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魔法使いと部屋を出ると、両親が心配そうに私を出迎えた。両親の顔をみて少しだけ安心する。
「それで、娘の前世はどういったもので?」
「それが……」
父の問いかけに、魔法使いは言葉を濁した。とりあえずここでは話せないと、彼に案内されるまま私たちは応接室へと案内された。
見るからにふかふかの、高級そうなソファーが向かい合うように2つ置かれている。綺麗な刺繍が施されているところを見るに、私の邸に置かれているものと遜色のないものだろう。その間にある小さなテーブルには、すでに客人用のティーカップが人数分用意されていた。
促されるように家族3人並んで座る。
魔法使いは扉を閉めると、深く被ったフードを脱いだ。
声と同じく優しそうな青年だ。濃い緑色の髪は伸ばしているのか肩甲骨のあたりまであり、ワインレッドのリボンで後ろに1つにまとめられている。小さな丸眼鏡が鼻の上にちょこんと乗っているのが知的に見えた。
彼は私たちの向かいに礼儀正しく座った。
「初めまして、こちらの教会で魔法使いをしておりますアレス・プアドールと申します。先ほどお嬢様の”前明の儀”を担当させていただきました」
魔法使いが深々と礼をするのに合わせて両親も軽く頭を下げた。彼は少し戸惑いながらも先ほど判明した事実を両親に説明してくれた。
「大変申し上げにくいのですが……。ご令嬢の前世は、クオフォリア帝国最後の皇帝、リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウスでした」
濁しても無駄だと思ったのだろう。直球過ぎるくらいのどストレートで真実を両親に投げつけた。
先ほどまで安堵していた両親の顔が強張ったまま固まった。父は眉に深い溝をつくり、母を口に手を当て信じられないといった風に目を見開いている。
「うそ、でしょう。ねぇあなた! 嘘よね?」
母は今まで聞いた事のないような声で縋るように父の肩を握る。ここまで取り乱す母を初めてみた。
益々自分の前世が怖くなる。
「なんとか記憶を思い出さないようにする方法はないのか?」
父は眉間に皺を濃く刻んだまま魔法使いに詰め寄る。
「一度思い出してしまえば、もう止める術はありません。せめて前世と同じような人格にならないよう教育するしか道はないかと……」
「なんてことだ……」
頭を抱えて落胆した父が見ていられない。今まで見ていたあの優し気な父とはかけ離れていた。両親を見ていられなくて俯いてしまう。
(私、そんなに悪い人だったの……?)
私の前世が何者なのかまだ分からない。しかし、両親や魔法使いの話方から相当に悪い人物だったことが子供ながらに分かった。
実体の見えない者の影が私を飲み込んでしまいそうで不安に押しつぶされそうになる。体が震えだし、両腕を掴んでどうにか抑え込もうとしても駄目だった。
目を瞑って耐えていると、ふわっと何かが肩に触れた。
ハッとして目を開けて見ると、それは父の手だった。反対側、父の顔を見上げると魔法使いの方を真剣な顔で見つめている。こちらに顔は向いていなくても、いくら険しい表情でも、優しい手の感触から父が私を気に掛けていることが伝わる。
前世がどんなに恐ろしい人でも父は私を心配してくれる。それがどうしようもなく嬉しかった。
母の方を見る。
口元をハンカチで覆い、瞳は涙で潤んでいるけれど父と同様に心配そうにこちらを見ているのが見えた。
(お父さま……、お母さま……)
両親の温かさが伝わる。
どんなに悪い人が前世でも両親が変わらず私に接してくれることがそれだけでわかった。
二人の思いに応えたい。
この優しい二人を悲しませることを私はしたくない。
強い強い意志が私に生まれた。
「おとうさま、わたし絶対に悪い人になんてならないわ」
思わず口にした言葉は、私自身、驚くほど意志の籠った声だった。
思わずこちらを振り返った父も同様だったのだろう。
目を見開いて驚いている。
しかし、先ほどまであった眉間の皺はもう無くなっていた。




