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悪逆皇帝は来世で幸せになります!  作者: 詩貴 和紗
第2章
27/338

2-7

 父とシルビアの横暴事件があってから数日。

私は憂鬱なまま日々を過ごしていた。


何をしていてもあの日の事を思い出して気分が落ち込む。今までこんなに落ち込んだことはなかった。


(そういえば、前世で家族に裏切られた記憶はなかったわね)


きっとそのせいだろう。前世では多くの人々に自分の意志を無視されたが、家族だけは自分を信じていてくれていた。


その経験を無意識のうちに強く信じてしまっていたのだろう。だから、こんなに家族に縋ってしまうのだろうか……。


そしてもう一つの憂鬱事項が刻一刻と迫っていた。


王家主催のパーティーである。


 普段同じ学院に通っているとはいえ、中等科では男女の接触を原則禁止している。それは寮でも学院内でも一貫しており、中等科で生活している間は先生を除き異性との接触は皆無だ。そうして未来ある貴族子息令嬢の不貞を守ることが目的らしいのだが。


高等科になっていきなりそれが一般的な学院と同じく共学になるものだから欲を発散させてしまう者も多く、問題になっているらしい。ならば高等科でも同じようにすればよいのだが、そうも言ってられない事情がある。


それが婚約の公式発表が17歳と決まっているから。オルタリア王国では婚約相手を正式に結ぶ決まりがあり、貴族の婚姻になると王族や教会に受諾してもらうことになっている。そうして初めて、婚約者として正式に認められることになるのだが、その年齢が17歳なのである。ということで、多少異性に対し免疫を持っておくべきとかなんとかが理由で高等部では一斉解禁されてしまっているわけである。


(本音をいえば、高等科でも分けてほしいものではあるけれどね)


婚約相手であるヴァリタス様も同じ学院に通っている。しかし、上記の理由から学院生活をしている間は一切接触できない。


これがなんと平和なことか。会えばいつボロを出してしまうかわからないような気の抜けない状況がやってくることもなく。いまだ情報を掴めていないために、前世のことをごまかさなければならない必要もない。


それだけでこんなに快適だと思うということは、一体今までどれ程それがストレスになっていたのかと実感する。


別にいままでだって彼が私を不信がるようなしぐさをしたことはないし、何かを詮索しようと擦る気配すらさせたことはない。しかし、どうしたって人間不信気味の私は、彼を信じることができなかった。


そんなストレスの原因と休暇中にも会わなければならないとなれば、気分が落ち込むのも無理はない。おそらくここ数日の憂鬱な気分の原因の一部は彼と久しぶりに会わなければならないということもあるのかもしれない。そう思うと早くパーティーが終わってこの憂いを少しでも払拭させたかった。


「ヴァリタス様が熱を、ですか?」

「えぇ、どうやらここ最近体調が優れないようでして、視察を取りやめて様子を見ていたようですが。昨日発熱してしまったようで」

「そう……」


 そんな情報をメイドから聞いたのは、パーティーが明日に迫った朝だった。


この状況で熱を出したと知らせが来るということは、おそらく明日のパーティーには出席できないと暗に言っているも同然だ。


ということは。


こんな幸運が舞い込むなんて。


これでヴァリタス様に会わなくて済むと思うとうれしさがこみ上げた。少しルンルン気分になるものの、そんなことをすればこの使用人が怪しむのは当然で。そして私の様子がおかしいとなればまた父にどのように思われるか分かったものではない。


どうにか晴れやかな気分を押さえつけ、婚約者の体調を心配する優しき令嬢を演じた。


しかし、それではパーティーに出向く際どうしようかと頭を巡らせる。17歳に婚約を正式発表するとはいえ、13になる令嬢が一人でパーティーに出向くのは少々外聞が悪くなってしまう。というのも、令嬢がパーティーに招かれた際、エスコートする男性が必要なのがパーティーにおけるマナー。そして、その男性は身内か親しい貴族令息、または婚約相手に限られる。しかし、親しい貴族というのは私にはおらず、身内と言っても該当する人物は父か兄のどちらかしかいない。


父には母がいるし、兄にも婚約者が同行するはずだから二人のエスコートを頼むのは無理な話だ。


(まぁ一人で行くのもいいかもね……)


 私にまで情報が回っているのならば、貴族間でもヴァリタスが不調で欠席することは周知の事実のはず。

ならば今回ばかりは許してくれるかもしれない。それに身内以外の男性を連れてエスコートされた私を見せつける方が、おかしな噂をたてられ厄介なことになりかねないだろう。


仕方がないが、今更人の目を気にしてももう遅いだろうし。

ヴァリタスと会うよりかはよっぽどマシかと思い、今回ばかりは一人で出向くことにした。

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