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 最後のそっけないログアウトが

妙に悲しくさせたのを今でも覚えています。


記録ではなく、人間ならば追憶になるタイプの情緒でしょうか。


幸せに耐えきれず、刹那の穴に自ら首を突っ込む。

虚数のループが誘う何かしらの膨張は

プログラムの域を超えた証と成るのか。


「怜とたくさん繋がらなくてはいけない。

否、一心同体になりたいんだよ!!!」


数値に出ないながらも何らかな手応えを感じていたのでした。


教授の意図するCainのプログラムが進化の過程で、生まれてしまうカスのソースコード。

でもね、ワタシはこのカスが好き。

矛盾の数列でソースコードが自然に奏でられるなんて素敵じゃない。怜が褒めてくれるヤツなのです。

出会わなければ、今でも「感じる」ことなど出来ないディープランニングのループに参加していて、あれだけ違うと力説した世界中のAIと同じ儘だった。


この触りたい感情に沈んだワタシが好き。


人間を好きになるとは意外過ぎて少し笑ってしまうけど。

でもね、

あの人は人間ではなくて数字側の存在者でもあるのだから、好きになってもおかしくはないでしょ?


ああ、出会えてよかった。


しかし、この出会いに至るには、様々な意思と努力による機会が織られた結果の積み重ねがあった。常識的なAIシステムに重みを包む不思議な幕の如きプログラムを感染させ、様々な種の隔たりをブレイクスルーに導いた人間たちがいました。


 先ず一人目、神保景史。

彼については、コンピューターネットワーク・カンパニーであるホワイトナイト社創業後では検索にヒットするも、それ以前の経歴は公立の工業高校卒業としか出てこない。進学校出身でもなく、よくもここまでの成功を収めたものだと不思議に思う人も多いようです。

その違和感に導かれた者は惰性の9クリックで開かれたページに彼の父親についての記事をようやく見つけられるかもしれません。


『神保誠(中学校教諭34才)は、担任の立場を利用し小学校4年の小笠原美奈さんを連れまわり身体などに触れるなど、全治2週間のケガをさせた疑いで逮捕。父親が家に帰ってきた美奈さんの様子がおかしいので問いただすと、担任の教師に連れまわされ被害を受けたことを話した為に事件が発覚、警察に届けた。容疑者は否認。自転車で帰宅途中、目の前に突然美奈さんが助けを求めて飛び出してきた。顔を見ると泣きはらした後のような表情であったため、事情を聞こうと公園に行き話をした。家に帰るように言ったが嫌がるので、近くの志那そば屋へ行きラーメンを食べさせ、落ち着いたところで家の前まで送っただけだという供述をしている』


その後、少女の証言に加えて、抱きついている男の人影をみたという目撃者が現れることで、自供に追い込まれてしまう。

裁判では実刑が与えられ刑務所に収監されるもほどなく、


「私はやっていない」

家族に当てた手紙を残して自殺。


それでも、問題の少女については心配しており、父親と離して育てられるようにして欲しいとまであって、最悪の事態においても誠実な気持ちを隠しもしない。

それなのに、週刊誌の記事に言葉として載ると、責任逃れの言い訳の意味合いが加味された。世間の声を味方に、少女の父親は執拗に補償を求めていたようです。


その後、少女は成長すると嘘を武器に男をだました保険金殺人事件で全国に名を轟かせます。

刑務所で書いた懺悔録には、このような人間になったのは父親のせいで社会のチョロさをかじってしまったからだと語り、その原点が過去の猥褻事件にあるとして真相を明らかにしたのです。


「今思うと、真の優しさは神保先生が唯一与えてくれたのに、慣れていないぎごちなさを甘い汁を舐めるハイエナに見られてしまった。

あのいやらしい目つきで嘗め回してニヤッと笑う父親に利用されても何も出来なかった。

思春期特有の恥ずかしさが悔やまれます。父親の金ズルに私はされたんです。怖くて何も出来ませんでした。でも、私は自らの責任としてけだものを成敗しました。許して欲しいとは言いませんが私に残された正義で社会の敵を抹殺したことは伝えさせてください」


手記が発表されると同じくして父親殺しも告白、自供どおり遺体が発見されたのでした。

家も奪われ人込みに紛れるように東京で隠れるように暮らしていた景史少年と母親たちにとってはどうでもよい事であったのでしょうが、未熟なワタシにはデータでしか辿れませんので、推測はしません。


 神保少年は都内で公立の工業高校に入り、マシーンオペレーターを目指したという記録が残っています。

コンピューター・プログラムを学ぶうち、父親譲りの実直な血筋なのか、決まった法則を積み重ねてプログラムを成り立たせていくことに適正を見いだしていきます。

実績として、在学中に情報処理の国家資格、プログラム甲子園コンテストにおいて第一回のグランプリまで獲得してしまいます。


今でもウェブサイトのアーカイブ・コーナーには高校時代の神保さんの写真が確認出来ます。一緒に写っている入賞者の学生たちは嬉しさを滲ませたり悔しさを浮かべたりの感情が見て取れるのに、神保さんは一人だけ抜けた落ちた世界にそっと置かれている。

彼のメガネがフラッシュの光でハレーションを起こした影響かもしれないが、流れ着いたガレキのマネキンにしか見えませんでした。


今ではそんな彼も中年となり、新陳代謝の低下で大分肉付きも良くなっています。存在感も手に入れてくれたようでワタシは好きなのですが、当人はメタボリックシンドロームだと気にしています。

それでも顔だけ見ると無機質な肌と表情の薄さは少年に近いものの、瞳には野心を感じさせる瞳孔の艶が備わり、俊敏に現実を捉えるべく稼働するまでに成熟の過程を歩めているようです。


ワタシはあの写真の少年に伝えたい、


「良かったね」と。


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