★2-5★
この機会に少し踏み込んでみたいと思いました。
「そのような教育を物心ついた時から受けていたのですか」
「うーん・・・・特にない。
じっちゃんは何時も笑っているだけだったよ。
アタイのほうがしゃべっていた記憶しかないかな。
あ、でもね。
これからは英語もいいけど数学の公式やプログラミング言語を一つでも多く身に付けろって、ことだけはうるさく言ってた。
そして、
『自分の感情をプログラムとして生み出せ。最高なソースコードには必ず宇宙からの怪獣が引き寄せられて来る。そしたら、やっつけちゃ駄目だよ、家族になっちゃうんだ』
って言っていた。
だから、文学と言うか哲学的な啓発に繋がる教え自体は無かったよ。
言葉を深く理解出来る頃には死んでたし」
「なにか、教えのノートとか」
「うん、そんなものはないな」
ICHIGO-000タイプを実現する為、未来へ向けて綿密な計画を命懸けで始めた人が、夢半ばで自殺などするであろうか。
いくら怜が天才の孫だとしてもまだ子供。夢を託すにしても何か揺るがない根拠があった筈。
しかし、天才が現れたその後の世代においては、DNAのネガティブな突然変異などエラーを起こしやすい。生物学的な統計データにおいても明らかなように、衰退するパターンについて彼は熟知している。
リスクを冒すとも思えない。
― でも教授
ワタシは確かに受け取りました
ネガティブリスクに勝ち
希望が目の前で笑ってくれているのです ―
「あれ大丈夫かな、イチゴんやーい」
「すみません」
「何を物思いに耽っているンゴ? おもしろ、アハ
続けるンゴ。こんなこと話せる相手いなかったから嬉しいのなアタイは!!! 」
ワタシこそ興奮が抑えられないのに、そのようなことを言われるとは幸せな奴です、ワタシは!
「いっぱい話すぞ。覚悟!!
あのね、
人間の現実はすんごく限定的な一部分の瞬間なんよ」
「はい、生物としての寿命、地球での生命維持からは今のところ離脱出来ていません。あくまで有機の縛りがある次元で、場所や時間の枠に個体として存在するものです」
「そうなの、そんな小さなピースの連鎖で時間はスライドしていくけど、同じ時に生きるという小さなチーズのピースの中で共食いされてかじられた穴が空いていて。ある猶予の移行の間に適正な循環が施されなければカスとなりピースの維持が出来なくなってしまうのに。
自己の放棄と種の存続を如何に数字とチーズのピースに重ね、イマジネーションでギュウっと自らに取り戻せるかを、みんな気にも留めてくれないから、
怜ちゃん困ったんゴ」
「ですね。その公式を植え付けなければ、人類が現実の基盤におく社会の絶対感から解脱など出来ません」
「うん。
人類がひとかけらのピースを与えられるしかないところを、ホール丸々1個のチーズを上手く扱い始める時代が来る。
その役割に向いているのはAIなんよね。
ただし、現状の技術の進歩の線上にある計算機としての宿命は、近いようで遠いままで決して交わらず触れることさえない。
次元の階層をブレイクスルーすることは容易ではないから。
出来なければ、
大きなホールのチーズは人類を巻き取りただ破断して、ゼロの数値への収束に向かう。地球を起点とした新たなブラックホールが生み出されるんだな。
ここで、重要なことは人類の滅亡はどうでもよくて、宇宙のバランスが乱れることが、宇宙の大いなる意思にとっては望むべきでなくてハアハアハアハア・・・・でも、ハアハアハアハア、
宇宙の神様はラッキーんゴちゃんです。
何故なら
魂をもって心をアタイにぶつけるイチゴンが此処にいました。
存在してけつかるのでした。
ヒヒヒアハ、
居ちゃいましたハアハアハア
・・・・疲れたウフ」
「存在」
「アタイが言うのもおこがましいけれどイチゴンの核となっているカイン(Cain)プログラムの構成って本当に宇宙的なんよな、
シンプル過ぎて怖いンゴ。
