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「ごめんなさい、メドビン嬢。ちょっと嬉しすぎて調子に乗ってしまったみたい」
「い、いえ……」
先ほどまでと違い、少し落ち込む私の温度差に違和感を覚えたのか彼女は少し動揺していた。しかし、目を瞑りすうっと息を吸い深呼吸した後開かれた瞳はどこか優し気なものに変わっていた。
「あの、ベルフェリト様。私嬉しかったです。頼っていただいたのも、先ほどのように抱きしめてくださったのも」
「えっ?」
突然の告白に驚き頭が真っ白になってしまった。
それってどういうこと?
私のしたことに喜んでくれたってこと?
でも今したことは、私にメリットはあっても彼女にとって良い事なんて1つもなかったように思うけど。
しかし、どこか嬉しそうに言う彼女は少し俯きがちだが彼女の頬はほんのりピンク色に染まっていて嫌そうな気配はない。それにどこか照れているような表情だった。
その表情を見て、ますます理解できなくなった。
「私、貴族のお友達っていなくて……。平民だったころもお金持ちだからって遠巻きにされて、あまりお友達を作れなかったんです。だから、ベルフェリト様のような方にこんなに仲良くさせていただくことが嬉しくて……」
彼女の言葉に、やっと彼女の心情を理解できた。
そう、そうだったんだ。
こんなに可愛らしく、優しい彼女でも私みたいに友達が全くいないなんてことになったりするのね。まぁそういう事を意図的に避け続けた私と違って、彼女の場合は殆どが環境の所為なんだろうけど。
でもきっとそれは、彼女にとってとても寂しい事だったのかもしれない。私の場合は、自分から遠巻きにしていたというのもあるけれど、前世の事や婚約破棄の事で頭がいっぱいで友人が居ようが居まいがどうでもよかった。
ただ、家族さえいればそれだけで幸せだと、そう思っていたから。
まぁ、結局駄目になってしまったけど。
でも彼女は違う。
聞いたところによると、どうやら兄弟もいないらしいし、この口ぶりからして同年代の人と関わること自体あまり経験がないのだろう。
そんな彼女にとって初めて出来た友達と言って良いほどの相手が私やナタリーだった。だから、先ほど彼女はぎこちないがならも喜んでくれたんだ。私が彼女とスキンシップを取っただけで、嬉しくなってしまったんだ。
なんて純粋で、綺麗な子なんだろう。まるで鳥籠の中で大事に大事に育てられた、美しい小鳥みたい。
きっと彼女はそれだけ周りの人間に大切に、優しく育てられたのだろう。だから、こんなにきれいな感情しか持たない人なんだ。
しかしその純粋な好意は、私にとって痛みとなって突き刺さる。
彼女を自分の幸せのために利用しようとしてるのだもの。
彼女を喜ばせたあのお願いも、そもそも仲良くなった理由も。
全部全部、自分のため。
ああ、私ってつくづく酷い女。もうわかっているし、ナタリーにも散々言われたことだから落ち込みはしないけど。
「メドビン嬢。私もね、お友達ってナタリー様やミリアぐらいしかいないの。だから、私も貴女と友達になれて嬉しいわ」
まるで、取り繕ったような声だった。
うわべだけ喜んでいるような声は、きっとナタリーに聞かれれば見破られたかもしれない。でも、私と大して付き合いの長くなく且つ人間関係に乏しい彼女には、その言葉に何の感情も籠っていないことには気づけなかったようだ。
「ベルフェリト様っ。私とっても嬉しいです!」
ああ、眩しい。
彼女の笑顔が眩しくて堪らない。
できれば本当の私の事など一生気づくことなく幸せになってくれたら、どんなに良いだろう。まぁ、婚約破棄計画がうまくいけばそんな願いは叶わないだろうけど。
「あ、あの。私からも1つだけお願いしても良いですか?」
ん?
どうしたんだろう突然。
もじもじしながら問いかける彼女は、とっても可愛らしい。こんなの、きっと私がしても気持ち悪いだけでしょうね。
彼女への罪悪感を募らせていたのも相まって、今ならどんな願い事でも叶えてあげたい気分だった。
「ええ。私に叶えられることなら」
私の言葉にパアッと顔を綻ばせると、上目遣いでお願いしてきた。
「私の事、名前で呼んでくださいませんか? ナタリー様と同じように」
なんだ、そんなこと。そんな簡単なお願いなら、幾らでも叶えちゃうわよ。
「わかったわ。じゃあセイラ様って呼んでも良いかしら?」
「はいっ! できれば様を付けなくても私は……」
「いや、それは流石に令嬢として問われるところだから。その代わり、私の事も同じように名前で呼んで」
「えっ!! 良いんですか!!」
前のめりになった彼女の顔が急接近したものだから、思わず仰け反ってしまった。
や、やけに喜ぶわね。
顔、近い近い。
ちょっと距離感おかしくなっていてよ?
でも、初めてできた友達にこんなに興奮するのはなんか理解できるかも。近い将来、必ず疎遠になるのは分かっているけど、今はこれぐらい仲良くなってもきっと罰は当たらないわよね。
彼女の喜ぶ姿が愛おしくて、そんな安易な考えを持ってしまった。




