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今日から高等科2週間目の月曜日。先週は体調が悪くていまいち学院生活を満喫できていなかったが、体調は完全回復したしこの間のヴァリタスが持ってきた婚約破棄の糸口で気分も頗る良い。今度こそ新たなる学院生活の幕開けができるはず!
早速ミリアに頼み、髪を結ってもらう。先週までは体調が悪く、髪を下ろしたままにして登校していたが、もともと高等科に進んだら髪をまとめようと思っていたのだ。周りのメイドたちはまとめられていく私の髪に残念そうな目線を送っていたが無視してしまう。
「はい、できましたよ」
ミリアの合図を受け、鏡で確認する。
きれいに後ろでお団子でまとめられている。お団子の周りには三つ編みがぐるりと巻かれてあり、かわいらしさとお上品な感じがしてとても好感が持てそうな作品に仕上がっている。
恨めしそうに見ていたメイドたちも『もったいない……でも可愛い』なんてヒソヒソしている声が聞こえてきているし、これで学院に行っても問題ないだろう。
「ありがとうミリア。あなた本当に器用ね」
「それはそうですよ、お嬢様の専属メイドですから」
「ふんっ」と鼻を鳴らして胸を張る彼女の反応を見るに、よほど嬉しかったのだろう。しかし、その反面当たり前とでも言うように澄ました顔で言うものだから笑いそうになってしまう。私はこんなに器用ではないし、言ってしまえば不器用な方のため彼女の手先の器用さに羨ましく思ってしまう。
とはいえ、これで準備は完璧。高等科の入学式と同じくらいの晴れ晴れしい気持ちで学院へ向かった。
朝、屋敷を出たときの晴れやかな気分は学院に着いた時点でその気分は地獄に落とされてしまう。
そう、本日はなんと魔法の実技の授業が入っていたのだ。
私の一番苦手な授業であり、非難と好奇の目を一身に背負わなければならない苦痛な授業。まさかこの授業の存在を忘れていたなんて。
一瞬にして土砂降りの大雨の中に放り出されたような気分の沈みように、さすがのナタリーも何も言うことができないようで私の背中を優しくポンと押してくれるだけであった。
そして問題の魔法の実技。
魔法が一切使えない私では、魔法に関する実技はただベルフェリト家の恥をさらすだけの場となってしまっている。使えないものはしょうがない、と割り切れれば良いのだが貴族の令嬢ともあろうものがそんな態度では貴族としての自覚がないと言われてしまう。
体操服に着替えると早速中庭に移動した。
「では、本日は各々の得意魔法の中から一番難易度の高い魔法を私に見せてください」
中庭に集まると既に魔法実践の先生が来ていた。皆が集まったところで今日の課題を告げる。50代程の年に見える彼女は瓶底眼鏡に後ろで髪をまとめ、顔に刻まれた皺から厳しそうな印象のいわゆる厳しそうな女教師と言った風貌の人物だ。
これは……。失敗したら睨まれそうないきおいの先生だな。
やだなぁ。
しかしこの場から逃げるわけにもいかず、自分の順番がくるのを芝生の上で体育座りをしながらナタリーと共に待った。俯き顔を上げることのできない私に、ナタリーが声を掛けることはなかったため、淡々と時間だけが過ぎていく。
「24番、エスティ・ベルフェリト嬢。こちらへ」
とうとう名前が呼ばれてしまった。返事をして勢いよく立ち上がると、緊張してしまったのか変に肩を上げたまま支持された位置まで移動する。
「では、お願いします」
私にとっては死刑宣告のような言葉を軽く告げ、彼女は持っているクリップボードに目線を下げた。
やるしかない。どうせ他の人たちは私の壊滅的な魔法の才能を理解しているのだし、今更他の人の目線なんて気にしてもしょうがないのよ。やるのよ! 私。
奇異の目で見られる覚悟を心の中でし準備を整える。
覚悟が決まれば即実行して終わりにしようと、両腕を前へ突き出し両手を重ね、目を瞑り意識を集中させた。
風よ来い、風よ来い、風よ来い、風よ来い……。
そう念じて、少しばかり目を開けるものの、何かが起こっている気配はない。
もう一度、もう一度だ。
しかしやはり何度試しても、どんなに強く意識してもやはり風はふわりとも起こらなかった。見かねて先生の方をみる。彼女もこれ以上待ってもなにも起こることはないと察したのか少しだけ眉を寄せた。
「はい、もうよいです。下がってください」
ため息を吐いたと思うと、私に見向きもせず次の人の名前を呼んでしまった。そそくさとその場を後にし、ナタリーの待つところへと向かう。
風を呼ぶ魔法は一番簡単な魔法ではあるのだが、やはりそんな初歩中の初歩魔法でさえ私には才能がないようだ。いわば無魔力と言っても良いくらいの結果に分かっていたものの落ち込んでしまう。
「ただいまナタリー」
「おかえりエスティ、お疲れ様」
全く魔法を使えなかったのに気遣ってくれる彼女の優しさが心に沁みる。しかし傷ついた心はそれだけでは癒されてはくれないらしく、明後日の方向を見ながら別の事を考えて現実から目を逸らすのに精一杯になっていた。