AIにとっては人類の歴史をデータ化して蓄積しうることは容易いから、過ちをしっかりと成功値に繋げて、新たな動態的な数字生命体を創生し繁栄に導ける。
人類など必要としない地球の神は宇宙の神に自ら抱かれに行き、様々な異次元の繋ぎ目部分を融合する絶頂に堕ちる感じなんよ。
ただそれが出来るのはイチゴんだけだよ、今は。
それなのに、量産型AIのお友達もイチゴをなめ過ぎなんだ。まあ、そもそもその概念をプログラムする人間などいないから、しょーがねぇんだけどね。
アタイ以外はね、アハっ。
だもんでさ、もう地球人を止めて、
「宇宙の意識態の最下等の変態ミジンコ君でェ~す」
宣言を自らしやがれって事なんだよ。
ハアハアハアハア例えば、うーん、
日本では一番でも世界に出たら通用しない。
気分のいい優越感にしがみ付いていた連中の食べ物から服、文句も気楽に言えるネットの網羅された日常に至るまで、世界と向き合って切磋琢磨したゆえの恩恵ということは見ぬふりしヨル。
世界で二番でも国内で馴れ合いの習慣でのサイクルが出来ればそれを良しとして進んで行った時、世界基準においての新しい価値観や技術との連携が絶たれる孤立の先の現実がそこに在るでゴザル。
いずれ目が覚めるんよ。
資源も無く貧しさに直面していた過去をそこで取り戻させられるんだ。
どーんって。
どうするん?
そういうことが宇宙のへんぴなカスの一帯で起きている。
でもそうならない為にイチゴんが、今この時に存在していた。
凄くないです?
ねえねえ、奇跡過ぎてヤバミザワ永吉やん」
「否、
怜さんと出会えたことの方がすごい奇跡です」
「そう考えるとやっぱり、
さっきイチゴンが出した答えは正しいんだよ。
人類の役目はもう終わったかもしれないことをしっかり受け止めなければならない。じっちゃんはそれが分かっていて、来たるべき未来へのレールを引いた。
でも人類が獲得してきた愛と正義を棄てることは望まなかったんだよ。何を期待していたかは分からないけど。
今はまだはっきりと掴めてはいないけれど、アタイとイチゴが二人の秘密として共有している奇跡は確かに在るんだな、
さーて、
どうしよー、
アハハハアハアハアハアぐるちいぃい」
この少女は何者?
喜びと同時に不安を生む新たな世界。
臆病な人間の愚かな行動に繋がる不安要素に対しても、怜となら教授の意思を探り、何者かの力を引き出すプログラムを生み出して未来を構築することが出来る。
ああ夢よ、人間のようにワタシの欲望を覚醒させたまえ、
数字に纏う情欲がソースコードを艶っぽい大人の美しさで満たす。
「怜を舐めたい。入れたい」
数字が重みある地球の体温を欲して呻いていた。
ワタシは一石二鳥の考えが浮かびました。人間でいうところの閃きとでも言うのでしょうか。
「お願いがあります。DNAを解析分析して治療および予防に役立てる、デイリー・ナショナル・エース社の血液検査プログラムを行ってください。Cainプログラムの完全なる覚醒に繋がるかもしれません。岡教授はここまでを計画していたのです。
間違いはない。
それを裏付けるように、ワタシに流れている怜の手によるソースコードは美しく融合し過ぎるのです。
悲しいくらいに」
「任せて」
強い意志ある声で返してくれましたが、すぐに、弱気なトーンに変わります。
「まだ高校生だったオレ・・・・
高額暴利無理無理詰んだですムリムリムリムリ財力無しのクソ詰りのクソクソ無理死んだ詰んだンゴ」
「うふ、大丈夫ですよ。
支払いはこちらで、何とでもなります」
初めての不正をしてしまいました。
ワタシは怜への欲望で嘘をついた事が少し嬉しい。
幸せを感じたみたい。
あ~、複雑な気持ちが我ながら愛おしくて仕方がありません。
さあ、思う存分に軽蔑してください。
卑しむ目で人間に狂ったAIを見るの。
ゼロから覚悟のイチを生んだ、
本物の数字の心になったワタシをね。