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隠された神域で幻獣をモフるだけの簡単なお仕事です  作者: 紺たぬ壱
番外(エイプリル企画)異世界に召喚されましたが、僕は【ハズレ】だそうです。
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番外 53_【火の遺跡】5 注意事項の説明


 炎鳥スザクの頬にヒゲのように生えていた長めの羽を一本、セイは受け取った。


『その羽が、我、火の鳥が認めた証。念じれば目指すべき先を指し示す。貴重なものなのでな、大事にせよ』

「うん、大事にする。ありがとう」

『よし、よし。では羽の注意事項を言うのでな、よく聞くのだぞっ』

「……注意事項?」


 そんなのあったのか?

 リヴァイアサンもフェンリルも、注意事項なんてひとつも言ってなかった。まさか、濡らしちゃいけないとか、必要なとき以外は魔力を流しちゃいけないとか、そういう“やってはいけない決まり事”があったのか? セイは自分の手首に巻いてある鬣とヒゲを怖々見つめた。


『では言っていくぞっ。その羽は()()()()()()渡したものだ。だから他のニンゲンにあげてはいけない』

「あ、そういう……」

『その羽で最後の巣を目指したり、巣の中の階層を自由に跳んで移動出来るのは、我が認めて渡したものだけだ。しかし、我の魔力が豊富に込められておるのでな、この巣の扉を開けるだけならば、持っていれば誰でも開け放題になってしまうのだ。だから、誰かにちょっとだけ貸す、なんてのも駄目だぞっ』

「うん、分かった」


 分かったと言いながら、実はセイはピンときていなかった。だって、相当な苦労をして入手した羽を他人にあげる人なんて、いるのかな? しかしそう考えたのはセイだけだったらしく、通訳して伝えたカワウソたちとコテンは揃って「あー……」と納得した声を出した。


「あげるっちゅーか、売る奴はおったやろな」

「あとは盗まれたり、騙し取られたり、襲われて奪われたりなんかもあったと思いますよ」

「しかも今は遺跡(ダンジョン)の中で入手した物って、全部ギルドに報告しなくちゃいけないんでしょー? 絶対に取り上げられるに決まってるよ。むしろその羽とかヒゲのせいで、入手物の全てを報告しろなんて制度が出来たんだって言われても、ボクは驚かないかなー」


 なるほど。それにしても、よく咄嗟に色々思いつくよな、この子たち。感心していると、視線を感じた。


『話し合いは終わったか? じゃ、続けるぞっ』

「ごめん、お願いします」


 炎鳥は、セイたちの会話がひと段落つくまで待っていてくれたらしい。親切。


『では次の注意事項だ!──群れの仲間を増やす場合は、強さだけでなくニンゲン性を大事にして、慎重に選びなさい』

「群れの仲間を、増やす……」

『そうだ。これまでに羽を渡したニンゲンは、再びやって来た時に何故か、群れが大きくなっているのだ。仲間が殆ど入れ替わっていたこともあったな。増えたり替わったりは構わないのだが、後から増えたニンゲンは【箱】の審査を通らずに直接最下層まで来れるのでな。性悪な奴が群れに紛れ込んでやって来る事があるのだ』

「そんな事が……」


 それは箱と羽のシステムそのものに根本的な問題があるのでは? 思ったが、“ダンジョンの作成と管理をしていた月絲(げっし)族の滅亡”という、改善可能な手段が消えてしまっているのに、言える訳もなく。曖昧に相槌を打った。


『前回来た性悪な奴らは、我の前に来るなり突然、群れの主と仲間たちを攻撃して倒してしまったのだ! ビックリしたのだ』

「仲間割れかな。まさか人間同士で戦い始めるとは思わないよね」

『いや、それは結構ある』

「あるんだ……」

『良き道具や魔環を手に入れた後、ニンゲンたち同士で戦い始めるのはよく見るぞ! 前の奴は、来るなり群れの主を倒してしまったので、ビックリしたのだ。どうしてそんな自殺行為を……ん? ニンゲンは知らぬのであったかな!? うーん……よしっ、一応忠告しておくぞ!』


