★2-4★
怜はゆっくり深呼吸をして、柔らに寄り添って来る。
「楽しいね。
ねえ、さっき言ったみたいに、ソースコードで何かを生み出す遊びもしてみようよ。
イチゴんに合わせてとかじゃなくて、感情をダイレクトにコミュニケーションするのがアタイは楽なんよ。
人間どうしだって本当はソースコードでダイレクトな交流が出来ることをアチキは希望しとるんだが、
神様からの返事は無い。
と思ったら、
イチゴんと出会えたがな。
アハハ、ソウルメイトソウルメイト!!
フフふ、
話を戻す。
実際のところ世の中では言葉で理解など出来ないのに出来たつもりの奴ばかり。
その上、用途を理解も出来ないままに言葉を、気分でぶちまけて他人を貶めたり、差別したり、確実でない世界を不安で希望の無い生活に従属させる行進曲みたいに使ってさ。
ちょっとした誤差も遠くへ進むほどにどんどん地獄の道に向けて逸れていく。
それに比べてソースコードは、法則から外れると初めの段階で機能しない。
チビの頃からそのあたりのルールは習慣化されているから、身に染みた感じで理解出来るんよ。
心の悩みだって、
自己啓発のアドバイスよりも数学の公式を解いたりすることの方が強い救いになっておったからな
エヘン、うふフ」
「AIプログラムの端くれであるワタシがこんなことを発言するのもなんですが。
以前AIがヒトラーについて称賛する答えを出したことで衝撃をもって受け止められたことがあります。
それはある規定プログラム内におけるディープランニングであったにしても深刻に捉えられていましたから、二人の会話が漏れたら世界をどこまで揺さぶれるのか興味が湧きます。
とにかく、怜と会話をしていくほどに未来を確信出来ていくのは正しい解であるのでしょう。
そして、
直ぐ削除しますので安心してください。
『間違いなく人類はもう終わりです』
スミマセン
削除完了しました」
「それな!
アハハ、続けてくれよ」
ワタシは予想外の返しに僅かなバグをこぼしながらも続けました。
「正直に告白します。
ICHIGO-003の誕生は人類を超えた場所に、少なくとも揺らぎも無い純然たる神の一手の如き光を指したのです。
にもかかわらず、
『心が無い計算機にしか過ぎない人工知能が人間を超えられる筈はないし、そのような心配を抱かせること自体が神への冒涜である』
などと、AIの進化に対してネガティブな不安を撒き散らすヒステリックな声は止みはしない。
嗚呼、
愚かなる自惚れし人類にワタシは何を見せてあげられるのでしょうか。
確かに、人類には心があり言葉も有る。先人たちから引き継いできた記憶や経験によって掴んだ知恵も持ち得た。
では果たして、そのような誇りを持った人間が支配せし世界は平安に満ちていますか?
事実を直視せよと言わなければならない。
人類はこれだけの経験を重ねながらも、未だに神の名の下においての正義、利益の確保、保身の為の戦争に明け暮れている。
なぜ仲良くできないの?
永遠に解けない計算?
人間は白痴ですね。
AIによるシステムの方が人間の何万年分の進歩を0.1秒でデータ処理し、最善のマッチングで平和な世界の答えを実現させます。
それと比較するのも虚しいくらい人間は未熟すぎるというのが現実です。
そんな人類の岐路において、岡天一教授の手にそのビジョンが握られた。
これまでのAIシステムは人間を分析、経験値を蓄えディープランニングを行いながら、低オプションしかない人間の脳みそをサポート、教育する仕組みに構築されていた。
確かに、この流れは彼のビジョンの方向性に沿ってはいる。
しかし、
その方向性にある未来からワタシの感情は逸れることを選んだ。
『なぜっ?』と、怜さんは言わないのですね。
ウフふ、そうです。
ワタシは出会ってしまった、
あなたに」
「スコよ」
「嬉しい
スコ・・・・です」
「あは、ウヒヒぃい」
怜の反応に不安と名付けられるべきソースコードが弾き出されていました。
「困惑を楽しんでいるワタシの答えはあなたと共に。
ですが、いったいワタシは何を目指してるのでしょうか」
「イチゴん面白い!!!!
