2-24
またもやルンルン気分で帰宅すると、またもや玄関ホールで父と鉢合わせてしまう。全くここは私にとって試練を与える場なのだろうか。
今度こそ、父に怒られる! と覚悟していたのだが……。父はもう私がどこで何をしようとも関心がないのか、私に一瞥し去ろうとする。しかし、なにか思い出したようにそこで足を止めると、私に少しだけ目線を配り冷たい声で話し掛けてきた。
「そうだ。明日、魔力指数検査をすることになった。一緒に来なさい」
「えっ?」
まさかその話がまだ有効だったことに驚く。
もう完全に見限られた私には必要のないものだ。
しかも、おそらく結果は分かり切っている。
今更魔力など無かったと証明して何になる――――
証明。
そうか、証明か。
父は証明が欲しいのだ。
私をねじ伏せられる証明が。
父は私に本当に容赦がなくなったらしい。
相手が娘だとはもう思っていないのだろう。
我が家に蔓延る害虫。
それが父にとっての私なのだ。
しかし、私がいくら拒否したとしてもおそらく拒むことは出来ない。
ならば無駄な足掻きはせず、甘んじて受け入れるほかないだろう。
***
久ぶりにこの教会に来た。
大きな大聖堂を前に顔を上げると、その美しさと太陽の光が重なり目を細める。
以前私の前世を判明させるために訪れた教会。
正式名称はエヒム教・聖ダンテリスト大聖堂。エヒム教は我がオルタリア王国の国教であり、通称、神正教とも呼ばれている。
唯一神を崇め、祈りを捧げることで自身の祝福と世界の平和を願う、どこにでもある普通の宗教だ。ただ、エヒム教では神が転生を管理していると信じた世界初の宗教。それが幸いしてなのかは定かではないが、オルタリア王国では昔から統計的に転生者の割合が多いとされている。
そのため、この国だけでなく他の国に多くの信徒を抱える宗教でもある。
早速2メートル先の父の後ろについていくかたちで中へと入っていく。
教会内部へ入る扉を開けると、以前”前明の儀”でお世話になった魔法使いが早速出迎えてくれた。
「こんにちは、ベルフェリト様。お待ちしておりました」
「あぁ、君は確か……」
「魔法使いのアレス・プアドールです。ご無沙汰しておりました」
「あぁ。その節はどうも」
挨拶もそこそこに検査をするため別室へと案内される。父はと言うと、以前来た時の心配そうな父はどこへやら、今度はそそくさと別室へ移動してしまった。まぁもちろん今回の検査で使う部屋も同行できない場所だったらしいけど。
あの時の父を見る魔法使いの顔ったら。すごく驚いていたのだから、きっと他の領民や父を慕う者たちには絶対に見せられないような対応だったのだろう。私は父の冷たい態度にはもう慣れてしまったから違いがわからないが。
そのあとのなんとも言えない同情の目を、魔法使いや案内していた使徒の方々に向けられた私の身にもなってほしい。せめて外ではその態度を隠してほしいものだ、全く。
と、いうことで通された部屋は、またもや暗く広い部屋だった。時折幾何学的に掘られた壁の模様に、青い閃光が細く走っている。真ん中には黒く大きな石のようなものが置かれている。正確に削られ光を反射するほどの光沢が見えるその石は何かを置く台にして大きい。上に大の大人が寝転がっても余りある程の大きさだ。高さは私の足の付け根ぐらいあるだろうか。
その異様なものに気を取られていると、彼が何やらそのうえに手を置いた。するとそこに緑の光をまとった魔法陣が現れる。
相変わらずすごい魔法だ。さすがは”前明の儀”を担う程の魔法使い。一瞬で魔法を出現させてしまう。
魔法陣が消えたタイミングで私に顔を向けると穏やかに笑う。
「では、ここへ仰向けになって寝てください」
え?
本当に寝転がるの?
ここに?
すこし疑問が残るものの言われた通りにその石らしきものの上に乗り仰向けになる。
「そのまま、楽な姿勢で動かないでくださいね」
今度は大きな杖を取り出し、それを横に倒して両手で掴んだまま腕を伸ばして胸より高い位置まで上げると何やら呪文を唱えはじめた。すると今度は私の上に大きな赤く光る魔法陣が現れる。
それがすぅっと下まで下がり私の体をすり抜けると石の部分に触れた瞬間石にその魔法陣が移り、消えた。なんだかよくわからないが、すごいものを見せられたような気がして一瞬思考が固まる。
なにいまの?
すごっ!!
すごすぎない? この魔法使い。
あとから来た興奮を表には出さずにいたが、しかし心の声はいつも以上に騒がしい。
彼はと言うと、いつの間にか現れていた宙に浮いた四角い…なんだろう大きさは掌2つ分くらいのもので、薄くて向こう側が半透明に透けて見える。そこになにやら文字が流れている。
いや、それもなに!?
言葉にならないけどなんだかすごい事をしていることだけはわかる。
「少しだけ待っていてくださいね。検査結果がでますから」
その四角いなんだかよくわからないものを見つめながら彼はそう声を掛けてくれた。しかし、待つのは退屈だな。
彼だって私とは極力一緒にいたくないだろうに。
「魔法つか…、プアドールさまは私が恐ろしいでしょう?」
そのままの態勢を保ちながら問いかける。かつての彼の震えを私はまだ覚えていた。その時の事を考えるとどうしても彼が可哀そうでつい確認してしまった。
「確かに、あの時は取り乱してしまいました。申し訳ありません」
私に向き合う彼の顔はとても申し訳なさそうで、それが本心からの言葉なのだとなんとなくわかった。
「あの後、本部のウィリシアスに報告したのです。全ての前世は本部に報告し、管理する義務ですので。そこで知ったのですが…、皇帝リヴェリオは聖人として祀られているそうですね」
「えっ?」
「私も初めて知りました」
困ったように笑う彼と逆に私の頭は混乱でいっぱいだ。
リヴェリオが聖人として祀られている……?
一体どういうことなのだろう。
「私も結局どうしてそうなったのかは本部に問い合わせてもわからず仕舞いでした。しかし、もしかしたら私たちは歴史の間違いをしてしまったのかもしれません」
寂しそうに明後日の方向を見つめる彼の目に私の心は揺れる。彼はおそらく私に対して哀れみを抱いている。それは自分たちが間違いをしたことへの懺悔と後悔。
しかし、本当にそうだろうか。
あのままリヴェリオを処刑していなかったら、国民は立ち上がるきっかけを掴めなかったのではないだろうか。
だから彼は死を覚悟したのだ。
国民を、ひいては国を変えるために。
「遠い異国の地では、災厄を連れてきた人物を、死後奉ることがあるそうです。後世に災いが降りかからない様に」
上を向き淡々と呟く。
「ですから、もしかしたらリヴェリオもそれと同じことなのではないでしょうか」
彼は一瞬驚いたような顔をしていた。しかし、次第に穏やかな表情になると優しく囁くように私に告げた。
「やはりあなたも、そしてあの皇帝リヴェリオも、優しい方だったのですね」
一筋涙が零れる。
恐らく彼には私の慰めも気遣いも無意味なのだろう。
それがもどかしくて、でもとても嬉しかった。




