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第2王子との再会はそれからすぐ訪れた。それも今度は公爵邸ではなく、宮殿で。
(いやいや、おかしいでしょ)
実際どこもおかしくはないのだが、どうしようもない拒絶反応は私の思考をショートさせた。私と父は案内役の騎士についていくまま、宮殿を歩いている。吹き抜けの廊下から見える中庭は美しくつい目を奪われる――――
……振りをして内心現実逃避のために眺めているだけだった。
国王の謁見室は重厚な扉で守られていた。豪華絢爛に掘られた彫刻は、ブラウンの鳶色一色のはずなのに圧倒される美しさをもっている。扉の両側に立っていた騎士が私たち一行に礼をすると二人で双方の取っ手を掴み、左右の扉を開けた。今まで暗いところにいたせいか、突然の光に思わず目を凝らす。
慣れてきたときに見えたのは、大きなホールだった。20メートル先には国王であるグランバレル・クロネテス国王陛下の姿が見える。1メートル程の高さはある舞台の上に、美しく金の装飾がされた椅子に腰かける姿は威厳ある国王そのもの。その舞台に続く階段から私たちの目の前まで一直線にワインレッドのカーペットが敷かれている。
上から灯されている光は自然光のようで、天井近くにある窓から差し込まれている。天井も高く優に5メートルはありそうだ。
「ベルフェリト公爵、並びにベルフェリト公爵令嬢をお連れ致しました!」
先導していた騎士の大声に体がビクリと跳ねる。
(びっくりした)
しかし、周りは全く動揺している様子がない。私一人だけが驚いていたのが急に恥ずかしくなる。
歩き出した父の斜め後ろを付いていきながら、国王陛下の方へ近づいていく。舞台に続く階段の2メートルほど手前まで歩いていくとそこで立ち止まった。
父は片膝を付き、それに合わせて私はドレスを踏まないよう広げながら両膝をついて頭を深く垂れた。
「お呼びいただき感謝いたします、国王陛下。こちらは娘のエスティです」
「お初にお目にかかります、ダント・ベルフェリトの娘、エスティ・ベルフェリトと申します。お会いできて光栄でございます」
今度はきちんと自分から挨拶ができた。
(そういえば正式に挨拶するのは前世を通しても初めてね)
そう考えると不思議な気分だ。前まではこうして頭を垂れる者たちの姿を見てきたばかりで、こうして誰かに頭を垂れて見上げることなど一度も無かった。
「二人とも、もう立ってもよろしいですよ。それと顔を上げて下さい」
凛とした声の通りに立ち上がって顔を上げる。
(やっぱりきれいなお顔)
昔どこかのパーティーでお見かけしたときは遠くてはっきりと見られなかったが、こうして近くで見ても当時と感想は同じだった。ストレートの金の御髪に深紅の瞳はこの間会った王子と全く同じもの。
彼の容姿はどうやら父親譲りらしい。
(……でも国王陛下も黒髪じゃないのね)
面影が似ているのも相まってその違和感がどうしても目についた。
「今日はベルフェリト嬢にお会いしたくて無理に公爵に頼んでしまいましたが。来てくださってありがとうございます」
「いえ! とんでもないです。こちらこそ、お招きいただいてこんなに近くにご尊顔を拝めるなんて、恐悦至極です。ありがとうございます」
「ふふ、面白いご令嬢ですね。ベルフェリト公爵」
私の言葉に陛下は笑い、父は額に手を当て困り果てている。
(あれ? 私もしかしてすごく変な事言った?)
思い返してみてもどこが悪かったのかわからず困惑する。前世はあまり敬語に親しくなかったから、失礼のないように勉強したつもりだったのだがうまくはいかなかったようだ。
ひとしきり笑ったあと、私に向かって陛下は微笑む。
「あなたのような方なら安心ですね。ヴァリタス、こちらへ」
「はい、陛下」
舞台の袖から誰かが国王陛下の方へ歩み寄る。他でもない、今国王陛下に呼ばれた第2王子ヴァリタス殿下だった。舞台の隅にずっと彼はいたようだが、全く気がつかなかった。
国王陛下の近くまで来ると彼は腕を後ろで組んで立ち止まった。こうして見比べてみると本当に似ているのがわかる。きっと国王陛下の幼少期は彼と全く同じ容姿をしていたに違いない。
「ベルフェリト嬢、申し訳ないが私は君の父上と話がある。その代わりといっては何ですが、息子が相手をしますので話が終わるまで宮殿で待っていてくれませんか」
「は、はい!」
ヴァリタス王子は階段を降りて私の近くまで来ると手を差し出す。
「それでは行きましょうか。エスティ嬢」
「はい」
その手を取ると引っ張られるように手を引かれながら、王子と共に謁見室を後にする。
(え? これで終わり? 私なんで呼ばれたの?)
結局顔見せだけで終わってしまい、自分が呼ばれた意味がわからない。後ろを振り返り国王陛下のお顔を再度拝見してみるが答えは見つからなかった。
***
扉が閉まり、2人が出ていったのを確認すると国王陛下は口を開いた。
「本当に可愛らしく面白い令嬢ですね、ベルフェリト公爵。さぞ大切にしてきたことでしょう」
「とんでもない、不出来な娘です」
いまだに娘のしたことが恥ずかしく、ダントは顔を片手で覆っていた。
「そうですか?歳以上にしっかりしたように見えましたよ。」
(第2王子の方がよほどしっかりしているように見えますがね)
口にはしないがそう反論したかった。
この間初めてお会いした第2王子ヴァリタス殿下は大人顔負けの落ち着きさを持っていて不気味に思えたくらいだ。娘のエスティでさえ、彼女が歳以上の行動をするだけでも内心驚くのに彼はそれ以上。
(一体どんな教育をすればあのような王子が育つのか)
将来はきっとこの笑顔を絶やすことのない国王陛下と似て、心の内が全く見えない人物になるのだろう。そう思うと、少しだけ娘を嫁がせたくなくなった。
「それにしても、あなたがなぜヴァリタスと婚約を結ぶのを渋っていたのか、分からないくらいに可愛らしいお嬢さんでしたね」
目を細めてダントを見つめる陛下の目は、まるで心の内を見透かそうとしているように思えて背中に悪寒が走った。娘の前世について、現時点で国王陛下に知られることはないだろうが、それでも何かへまをすれば確実に陛下の耳に届くだろう。
もし知られてしまえば、最悪爵位の返還だけでは済まなくなる可能性だってある。
なんとしてでも隠し通さなければ。そして必ず娘を守らなければ。
「それより陛下、話というのはどのようなもので?」
「そうでしたね。ここでは何ですから、場所を変えましょう」
話題を変えるように話を逸らすと、彼の鋭い目はいつもの笑顔に掻き消えた。椅子からマントを翻すように立ち上がると、ダントの横を通り過ぎ、先導される形で別室へと案内された。




