてるのに、ハッキリ断るのも悪いけど……なんて考えてたら、アズキくんキナコくんが「そんなとこにみんなで固まってどうしたんや」とタタタッと軽快な足取りで近寄ってきた。そしてそのまま僕の体を駆け登り、右肩にアズキくん、左肩にキナコくん、頭の上に飛んできたシマくんという姿になった。

 ロウサンくんが小声で『可愛い。良い。筆舌に尽くしがたい』って呟いてるけど、そこまでではないと思う。


 そんなことより、家主のこの子たちには庭に何かがいたって報告したほうがいいよね。だったらコテンくんにも説明しなきゃいけなくなるんだろうし、いっそ移動して落ち着いてからにしよう。


 玄関先はどういうわけか暖かい風が当たってるけど、そうは言っても屋外だからね。いつまでもは居たくない。ロウサンくんがせっかく乾かしてくれた親熊さんの毛も、ちゃんと屋内にしまいたい。でも親熊さんたちやロウサンくんは大きさ的に、この家の中には入れそうにないんだよな……。

 相談するとキナコくんが「だったら」と閃いてくれた。


「向こうに小屋と言いますか、そこそこ大きい建物があるのでそっちへ行きましょう」

「せやな。暖炉と、小さいけど炊事場も付いとるし、ちょうどええやろ」

「何から何まで、ごめんね」

「セイが謝ることやない。ほいじゃーキナコと先に枝払っとくわ。行くで、キナコ!」

「はいっ」


 アズキくんとキナコくんがカッコよく走り抜けざまに庭の小道を遮っていた枝を切り落とし、落ちた枝を親熊さんと子熊くんたちが手で払いのけて通り道を復活させ、ロウサンくんはカゴ一式を浮かして運び、キラキラさんには移動することを伝え、僕はコテンくんとミーくんの寝てるカゴを抱えて、短い距離を歩く。


 そして到着したのは、“小屋”なんてサイズの建物じゃあ、なかった。僕のいた村の講堂より大きいんだけど……? しかも変な造りだ。


 建物に巻きついていた太い枝を樹ぃちゃんたちに動かしてもらっても、ロウサンくんたちが入れそうな大きさの窓なんて無い。でも入れる、んだよね?


 アズキくんがお腹のポケットから鍵を出して……止まった。はい、抱っこして持ち上げるよー、ここでいい?

 鍵開いたみたいだけど。そのまま横へ移動? アズキくんが壁の隙間に手を入れて、緑色の神虹珠を二つ取り出してカチカチと打ち鳴らし、横にあった窪みに嵌めて、押した。


 すると、二階建ての高さのある木製の一枚壁がギシリギシリと音を立てて、誰も押してないのに横へスライドするように動いていく。ちょ、え? どういう……?


「ここでは誰も見てないからって、お師様が一切の自重を捨てて作った自動ドアですぅ」

「ちなみに天井も動いて開くように出来とる」

「意味が分からない……」


 この子たちのお師様って、どういう人だったんだ……。でかい壁が勝手に動くのをビビりながら見ていると、最終的に建物の壁の横半分が全開になった。こんなに大きく高い扉、初めて見た。馬小屋でもここまでの広さはいらないよ。

 中にもう一枚、同じ大きさの横開きの扉があってそっちも開いていった。

 どんな部屋なんだろうとドキドキしながら入ると、そこにあったのは、まさかの“部屋が一つだけ”だった。


 すごいよ、この広さでひと部屋。二階建て以上の高さがありそうなのに、ひと部屋。めちゃくちゃ天井が高い。講堂っぽいけど、机や椅子もないし、祭壇もない。それどころか荷物も何も無い、ただの空間。

 倉庫じゃないよね、だって床が家の中と同じように一段上で床板が敷いてある。広灯具もたくさん。壁は白い……木製じゃないな、石でもなさそう。四隅に暖炉、入り口付近に小さな炊事場が部屋分けせずにある。

 談話室? それにしたって広過ぎる気が。


 アズキくんが「さすがにホコリっぽいな」と言いながら壁のほうでゴソゴソしたら、入り口以外の三方の壁にあった窓も自動で開いて、爽やかな風と共に埃が隅から隅までスッキリ綺麗に外へ吹き出されていくのが見えた。

 謎の力だ。でも慣れてきたから驚かないよ。……本音を言えば声を出すのを我慢した。便利通り越して気持ち悪いよ……。


「それも君たちのお師様の発明なんだ? すごいね」

「いや、窓はそうやけど、……風はちゃうで」

「今の、風の神様ですよね。ここの神様って、下界で物理的に干渉することほとんど無いはずですよね?」

「滅多に無いからこそ、あったらまさに奇蹟やって言うてはったよな。──あ、暖炉の火が」


 暖炉から赤黄色い光がふんわりと広がって、窓が開いてるこのだだっ広い空間が一瞬で暖かくなった。


「なんでこんな大盤振る舞いなんや……」

「なにが起きてるんでしょう……」


 本当にこれが神様の力なら、えーと、もしかして君たち、【神子】なんじゃないかなあ? しかも最高位の。


 ……そうなると、この丸くて可愛いイタチくんたちが、国の【最高権力行使者】になる可能性が、あるね……?


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