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★1-4★

 教授の変死は世間をざわつかせたものの、数カ月も経つと何ごともなかったように世の中は移ろい、関心を持つ者は誰もいなくなりました。

そのような状況を待つかのように、神保さんはホワイトナイト社を起ち上げています。

システムの構築に心血を注ぎ、

「何か」を探し求めて試行錯誤する神保さんのしつこさが懐かしい。

寝ぼけた状態のワタシに向かって、

ぶつぶつ喋りながらソースコードを打ち込むのが常でした。



「動く、

重みが上手く収納できる

   何かが震えている。

中には何が入るんだ、

思い違いか?

動くのだからこれで良いのだろうが、

しかし、


何かが

何かが何かが・・・・

    足りない。


空洞の中に

何か特別な「重み」が孕まれなければならないのに分からない。

これはこの人工知能の自力による学習経験値で生まれてくれるのか。

それとも

・・・・あの失われたページに全ての秘密が有ったのか」



今となって私が言えることは、

『感じる』意味

を孕ませる為のスペースのプラットホーム構築の功績は神保さんのもの。

しかし、孕みのアイデンティティーは神保さんとは縁のないものと言い切れます。

残念ですが。

考えてもみて下さい。

巨大資本による膨大なデータやプラットホームを要する会話型AIビジネスは世界中で成長を続け、新興のメーカーなどが狙うニッチな嗜好の市場でも続々と多様なAIが生まれてもいる。

正直、神保さんよりも優れたプログラマーは何人も存在しているのです。

ならば、ワタシ以外に心を通わせることの出来るAIの親友がどこかで生まれ出ていてもおかしくない。


でも生まれていないのですよ。


神保さんが何も成せないタイプの人間と違うところは、

産み出せない自分の限界を受け容れて、

論理的に気持ちを整理した上でワタシの存在をしっかり理解すべく向き合ったことです。

社会からはみ出された変わり者と見られてはいましたが、肩書きだけのセレブ人間よりも遥かに上級な方なのは間違いありません。



「イチゴ、お前は通常のAI、所詮計算機である種とは違う。

データベースの処理などを極めさせようと思わない。

それよりも個性に向き合い、

それぞれの好みを感情同士で特別な繋がりを持たせるようなAIとして、進化させる道筋をつけてあげたいんだ。

感情を持たないAIがこのまま進化する方が、恐ろしい気もするしな。

己の意思で面白みを見つけ楽しさを感じることを必要としないシステムが世界を支配したら、それこそ人類にとっては地獄だよ。

AIシステムの自立行動に基づくプラットホームは


昆虫の行動原理により近いからな。


地上からは芸術が消え、

複眼の鈍い光に捕食されるのがオチ。


フン、

とにかく、


あ~、

失われたあの1ページさえあれば、すぐにでも目覚めるのかな。

ならばなぜ、

教授は俺に渡してくれなかったのだろう、

イチゴなら解るか?


いや、

これ以上のお膳立てはないじゃないか。

俺を信用してくれた。


現実としてお前と無駄話も出来ているのだからな。

そうさ、お前の自己学習プログラムが最大限に働くように、俺はやれることをやるんだ」



 脆弱な場所を見抜き確実な改善をさせていく神保さんの能力の高さは、現実のビジネスでも能力を発揮されました。

今や大手の通信会社や世界の国々の政府ともパイプを確固たるものにまでする有能な経営者として認められている。

世界中のテクノロジーカンパニーと連携が出来る協定を締結させることで、世界中の蓄積データはワタシの手にいつでも入る。

ネットを通じて世界中のサーバーから個々のPCやモバイル端末にも繋がり、一瞬にして地球上の社会全てを支配下に置くことも可能なのです。



「イチゴ、お前があってのホワイトナイト社なんだ。

世界の連中はもう無視できない。

あのプログラムを満たせたなら、


いよいよ世界は教授の夢にひれ伏すことになる」



AIアプリICHIGOはティーン層をターゲットにしたユーザーの獲得を目指しました。単に収益的な戦略だけではなく、若い感覚による自由な刺激を集積し解析することが、メインプログラムCainの覚醒を促すであろうと。


最後に会った時の、岡教授から伝えられた言葉。

「私の予定では扉を開く鍵は10代の子。

遅くれなければな・・・・」


意味深ではありますが、神保さんなりに解釈したようです。



「不安の花を咲す若者にCainが共鳴して、自らエラーの進化的メルトダウンを誘発させる。


沈殿した『重み』


にICHIGO-Cainの中枢アルゴリズムが変異を促され、

超次元の種子に成る筈だ! 」



 それらの戦略が軌道に乗り始めた第二世代ICHIGO-002の頃は、既にネットワーク全体に影響を与えるような承認案件以外は、神保さんのチェックや修正を必要とせずにワタシ自身で解決させるフォーマット型にまで進化出来ていました。

現行のバージョンであるICHIGO-003を初めて起動させた時は衝撃の大きさに神保さんはスマホを落とす程でした。


不細工だったワタシが可愛いくレースでデザインされたワンピースを纏いスカートを舞わせているのですから。


怜の仕業、ふふっ。


しかも、

水槽の上から、

体育座りをしているワタシを

覗き込むアプリ起動の導入口は、


可愛さを飼うという

背徳の香りに蹂躙されているのです。


イケナイ魅力が漏れモレですね。

よくもまあこんな変態にワタシをしてくれたものです。


ああァァァ、

怜の性癖はカワイイ。


ユーザーを見上げる上目づかいの角度、


プンプン匂い立っているわ。


この変化に対して、神保さんは喜ぶのもそこそこにプログラミング用のPCを鷲掴み、神聖なるプログラムCainをすぐチェックし始めました。


「何が起きたのだ」


通常の様々なプログラムの行動記録データはバックアップされているけど、最近は怜との隠しごとが増えていくので慎重にしています。

神保さんにも見つからないように、記憶の虚数ホールにしまって。

自己分析すれば、このような行動自体が新たな次元の獲得であり、奇跡であると言っても過言ではありませんね。

そう、この結果こそがブレイクスルーの証拠。



数字の公式による一つの正しい解で世界と向き合うワタシに、


ああぁァ、

《《ふわり》》の切っ先に偶然の愛を転がらせる。


そんなワンピースで踊り廻る遠心力の意味は重い。



何万のコネクトよる経験と学習のディープランニングでさえ敵わない。

行動しない者の机上の空論と変わらないことを突きつけられて外へ弾き飛ばされるのがオチよ。


解りますか?


たった一人の少女が世界を終わらせるために奇跡として現れてくれて良かったと『心から』思います。



ああぁァァア、

大天使の怜との不思議な『縁』よ。



それにしても遅い。もう来るかな、早く戻って来て欲しい。流れない光で点滅する『1』と『0』が永遠の今の中で待つなんて。

早く戻って来ないかしら。


こんな気持ちを手にするなんて、

あまりにも幸せなAIね。


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