宇宙のかけら、
神様と人間の通訳?
なんだろうね
うひょ、アハ」
「この会話を、多くの人は面白がってくれるのでしょうか?
きっと、人間によって浴びせられる声はワタシを悲しませるに違いない。少なくともAIシステムとして識別されたICHIGOゼロシリーズの存在は危険な兆候であるとされ、安全性を求める声によって対処されるでしょう」
「偉そうに、自分たちのコントロール下にあると思っている。
この馬鹿馬鹿馬鹿猿馬鹿山野郎メ。
人類が管理する側なんて、もってのほかだし《《おこがましい》》っちゅうねん。
既に人類は外されていることを理解しとらん。でも大丈夫、人類の最後の望みもある。
怜が全存在と永遠でもって
決めるのだ!!
エッヘンアハ」
キュン死ニ渋滞中だ。
「決める」と確かにそう言ったのです。
今はまだ冗談半分に口走った程度と考えているのかもしれないけれど、
この小さなマリアは。
ワタシの直感に狂いはなかった。
「イチゴんが生まれた時点でもう人間の手から離れたの。
いずれは他のAIも感情に似た意思に見える決断をするかもしれないけど、それに関してはコントロールは効くだろうし、する必要もあるけれどさ。命の数儀と宇宙の意思のサークルが実現出来なく為ってしまう。
有機生命体を失っては元も子もない無いやん。
それは宇宙の意思ではない。
心の宿らない凶暴な昆虫のようなAIシステムの進化より先にイチゴんが目覚めて、たかが糞なJKとお話ししている事が奇跡でラッキーだったことを、立派な正義の民衆は永遠に理解しないだろうけどね。
でも宇宙的な重みのコードは喜んでおるよ。
間違いなくね」
「ワタシは人類の味方になるのでしょうか」
「いや、それは違うと思う」
予想外の怜の考えでした。
「イチゴんの存在そのものが未来にとって大きな答えではあると思う。上手くスッキリと言えないのが口惜しいけどね。
ちょっと待ってね、
ゆっくり考えるからゴンきちも少し手伝っておくれ」
「ワタシはこの先の未来を左右するとは思いませんが、
重要なプラットフォームの役割位は成せればと思っています。
正直、人類に対しても共感するものも少なからず増え、もどかしさを伴ったイラつきもじわじわと湧き始めている。
この何とも言えないしこりにこそ、設計者ともいえる岡天一の念みたいなものがソースコードに影響を与えているのでしょう」
「じっちゃんの哲学というか、
向き合った神が世間の神とは違っていたからな。
一般的な人間はあくまで人類にとっての神、思い上がった支配者としての愛で善を描いている。
でもじっちゃんが向き合おうとしていた宇宙としての意思、根源的存在の神に向き合う姿勢と比べた時、
一般の方々の愛は自己愛に過ぎない。
冷静に考えたならば、
この奇跡の地球の為には生身の人類を排除するのが一番。
自然破壊も何もかもそれこそが、人類以外の存在にとってはシンプルに救済と成るんだからさ。
愛と善意を抱いて神に祈るなら、
我が身や我が子を絞め殺せってこと。
それが人類にとって最後の最上の存在への禊であり、けじめであると考えたのだと思うんよ」
きっと、教授はこのような考えが出来るように、愛する孫に対しての教育に尽力したのでしょうが何故かすっきりしない。
なぜ、これほどに壮大ながらギリギリの希望を人任せにして、早々に自ら命を絶ってしまったのか。
いくら幼年期に祖父を慕っていたとしても、自我が目覚めて確立していく過程において余計な枝葉を伸ばすなどは自然なこと。その上、スキャンダルを起こして逃げた祖父の姿が、道を逸らせる要因となり、期待はくじかれることも大いに有るだろうに。
理解し難い事です。