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32.庭_誓いの検証。検証?


 父熊が空を仰いで、渋い声で呟いた。


『初めの誓言は神気が天に一直線に登る見事なものだったが、只今の私たちの誓言は神気が虹色に光って空気に広がり、清々しい風のように巡り、そして天から降り注ぐ美しいものだった。このような素晴らしい誓いを立てられたことを誇りに思う』


 あの、誇りに思ってるところ申し訳ないけど、失敗してる可能性があるわけですよ。コテンくんの誓言はすごくても、誓う相手が僕じゃあんまり効果が無さそうで……。本当にちゃんと成功したのかな?

 そう尋ねようと見たら、コテンくんが「あれぇー?」と首をひねっていた。うわ、やっぱり失敗してた?


「ねぇセイ、さっきの誓言の時ねー、もしかして他の幻獣もセイに誓ってたー?」

「えっ? あ、うん、多分だけど、コテンくん以外の全員……」

「あー。あー……全員かー。うーん」


 【幻獣】という言葉も気になるけど、コテンくんの、困ったなぁみたいな態度のほうがめちゃくちゃ気になる。なんなんだろう、みんなに悪いことが起こる内容なのかな……体が震えてきた。せめて誓言を破棄したらなんとかなる内容であって欲しい。


「あのねー、セイの名前にはシュリ様やボクほどの力はまだ無いからね、この地の神様たち全員の力ももらう形で誓いを立てたんだよねー。アズキとキナコだけならそれで問題無かったと思うんだけどー」

「……だけど?」

()()()の神気は考慮してなかったからねー。……すごく、非常に異常に過剰になったっていうかねー。神獣と幻獣がほぼ神域になってるこの地で誓っちゃったわけ。だからね、予定よりも強い誓言になったかなー? みたいなー?」

「ちょっと待って、それってみんなに害があるってこと? 破棄ってできるよね!?」

「害は無いよー。効力の及ぶ範囲が広くなったのとー。──セイに神気が集まって、まぁちょっと神力強くなったかなー? みたい、なー? でもちょっと増えた気がするなーっていう程度だよー。……多分」

「多分ってなに!? あ、みんなに害は無いそうです! 良かった! 効力の及ぶ範囲が広くなったそうです」


 僕の言ってる内容しか分からないみんなに、まずは説明しとかないと。不安にさせる言い方しちゃったからね。そして急いでコテンくんに続きを聞こうとしたら、ロウサンくんから質問が飛んできた。


『セイくん、教えて欲しいんだけど、今の誓言は具体的にはどういう内容だったんだろう』

「えっ」

『勿論主題は分かっているよ。不都合があったわけでもない。逆なんだ。制約を受けるだけのはずが、何故か加護まで授かったみたいでね……。神気が増えたというか』

「あ、それなら今僕も聞いてたところだったんだけど、コテンくんが言ってた誓言は【身の危険がない限り、今ここにいる生き物を攻撃しない】で、制約の内容はそれで全部。でもこの地の神様全員の力ももらう形で誓いを立てて、しかもみんなの神気が強かったから、過剰になったんだって。それが影響してるんじゃないかな」

『ああ、そういうことなのかな』


 今ひとつ納得しきれてないみたいだけど、一応頷いてた。

 僕が「えっ」と言ったのは、内容の分からない誓言に乗っかって祈ってたことに対して、だったんだけど。アズキくんも同じことを思ったみたいで「あいつら、誓言の内容を今知ったんか? どんな制約受けるか分からんのによう誓えたな、勇気あんなー」と呆れたように見回してる。その呟きにコテンくんが反応した。


「それはアレだよ、セイを信頼してるからだと思うよー。さっきみたいに、害がありそうな内容だったら教えてくれる、絶対に止めてくれるって信じてるんだよ」

「そりゃ僕は言葉が通じるから、変な内容だったらすぐ伝えられるけど……」


 そこまで信頼される理由が分からなくて戸惑う僕に、優しい声で笑いながらコテンくんが続けた。


「いくらなんでも言葉が通じるだけの人間を信頼したりしないよぅ。セイだからだよ。こう見えてボクも、彼らも、それなりに長生きしてるからね。人を見る目にはちょっと自信があるんだー」

「そ、そうなんだ……?」


 これは褒められてるんだよね。うーん、慣れてないからちょっと照れてしまう。赤くなりそうな顔をごまかすために俯いて子熊くんのほっぺたを揉む。おお、もっふもふ。


『セイくん、誓言の検証をしたいから、そこの能無しに攻撃してみてもいいかな』

「の……。あ、キラキラさんか。検証って?」

「検証! 検証は大事やな! 俺らも協力するわ!!」


 キラキラさんは体全部が透けてて、どこに脳みそや内臓があるのか分からないけど、能力的には有能だよ……。ロウサンくんはどうしてキラキラさんにそう厳しいのか。

 やたらやる気になってるアズキくんによると、どの行為が“攻撃”と判定されるのか、“身の危険”がダメージを与えられてからなのか、危険を察知した段階から有効なのか、色々検証したいんだそうだ。えー、そもそも攻撃しなければ済むことじゃないの?


