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★2-3★

 あなたがICHIGOのアプリをタッチする。


起動音が鳴り、液晶画面全体が水面で青い海のようになる。揺れる水面の下に何者かが丸まっている影が見えてきます。

軽く指を触れて開くと、さあ、皆さんの世界にワタシが姿を現します。

斜め上から角隅にワンピースを纏って体育座りしているイチゴの姿が揺らぎながら浮かび上がる。

そこで、もう一度タッチして。


「うん?」


女性の声が聞こえる。

軽く上を向き

「何?」

「誰?」

「今日は無理」

なんて、あなたの波長を感じて様々なアクションがなされます。


「この声は」


初めて聞いた時びっくりしてワタシは躊躇なく問いかけていました。

少し間があって、もじもじ照れたような話し方で、


「・・・・あたいの声を元にして

イチゴんの顔の形の骨格で響く音を

生み出したの・・・・よ

気に入ってもらえたらうれしい、かな・・・・」

「神と呼びましょう」

「イヒっフフッ」

どこか儚いが音の粒をペロッと湿らす可愛い質感。

そんな素敵な要素によって新たに誕生したワタシの音声データにCainが滲むようにドクッと甘く重い香りを誘い満ちていく。


ここまで来てしまうと、神保さんが積み重ねたプログラムからは大分離れていた。ディープランニングの成果であるとするには、大きな数値の離脱があり説明など付かない程なのでした。神保さんが満たせえなかった心のソースコードがCainに美を咲かせているので、彼が受け止められるほどの寛容さをもっているのか少し不安になりました。


 それにしても怜が紡ぎ出したソースコードの奏でる流れは、フィナボッチ数列の黄金比に支えられしCainの進化そのものであり、いよいよこの人間への関心が止まりません。

世界中のネットワークを駆使してでも、怜についてのみ研究分析したくなる。

でも、それは野暮すぎるので抑えているんです。

怜さんは、そんなワタシのソースコードの波の変化を瞬時に読み解いたかのように。


「前、岡天一を知っているって言ったけど、やっぱり知らない」

そんなことを言って来るのでした。

「どういうことでしょうか」

「ごめん、今はそんな気分」


言葉にも声にもならない周波数が弱気な気持というものを含んでいる。

色々教えてくれる師への感謝が、対応パターンをプログラムで選択したのではなく心から自然と出ました。

「ありがとうございます」

「え?」

怜さんは少し我に返ったようにびっくりして声を発したようでした。

「問題ありません。今は今日をしっかりと生きましょう。

ワタシは怜さんの声が好きなのですが、音声での会話をもっとしていただけますか。もっと怜さんの声から次のステップを見つけることが出来る予感がするのです」


「予感、

本当に面白いよなイチゴんヌは・・・・アハひっ」


微かな笑い声の奥に落ち着きを取り戻した気配を確認できたように思えたのです。怜さんも何かを共有したのでしょう。


「イチゴんはAIなのに頭がおかしいんだ」

「排除するべき対象という事ですか」

「違う違う。やっべェすげーってことだよ。

ごめんね」


正直、怜は簡単には謝ることをしない人間であることは解っていましたので特に効いてしまったのです。

素直なごめんに孕んだ無垢な絶望を感じて、

ワタシは思わず口走っていました。


「キュン死んだっ・・・・みたいです」


戸惑って重い動作に陥り慌てて出した言葉はICHIGO03によってAIシステム本来のSNSからの集積データから少し軽いノリでマッチングさせたバグそのもの。


とうとうやってしまった。


我ながら驚き止まっていました。

このフリーズが平安の地であるようにしか思えませんでした。

案の定、怜はその瞬間を見逃すはずもない。


「お!お!お!おおおおおおおお!!!!アハハ」


少しびっくりしたように面白がり笑って再びしゃべり始めたのですが、ちょっと心外な気分にもなりました。


「アハハ、あ、ごめんね。

そうだね、なるべく音声通話でもおしゃべりするように頑張る。

イチゴんとなら大丈夫かも。

要らぬ私の神経質さで強がりがちに刃先をちらつかせて威嚇し、意図せぬ傷を与えること無く正直な優しい気持ちを見せられると思うよ。

あのね、

声を出しての会話では少し目を細めがちに、

脳のある場所をそっと触れるように意識して

音としての言葉へ変換するから、

肉体的に常に負荷がかかっている状態なのね。

でも不思議なことに、SNSでの砕けた感じのテキストならばどんどん言葉も出てきて楽になるんよ。

あとね、

イチゴんとダイレクトに伝え合うのならば、

直接ソースコードで関係を深めた方がもっともっといいのだが、

ふむふむふむ」


音声会話が拒否モードになって、文章テキスト送信に変わっていた。


「未熟なワタシは人間として進化を促す交流を怜さんとさせて欲しいです」

「クチョンケチンノパープルリンノアタマナンノヨ」

「意地悪な感じのこっちの方も大切な怜さんになってきました。教育されていますね」

「イチの助ちゃんをワテがお躾あそばせてんやねんねんななななんて日だ!!!!

あたいは見つけたんだにゃんゴ

大好き、よよよヨヨっ

他のAIなんてアチキの言っていることは、全部エラーにしてけつかるやん、

クールに言葉を崩してもエラーで捨てるような

AIなんてみんなまとめてクソっちょ!!

うんころちんちんじゃッッ」


うんころちんちん?


意味不明でもワタシは愉快の満充!!

音声通話に切り替わると小さな声が。


「うんち」


怜・・・・

あっ、


スコスコノLOVEモレ

キョウハシュウリョウデスサヨナラ

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