★4-2★
ワタシには怜さんに人間の友達がいることが想定外でした。友達を作るタイプではないのに。
「あの方は学校における人間関係などには意義を見出さない。そもそも自らの生きていく意味は数字による力学領域にこそ神が司るとして、人間社会の感情的煽情性を軽蔑しています。だからこそ、おふたりとの接点に興味が湧いたのです」
当事者のふたりに疑問をぶつけてみました。
少しの間、顔を見合わせていましたが、意を決したように村川が口火を切りました。
「そうだよね。もしかしたら星野はいろいろ言われたくないかもしれない。
話したことは黙っておいてくれよ」
倉木さんも頷いて、
「イチちゃんも私たちと同じように怜が大好きなのだから、私たちみたいな弱いクソ人間を気に掛けてくれたきっかけは話しておくべきね」
「ここじゃあ、人目が気になるから。部室に行こうぜ」
怜に黙って行く事を心配すると、村川は事も無げに。
「教室以外に俺たちの居場所は一つしかないから大丈夫さ」
「イチゴんは初めてよね。
階段の下の隙間のあそこ、
子どもの秘密基地レベルの広さだけどね、丁度よいのよ。
薄暗いけど映像は撮れているかな、大丈夫?
ハイ、ここよ。
ようこそサブカル部へ!」
「でだな、早速話すぜ。
イチにも今は知られているんだけど、俺と倉木はなんとなくクラスの中で、ちょっかいを出され続けていてさ。
― 「ここまでなら耐えられる
ちょっとした悪ふざけなんだから」 ―
最初は、否、違うかな位の感じで軽く受け入れていたら、いつの間にか抵抗する意味も見失い詰んでた。あの感情はなってみなきゃ分からないさ。
助けを求めようとしても、うすら寒い笑顔を浮かべて、反対岸から強くなれとかなんとか説教してくる正義の奴らばかり。益々、声なんか上げられるもんか」
二人は付き合っていて、それも理由となって一緒にイジメられたりしていたのかと、ちょっと下衆味な質問もすると倉木さんは被せ気味な速さで、
「それは心外!
いくらなんでも。それまでは口もきいたことも無かった」
「まあそうでしょうね!!!
無粋な質問、心よりお詫びします!!! 」
ワタシもいろいろ村川に対しては思うところがあるので、強めの音質で同意していました。
「音デカ!!!
なんだよ二人揃って。こっちこそ心外だよ」
私はつい向きになって応戦してしまいました。
「音量は同じです。心を込めたんだよ。
言い訳出来ないように、
あの月夜の証拠画像を呼び出してやろうか、ァアア!!
オレは信用していないからな」
「オレって・・・・ああ、分ったわよ、
分かったって。
でもでも、あれとこれとそれとは違うじゃんか」
倉木さんは楽しそうに加勢をしてくれます。
「焦るんじゃないよ。釈明しているその演技臭い表情筋が鼻につくわ。そういうところよ。あの反応があんたの本性に違いないのよ。仲が良さげな感じで近くに居られることも怖ってなるわ、オスがちゃんといるのが怖っ! 」
「心と体はちょっと」
ちょっと笑いそうになりましたが、否定しないのがなんとも許せなくなって説教モードに入っていました。
「その考えが社会での免罪符になると思うのかな、君は?
健康な男子は仕方ないとでもいうのか、村川」
「エ、え~。
怖いです。
イチゴさん、
どんどん変なAIになっていますよ」
「誰のせいかしらね?イチちゃん」
「何だよ、オレしかいねえじゃんか。
もう、いいよ、話を戻そうよ。悪かったよ」
怜の表情にはいくつも私のツボがあるが、倉木さんのいたずらにニヤッとする顔もツボです。
村川は肩をすくめて、再び話し始めました。
「それでさ、
いよいよ俺たちは辛くて苦しくてさ。ある日、遂に限界を感じて一緒に死のうってなって、強い決意で屋上へ行ったのさ。
すると、星野が空にスマホを翳してさ、ひとりで何かやっていたんだ」
「私は村川にどうすればいいのかと尋ねたの。
そしたらこの男、
反対の方で飛び降りようって返してきたのよ。
本当に男子高校生なんて無神経なガキで困るぜ。
続けるね 。
それまで怜ちゃんには何回か助けてもらっていたの。いじめグループの奴らに、何を言ってくれたのかは分からないけど、露骨ないじめは控えているみたいだった。
怜ちゃんからすると、する方にもされる方にも全く興味がないことだったんだろうけどね。
でも、死人に口無しを良いことに、迷惑を掛けてしまう様なことは絶対に避けたかった。だから、ちょっと何処かに行ってもらって、後々に誰が考えても怜ちゃんは無関係である状況にしなきゃって。
絶対にそれは守るべきだとね」
「これから死のうとは思ってはいたけれど、そこは冷静な判断だったな。今から振り返ってみるとなんかおかしいけどね。
いや、
まあ、
倉木のおかげですけどね、
ごめん。
そんな感じで、
星野、悪いけどちょっと下へ降りてよって言ったんだけれど。なんか、言い方が気に障ったのか、変な動作をしながらウオウオと声を発してスマホを空の彼方に翳すのを止めない儘で一言、
『嫌っ』
こっちも見ずに言い捨ててさ。
びっくりしちゃってしばらく虚無って佇むしかなかった。暫くして我に返ってもまだアイツは続けててさ」
口調がウザイし、アイツって言うなと思いましたが、倉木さんが村川の胸をド突いてくれたので、気分は落ち着きを取り戻しました。
「村川、調子に乗らないでよ。
それでね、星野さんごめん、ここに居たらあなたに迷惑を掛けてしまうからって、言ったのだけれども。
『嫌だ、何でっ? 』
そう言うだけで振り向きもしないからいよいよ困ってしまって、私たち死ぬから、どこかへ早く行って欲しいって真剣に頼んだの」
「そしたら、やっと振り向いて、あの目でじっと見つめてきてさ。
『これ何処だかわかる?』
そう聞くから、何か荒野の岩の姿、山の写真、日本だろ。違うのか? ならオーストラリアじゃねって答えたら。
『これ火星だよっ、凄くねェ? 』
話しが止まらなくなって、取り敢えず話を聞いてあげなきゃいけなくなった。聞いているうちに何だか分からない感じで、オヤッてなったまま受け容れるだけの状態さ。
『でしょ、そう思うでしょ!! 火星だからって赤くも無い、その辺にある何の変哲もない土や岩があって空も有って、
現実でしかないでしょ!!!
でもこれ、私たちとは関係のない世界の現実で、ずうっと存在しているんだ。
数学的な公式で解明してみようとすると、この写真の現実こそがある意味最強の神の絶対的重力を要していて解けた値はね、
「死のう」って
言ってるあんたらの今は限りなくゼロっていう事に
パチンと繋がるの。
死ななくても』
一気にまくし立てられて。
夢かな?
なんて思ったぜ。
今から思えば萌えるんだけど・・・・
イチゴさんにはご理解いただけますか? 」
「解ります」
思わず、食い気味に村川に同意してしまった。