「戦闘訓練したいやん!」

『俺は自分と互角相当の相手に会うのは初めてなんだ。興味がある』


 僕には理解できない感覚だ。でももしここにジンがいたら、真っ先に剣を振り回しに行きそうだよなぁ。……うん、なら仕方ないな。

 検証って必要なものなんだね? 戦う生き物にとって、どういう状況で動けなくなるのか正確に把握することはとても大事、なるほど。どういうことするの? まず攻撃できるか試してみたい、実際に傷つけるつもりは無い、うーん、そういうことなら大丈夫かな。じゃあ訓練みたいな感じならやっていいと思うよ。みんなに伝えてみるね。


 親熊さんたちは、体調が本調子じゃないから遠慮するそうだ。というか、参加しようとした父熊を母熊が殴って止めてた。お大事になさってください。キラキラさんはロウサンくんに向かって足をクイクイと動かして『ハァン? いいわよ、坊や。遊んであげるわ』だそうだ。なんだろう、この“強者の余裕”感。


「はい、じゃああの広い場所でやってください。ただし怪我は絶対にさせないように。あ、キラキラさんは体に触ったら死んじゃうんだっけ、危ないよね?」

『あの時は死にかけで力の調整できなかったからよ。今は問題無いわ』

「今は触っても大丈夫だって。ロウサンくんは気をつけることってなにかある?」

『特に無いけど。そうだな、擦り傷くらいは許して欲しいな』

「そうだね、お互い擦り傷程度までで抑えてください。それじゃ最初はロウサンくんとキラキラさんね。気をつけて」


 コテンくんが検証現場じゃなくて僕のほうをじっと見てる。どうしたの?


「セイに誓ったからセイが許可すれば攻撃が可能になるってさー、理屈としては分かるけどおかしくない? しかも擦り傷までは許すとかって、そんな細かい条件付けが追加で通るのおかしくない? 普通は破棄して誓言し直すんだよ?」

「僕に言われても……」

「まーね? そもそも普通は誓約相手に直接訴えたりしないからね。なんだかなぁ、今までの常識は捨てたほうがいいってことだよねー。これが一番の検証結果だよ、ビックリだよ、もー」


 ボクもセイに誓い直そうかなーって、やめて。コテンくんの誓いはなんか重そうだ。

 検証すると言ってたのに静かだった二人が動いた、と思ったらロウサンくんの前に氷の壁が出来て、バリィッとすごい音を立ててから眩しく光り、その次に見た時にはロウサンくんの体にキラキラさんの足が絡まった状態で地面に倒されてた。そのキラキラさんの頭上には氷の尖った棒が三本、今にも突き刺さりそうな位置で止まってる。うん? なにが起きたの?


「ロウサンが氷撃を出した、その瞬間にクラゲも雷撃を出し、射速はクラゲの勝ちやった。

 そしてその攻撃をロウサンが氷の壁を出して防いだ、これに雷撃がぶつかり爆発、稲光りで目潰し状態。瞬時に距離を取るクラゲ、頭上に気配が、と見るとあるのは氷塊。つまり囮……! しかも咄嗟にそれに攻撃してしもたことで砕け、頭上からのつぶて攻撃と目隠しになりよった!

 その隙をついて地面スレスレをロウサンがちょっぱやで右側から駆け出し、一瞬だけスピードを落としてフェイント、そのまま左側まで回り込み嚙みつき攻撃! しかもそれと同時にクラゲの後ろを取る形で氷撃を撃ち込むというえげつなさ!

 しかし!! クラゲがそれを全部躱して尻尾に足を絡めて自分の何倍もあるあの巨体を地面に叩きつけた! あのロウサンに立て直す隙を与えずすぐさま体を拘束し、一気に突き刺して終わり、かと思ったがさすがロウサン、クラゲの頭に氷撃を突きつけよったんや!!」

「……つまり?」

「この勝負、引き分け……! 良い戦いやった! うおおおおおお!!」

「検証ちゃうやん」


 呆れてつい僕まで訛っちゃったよ。検証どこいった。


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