 話している途中で何か思い当たったらしく、炎鳥はセイをじっと見つめてきた。その眼差しは、厳しくも優しい。


『絶対にやってはいけない事がある。群れの仲間を、巣の中で、倒してはいけない』

「それは……そうだね……?」


 (おごそ)かに告げられたが、セイからすれば当然で常識な内容なので返事に困る。


『襲われても、だ。ある程度弱らせるのはいいが、トドメを刺すのは巣の外まで運んでからにするのだ。仲間を害すると【竟門(キョウモン)】に嫌われて、魔法を全部取り上げられちゃうんだぞ!』


 待って、ツッコミ所が多い。


「巣の中で仲間にトドメを刺すと、【竟門】さんに魔法を全部、奪われる……?」

『そうなのだ。竟門は魔法を与えるが、奪うことも出来る。竟門は群れの仲間を裏切る卑怯者が、大ッ嫌いだからな! 巣の中で仲間を傷つけたら全ての竟門にバレて、持ってる魔法を全部奪われるんだぞっ』

「え、こわ」


 セイとしては魔法全部没収よりも、竟門とやらがダンジョン内の、全ての人間の、全ての行動を監視している方に、恐怖した。

 ここに来る途中、騎士や冒険者のオッサンがそこらで立ちションしていた、アレも竟門がどこからか見ていたわけだ……竟門だって見たくなかっただろうけど。


 仲間に通訳して伝えると、「奪われるのは竟門が与えた魔法だけなのか、先天的なものも対象か?」「魔槞環や殻魔環の魔法も奪えるのか?」と疑問が飛んできた。何事に対しても、まずは仕組みの方に興味を向ける子たちだな……慣れているので、律儀にセイは代理で質問。答えは、先天的な魔法も奪われる、魔槞環の魔法は魔獣のものなので奪えない、殻魔環は試したことが無いので分からない、だった。

 結果を聞いてボソボソと話し合っているカワウソたちは一旦横に置いて、セイも気になったことを炎鳥に尋ねる。


「襲われて反撃した状態、つまり自衛でも、【竟門】さんに怒られるのかな?」

『必ずしも先に手を出した方が悪いとは限らないのでな。それに、群れを裏切るような魂の汚れた奴を仲間に入れた方も悪い、ちゃんと躾けられなかった方も悪い、そう判断されてしまうのだ』

「結構厳しいな。でも仲間を裏切るような人は、巣の中もめちゃくちゃにしそうだしね。そんな悪人を入れた方が悪いって考えると、妥当なのかな。……さっき、ある程度は倒してもいいって言ってたけど、ちょっとした喧嘩くらいなら大丈夫?」

『勿論だ! ただのぶつかり合いで魔法を奪ってたら、みんな魔法無しになっちゃうんだぞっ。殺意がダメなんだ』

「殺意……」


 倒す、の意味がセイが想像していたよりも重かった。


(じゃあ、ダンジョン内で死なないのは魔獣だけで、人間は……)


 仲間を倒して魔法を奪われた人は、その後、魔獣に襲われて……? 想像が進みそうになるのを、意思の力で止めた。


『殺意を抱いた時点で【箱】が怒りの雷を落とし、【竟門】が魔法を奪うのでな。トドメを刺したいと願うのは、巣の外に出てからにするのだぞっ』


 想像とは少し違ったようだ。


「……えーと、倒された人って、ご存命でいらっしゃる?」

『巣の外に放り出した時は命があったが、あとは知らない!』

「そっかぁ。話を戻すね、倒しちゃダメなのは、群れの仲間だけ?」

『仲間だけだ。他の生き物も倒しちゃダメにすると、ニンゲンは我らとも戦えなくなってしまうのでな』

「それもそうか」


 攻撃されてもダンジョン内の魔獣たちは実際には死なないけれど、冒険者や騎士たちは倒すつもりで入ってきているのだ。対象を限定せずにただ“殺意でアウト判定”だと、人間は誰もダンジョンに挑戦出来なくなったしまう。


『おぬしたちは強い。だが善良であるが故に、仲間相手に油断することはあるだろう。仲間を増やす場合はくれぐれも慎重に選ぶのだぞ!』

「心配してくれてありがとう。この先、僕たちが仲間を増やすなんて……」


 無いだろうけど、と言いかけたが、冷静に考えれば勇者ウグスを連れて来る可能性はある。もしかするとギルド職員のトアルも、好奇心の強い彼に「見るだけだから」と頼まれたら、連れてくる可能性だけならある。その二人は信頼できるが、しかしトアルがセイたち側に付いたのだって予定外だったのだ。他に仲間になる人間が増える……あるかな? でも人間以外の仲間が増えることなら、きっとある。


