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悪逆皇帝は来世で幸せになります!  作者: 詩貴 和紗
第1章
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1-7

 王子を立たせたまま話をするわけにもいかず、庭に用意されていたテーブルセットへと案内する。アンティーク調に装飾が施され、陶器のように磨かれた白はこの美しい庭によく合っている。


 ベルフェリト公爵邸の庭は優秀な庭師を雇っており、昔から国一美しいと評判である。広大な広さにバラやラベンダー、ツツジなどが植えられておりエリアごとに植えられている花、樹木が異なる。そのため、季節に合わせて咲き乱れる花々は四季をより一層楽しませてくれる。毎年見ていても飽きないと母が絶賛するほどの庭園だった。


「それにしても噂以上の美しい庭園ですね。驚きました」


王子はそんな公爵邸の庭園の噂を知っていたようだ。座ったまま周りを見渡し、目を輝かせた。恐らくここからだと庭園が一望できるためここへ案内したのだろう。


父は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、ヴァリタス殿下。お褒め頂き光栄です」

「無理言ってお招きいただいたかいがありました」


 先ほどと同様の笑顔で父と話をしている姿は、まるで商談か何かで来た貴族のようだ。彼は確か私と同い年のはず。普通それぐらいの年頃の男児は初対面の大人と話をするのに多少臆するはずなのに。


(これが王族というものなのかしら?)


前世の幼少期を思い返してみるが、幼い頃の記憶はぼんやりとしていてうまく思い出せなかった。


父と王子が話している間、私はというとまるで他人事のように用意されたお茶を楽しんでいた。恐らく王子がここに訪れたのは父が目的だろう。


 国民に人気の高い父は王族にとっても濃い付き合いがあって損はない相手。そう考えれば、こうしてわざわざ出向くのも納得がいく。そして私が呼ばれたのは王子と歳が同じだから。付き添い的な感じなのだろう。


(なら別に、無理に私が相手をしなくてもいいわよね)


表では緊張してうまく話せない令嬢を演じながら、その内心はひどく落ち着き払って、というより半分以上脱力しながら二人の話を聞いていた。しばし談笑する二人の会話に時々相槌をしながら話を右から左へ聞き流していく。


(あぁ~、早くこの時間おわらないかなぁ)


早く終わらせて私を開放してほしい。そして2度寝に決め込みたい。


 彼の血縁者など私にとっては不吉の種でしかないのだ。変に話題を作って関係を持ちたくないし、何なら会話をするのも本当は極力避けたい。


「それでは本題に入りましょうか」


王子の口から唐突に出た言葉に私はぽかんとする。


本題? 本題とはなんだろうか。

今日ここへ来て父と仲良くするのが目的だと思い込んでいた私の頭に?マークが浮かぶ。


「ベルフェリト嬢、本日伺ったのは他でもない、あなたと私についてのことなのです」

「私と殿下について、ですか?」

「はい」


 王子は立ち上がると私が座っている近くまできて、立ち止まる。何をするのかいまだわからない私に王子はその場で片足をつきながら跪くと、右腕を私の目の前に届くように伸ばした。左腕はというと手を右胸に添えるように置かれている。


(こ、これって……!)


まるで求婚するようなポーズ。その行動の意味を理解した瞬間、ブワッと冷や汗が吹き出た。


「エスティ・ベルフェリト嬢、私と婚約していただけませんか?」


追い打ちをかけるように王子が求婚の言葉を添える。


開いた口が塞がらないとは正にこのこと。王子のその行動に度肝を抜かれた私はそのまま硬直してしまった。どうすればよいのかわからず、ぎこちなく父の方を向くとパクパクと口を開閉することしかできない。


(い、一体お父様は何をお考えなの⁈)


 父だって私の前世が誰で何をした人物なのかを十分知っているはずだ。そして目の前にいる王子、並びに王家とどういう因縁があるのかも。それなのにどうしてこのような事を承諾したのか。私は父の心の内がわからず、内心頭を抱えた。


「娘も今日は大変驚いたようですので、本日の顔合わせはこの辺りにいたしましょうか、殿下」


いつまで経っても王子の手を取らない私の様子に痺れを切らしたのか、ようやく父が助け舟を出してくれた。王子は一瞬ぽかんとした顔で父を見ていたが、伸ばされた腕を降ろすと立ち上がる。


「そうですね。ベルフェリト卿」


またもや先ほどまで保たれていた笑顔に戻ると、父に賛同する。


「それではエスティ嬢。また近いうちに」


 私の方に向き直ると、どさくさに紛れてファーストネームで私を呼んだ。急に心の距離を詰められ普段ならば動揺していたであろうが、インパクトの強すぎる出来事のせいか、もうその程度のことでは驚かない。


(玄関に塩まきたい……)


王子が乗る馬車を見送りながらそんな事を考えていた。恐らく父にも使用人にも止められる行為ではあるだろうが、どうしても彼は私にとって最悪の災厄になりそうで仕方なかった。

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