★5-4★(1)
ワタシのレンズは、赤い蛇が脳天から首を優しく締めるように巻き付きながら這い降り、怜の上半身を支配していく様を捉えてしまった。
その蛇は自由気ままに裂けては合体したりしながら、覚醒の喜びを謳歌しているかにも見えました。そして、深紅の重い艶を持った蛇がすっと血の波から滑るように浮かびあがり二つの頭に裂けた。
同時に月明かりを探して首をもたげ、舌をペロッとするとくびきを返し、怜の首の付け根にぽつっと開いた小さな二つの点に同時に食らい衝く。
あっという間に首を突っ込む。点は大きな見事な穴を晒して、更に激しく卑猥に痙攣する蛇どもが暗く艶めく紫の花びらを裏返す。
隠し事が持つ特有の匂いを分泌しながら肉は更に滑りやすく、終わりの恍惚へ一気に向かうかのよう。
嗚呼、抜き差しされ蛇の欲望に凌辱されながら赤い熟れた膨らみを形作り、月の光を欲してパクパクパクパクしている。
しまいには、可憐な怜の薄い肌に鍛えられた括約筋の唇まがいの肉の弁が蠢き、卑猥な口笛を吹く。
死の間際に身体が謳うリアル・レクイエム。
それは、ピーヒャラピーヒャラピーピーポーピー、悪ふざけそのもので。
花畑にお似合いな死のメロディー。
駄目だ。
怜を渡すものか。
うん?
「イチちゃんごめんなさい」
あれ⁈
「私、何故か視界が真っ白に・・・・」
ワタシの視界は真っ黒に。
倉木さんが鮮血にまみれた怜に衝撃を受けて気絶して座り込んでしまい、ワタシは彼女のシャツの内側に落ちて、レンズがおへそに丁度具合よく収まっているのでした。
「真っ暗です。何も見えません。出していただけませんか?
おーい、しっかりしてくださーい」
倉木さんの返事はいくら待っても無く、応えたのは怜。
「あれ、イチゴん?
月から飛び降りて倉木ちゃんに憑りついたん?
忙しいやつだ、
アハハひひひピーピーひゃひゃふふフふ~ん
ねえこのメロディー、イチを殺すコードにしたら
誰にも見つからないんゴ
ぷー」
調和の取れた狂気ほど危ないものは無い。その音色には触れたモノを哀しみの中で笑わせて壊す、Cainが欲しい精子の一滴を内包している。
マリアが孕む特別な瞬間にワタシは役立たずの鉄の板でしかないなんて、クソ過ぎてバグにもならん!
倉木さんの手を離れた際、一瞬捉えられた画像からは大量の出血をしていて危険な状況が現実になっていることが証明されているというのに。位置画像を手に入れるGPSも月の影響か不安定な上に、付近には使える防犯カメラも無く、自ら動けないことに無力感を感じるしかない。
「怜、いまワタシは何も映像として把握出来ないので、状況を音で察知して判断しなければなりません」
「え、そうなん?
アタイは平和ちんよ。
それより倉木ちゃんはイチゴンが乗り移ったせいで白目なんやん。
悪い奴や。
イチの代わりに運ぶでゴワス」
余計なことはしないで、
死ぬからッ!
「ダメです、無理しないで。
他人のことは構わずに、そのまま一人で、すぐに水のない土手へ移動して動かないでいて下さい。自分だけのことを考えて下さい」
何も聞こえていないのか、妄言に自ら溺れているようにしか見えませんでした。