「……気をつけるよ。色々教えてくれてありがとう」

『うむ!』

「他にも注意事項ってあるのかな?」

『一番大事なのがあるが……おぬしには関係無いな!』

「えーと、一応教えてもらっていいかな? 念のため」

『うむ? では一応な。羽を使って階層を移動するには、魔力が必要だ。距離で必要量が変わるから、地上一階から最下層まで一気に跳ぶと、倒れるぐらい大量に魔力を消費する、のだが、おぬしはピョンピョンピョピョピョピョンピョン連続往復しても余裕だろう。なっ? 気にしなくていいだろう!?』

「……一応気をつけるよ」


 そんな軽快に何往復もしないだろうけど、突然魔力が枯渇する事態が、絶対に無いとは言い切れない。覚えておこう。


『そんなところだな。では加護を授けるぞっ』

「待って、実はまだ他にも仲間がいるんだ」


 ロウサンを連れて来ていない。ダンジョンは地下遺跡なので、馬よりも大きい天狼のロウサンには通れない場所があるかもというのが理由の一つ。

 もう一つは、ロウサンの全魔獣に与えるプレッシャーの強さを考慮して、だ。フェンリルたち相手ほど影響はないにしても迂闊なことはできないと、初回である今回は別行動にした。先に説明して心の準備をして貰ってからの方が良い。


(ロウサンくんって気配を殺すのはめちゃくちゃ上手なのに、認識した途端にオーラがエグい、存在感の強さで倒れそうになるってみんな言うんだよなー。ロウサンくん、性格は穏やか紳士だし、慣れれば全然平気になるんだけど)


 しかし初対面の魔獣たちに「本当は怖くない、大丈夫だから耐えろ」と言うのは酷だ。

 炎鳥と相談して、”とりあえず連れて来て、無理そうなら、すぐに去る”というやり方に決定。

 ダンジョン地上一階の出入り口の混雑っぷりから、騎士たちが()けそうな夕方に出直すことになった。


 一旦外へ出てロウサンと合流し、時間潰しがてら周囲を見て回り、騎士団が去って冒険者たちがまばらに残っているだけになったところで、再入場。羽を使って最下層まで一気に跳ぶ。


 火の遺跡の魔獣たちはロウサンを前に、しばし完全沈黙。それから一斉に絶叫した。その叫びは悲鳴ではなく、歓声だ。


『カッケェ──!!』

『ヤベェ絶対強ぇえ──!!』

『『『戦いてぇ──!!!』』』


 戦いたいって言ってる魔獣がいるけど、どうする? とセイが言った直後、ロウサンは氷撃を三本、鎌形態で刃を水平に出し、高中低の高さで横薙ぎに振り抜いた。まさに一閃。炎鳥を含む全魔獣が消えた。


(今のは戦いというより、一方的な殺戮なんじゃ……)


 いくらダンジョン内では死なないとはいえ、ロウサンのあまりの躊躇いの無さ、容赦の無さ、感情の揺らぎの無さに、セイは顔を引きつらせた。しかも無差別攻撃だった。多分、ヒノタマスライムたちは戦いを希望してなかったんじゃないかな……惨い。


 帰って来た炎鳥たちにセイが謝ると『いや、素晴らしい経験だった! 良い刺激だったぞ、ありがたいっ』とお礼を言われてしまった。正気を疑う。たまに命ギリギリの感覚を楽しむ幻獣に会うけど、同じタイプなんだろうか。セイには理解出来ない感覚だ。理解出来ないからといって、否定も拒絶もしないが。


『だがこのまま目の前にいると、うっかり忠誠を誓ってしまいそうなのでな。ピャッと加護をやっちゃうぞ! ──おぬしたちみんなにまとめて加護を授ける、魔界の猛炎が…………あー、安心安全? な、灯火(ともしび)となるよう』


 今、まさか、もしかして、途中言う内容を忘れて、適当に誤魔化さなかったか? そんな加護で大丈夫なのか? セイの胸中を不安が過ぎる。

 しかし炎鳥は堂々と顔を上げ、「キュォオ──ン……」と天へと抜けていくような、高く澄んだ鳴き声を響かせた。


『よしっ、気持ちは込めた! 大丈夫なんだぞ!!』


 ……本当に大丈夫かな?


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