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悪逆皇帝は来世で幸せになります!  作者: 詩貴 和紗
第3章
71/338

3-25

「ふむ、なるほどな。しかし良かったではないか、アイツとくっつけられそうな令嬢が見つかって」


この1カ月あった出来事を一通り話し終えると、そんな感想を述べつつ口元に手を当て考え始めた。何か引っかかることでもあったのかしら? そんな難しいこと伝えていないはずだけど。


彼は少しだけ考えた後で、ふいに私の顔を見ると私に問いかけた。


「だが、一つだけ気になったのだが……。その”悪役令嬢”とやらは一体なんなんだ?」


ああ、何を悩んでいるのかと思ったけど、引っかかっていたのはそこなのね。確かに私も初めて聞いたときはなんだかわからなかったし、ベリエル殿下は王族で庶民の読み物なんかに触れる機会なんてない人だから理解できないのも無理はない。


「最近巷で人気の恋愛小説の中に出てくる当て馬らしいです。主人公の女性に意地悪をして、それをターゲットである男性が慰めることで2人の仲が進展していく、という役割なんですって」


どうにかわかりやすく説明したけれど、自分でもこれで伝わるのかは正直わからない。しかし、考え込むようにしていた彼の口から「なるほど……」と小さく呟く声が聞こえてきたし、どうやら理解してくれたらしい。


少ししてパッと顔を上げ私の顔を見つめる。真剣な顔だったために何を考えているのかと思ったら……。


「しかし、それは君がやるんだろう? 大丈夫なのか? 君にそんな器用なことできるとは思えないが」


いい加減にしてくれませんかね?

どれくらい私を馬鹿にしてくれたら気が済むんでしょう?


しかし、これが言い返せないのよねぇ。だってそれで悩んでいるんだもの。


「実はそれで悩んでいるのです」

「やはりな」


肩を落として正直に告げる私に、呆れたように返すベリエル殿下。更に呆れられることを覚悟して、今の状況をおおまかに伝えた。


「彼と彼女の間を取り持つまでは、嫌がらせをしても意味はないと思っておりまして……。でもとあるきっかけがあって、今のままでは彼と彼女の関係が恋愛にまで発展しそうにないのです」

「なんだ? アイツが君にベタ惚れなのを知られたりでもしたのか?」

「な、なぜそれを……」

「図星か……」


案の定私に呆れ果てたようで、椅子の背もたれに深く腰を預けるベリエル殿下。

いや、違うの! それは私の失態でそうなったわけじゃないの!

だから人を無能だと決めつけないで! お願いだから!


しかし、私の願いも虚しく明らかに私に対し心底呆れたような目線をくれる彼に、反論しても無意味だと思い知らされる。


「で? どうするつもりだ?」


もうすでに私が彼に無礼だの、失礼だの心の中でさえ言える立場ではなくなってしまい、その高圧的な態度を甘んじて受け入れる。どうするも何もそれが思いつかない訳で……。


「どうにかして彼の気を彼女に移したいのですが……。彼が好感を持つ女性の行動って何かご存じだったりします?」

「そんなの僕が知るわけないだろう」


そうよね……。だからこの計画をベリエル殿下から聞いたときに、2人して無理だろうと判断したんだもの。2人してどうしようかと悩みあぐねていると、そのタイミングで先ほどベリエル殿下が勝手に注文したケーキが運ばれてきた。


「お待たせいたしました。ショコラ・ケーキでございます」


うわぁ。

そのケーキを見た瞬間、その美しさから目が離せなくなってしまった。


円柱のような小さなケーキは光沢のあるチョコレートでコーティングされており、その上にはきれいな模様の形で固められたチョコプレートが乗っている。金色の粉でも振っているのか光が当たるとキラキラと光っていてきれいだ。


思わず感嘆のため息を漏らす。

お腹いっぱいなはずなのに、なぜだか自然と口に運んでしまった。


「おいしいっ!」


口の中でとろけるチョコレートは甘すぎずちょっぴりビターでくどさがない。口にそれ程とどまることなく消えていってしまうため、すぐに2口目を運んでしまう。


う~ん! やっぱりおいしい。


「僕が注文したときは嫌そうな顔をしていた癖に、馬鹿に美味しそうに食べるじゃないか」

「むぐっ」


冷ややかな視線と共に告げられる嫌味に思わずその手を止めてしまった。

うう、言い返せない。


しかしこのお店、本当に紅茶もケーキもおいしいわ。いつも上質なものを口にしているはずの私でさえ、すでにまたしても足を運びたくなってしまうと思わせるほどのものを出せるなんて一体このお店のシェフは何者なのだろう。ちょっと気になる。


私のケーキが来た際に、ベリエル殿下も紅茶のお替りを注文し2人してしばし口を楽しませる。一息ついたところで、またしても『婚約破棄計画』の話に戻った。


「しかし、その令嬢と仲良くさせるのが難しいなら、君がアイツに嫌われるのはどうなんだ?」

「彼に嫌われる……ですか」


彼は相槌を打ち紅茶を一口啜る。


「そのためにはアイツがなぜ君を好いているのか知る必要があるのだが……」


ふぐぅ。それ、ナタリーにも言われたのよね、聞き出して来いって。でも、そんな簡単に聞き出せるわけないじゃない。すでに2週間経とうとしている今でさえ、それを聞き出す機会させもらえていないんだから。

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