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悪逆皇帝は来世で幸せになります!  作者: 詩貴 和紗
第4章
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4-51

「こんなところ、両親にだって見せたことないのに……」


 やっと涙が止まったと思ったら、急に恥ずかしくなってしまった。

黒龍に背を向け、顔を伏せる。


あんなに取り乱したことなんて初めてだ。


いくら 令嬢としていかがなものなのだろう。

出来ればさっきの記憶を私と黒龍から消してほしいものだ。


「そんなに恥ずかしがることなの? ここには僕しかいないのに」

「そういう問題じゃっ!」


思わず振り返った彼は、とても嬉しそうな笑顔をしていた。


な、なんで笑ってるの?


「嬉しいよ。主様が僕にあんな風に甘えたこと、無かったから」


何かをポツリと落としたような、そんな声。

彼の声は、いつも寂しさを孕んでいる。


「いつも、僕に甘えてくれたら、どんなに幸せだったんだろうね」


そんな顔で、そんな事を言われたら何も言えなくなるじゃないか。


空気に耐えられず、顔を逸らした。


こんなにも、私を想ってくれる彼がいるのに、どうして私は彼を忘れてしまっているのだろう。

いまだに、彼の名前さえも思い出せない。


記憶を思い出せたことで、リヴェリオの事はなんとなく理解できた。

彼がどれほど、愛を求めていたのかも、やっと思い出すことができた。


でも。

それでも、私は誰かの愛を求めることはしないだろう。


あんなにも苦しい思いをしても、手に入れる事はできなかった。

それは周りの人間の所為であったかもしれない。


でも、それは今も同じことなのだと思う。


さきほど私がリヴェリオの事を受け入れることができたように、周りの人間が受け入れてくれるなんてことは、きっと起きるはずもない。ただでさえ、自分である私でも何年もかかってのことなのだ。記憶があまり思い出せていないにしても、彼の気持ちを理解するのは難しいということなのだろう。


それが、悪逆皇帝というフィルターが掛かっている状態であれば、なおさら理解されることはない。


それに、私はきっと彼を隠して手に入れたものなど、欲しくないと思う。


結局私は1人でいいのだ。

裏切られるのが怖くなくなったわけではないし、人と深く関わるのはやっぱり今でもすごく怖い。


「主様の愛って重いもんね」


私の心を覗いていたかのように、彼の声が頭上から降ってきた。

驚きと共に視線を向けると同時に彼を睨むが、返ってきたのは満面の笑み。


「だからね、僕とお似合いだと思うよ」


一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。

その無責任な言葉に、ジトッとした目を彼に投げつける。


「貴方、別にリヴェリオの事そういう意味で好きだったわけじゃないでしょう? それに、やっぱり私は誰ともそういう関係になりたくないわ」

「それに関しては否定しないけど……。僕も愛が重いから、似たもの同士お似合いだと思わない?」


何を言っているんだこの子は。

私は彼の体から離れると、フッとそっぽを向いた。


「思わない。私は誰かを愛するために、この世界に生まれたんじゃないわ」

「それは……」


ただ、私はきっと自分1人で幸せになるために生まれてきた。

そう思って私はその言葉を発したはずだった。


だが、リヴェリオを大事にしている彼なら、今の言葉を否定するのではないかと思っていたのだけど。

なんだろう、この反応。


深刻そうに、酷く辛そうな彼の顔なんてはじめて見た。

いつも飄々とした印象の彼からは想像もできないような反応に、私まで口を噤んでしまう。


「主様、そろそろ本題に入ろうか」


無理やり話題を変えられた。

そこにどんな意図が隠されているのか気になったものの、彼に問いただす気にはなれなかった。


動揺しているのが目に見えてわかる。


私の言葉にそれほどまでにショックを受けているのだろう。


「でも本題って、一体何の……」


ここに来るまでにいろんなことをありすぎて、なぜこの部屋を訪れたのかをすっかり忘れてしまった。


ええっと……、なんだっけ。


ああ、そうだ!

私が記憶を思い出したいと言ったら、彼はここに連れてきたんだ。


ということは、この部屋にそのヒントがあるということだろう。


さっきの事は、偶発的に引き起こされたものだったろうし。


彼は私に背を向けると、机の隣に置いてある小箪笥の引き出しへと手を伸ばした。

一番上の引き出しに手を掛けた際、小さくカチャリという音がした。

スッと彼が引き出しを開けると、その中にはいくつかの本が仕舞われていた。


一体何の本なのだろう。

中身が気になり、近くへ行って顔の覗かせる。


分厚い本が何冊もあるが、どれも表紙に題はない。

ただ金色に装飾された美しい模様が描かれているだけだ。


そこでやっとわかった。

これは本じゃない。


「これって」

「日記だよ。主様の」


私がこんなところに日記を隠していたなんて。

そもそも、日記を書いていた事を初めて知った。


今も昔も日記は貴族の嗜みではあるけれど、その記憶が無いと何とも実感がわかないのは事実だ。


確かに、これを読めば確実に記憶のヒントが得られるはずだ。


やはり、彼に相談して正解だった。


私はその記憶の手がかりを早く読みたくて、日記に手を伸ばした。


瞬間、それは彼の腕に憚られた。

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