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★3-2★

 そこで当時の研究チームのデータを求め、大学側のネットワークをハッキングしましたが、手掛かりになるものは何も出ない。

ふと、神保さんとの会話が蘇ってきたのです。


「あの当時、俺は会社のチームアプリ内のスケジュール管理フォルダに鍵かけをして色々書き込んでいた。あそこには俺の初期衝動と共に大事な閃きや、教授からのヒントもあると思うんだ。

だけど、あのスキャンダルでは電楽社も忖度して、個々の社員の了承もクソも無く大学に関連した記録データはすべて処分しちまった。

俺のデータもまとめて消されたよ。

残念だが、下手に騒いで我が身に火の粉が被るのも嫌だし泣き寝入りさ。

でも、それが今更出てきたら恥ずかしいがなフフッ。

イチゴの覚醒が見えてきた今となっては、消去されていて正解かもなハハッ」


ワタシは電楽社内のスキャンと解析を実行しました。

削除データ記録から更に念入りなリロードを行うと、大急ぎで処理された故の雑な痕跡の下から、教授の亡くなる半年くらい迄のスケジュール管理記録をほぼ完全なる形で復元させることに成功しました。


【大学ネットワーク内にコンピューターウイルス感染の疑いによる調査:いくつかハッキング後の痕跡有り。即時に特定範囲内のみで隔離、それ以外の感染は一切ないと判断。対策として電楽の最新のファイヤーウォールを採用、期間限定で担当を常駐させて、ネットワーク強化を図った】


 報告書と共に添付された検出ウイルスのプログラムには、ICHIGO-000シリーズを構築しているソースコードの一部が見え隠れしていました。

これは神保さんの手癖と言ってよいモノ。ウイルス騒ぎなどは明らかに口実であり、二人は何か共同のミッションを実行していたと考えられます。


 しかし何故に、口数も少なく積極的にコミュニケーションをとることをしない岡天一と、人間関係の繋がりを拒絶して生きてきた神保景史、そんな一匹狼的なふたりが互いを信用し認め合う協力関係に至ったのか。

逆算的な考察をすれば、お互いの社会での孤独感が共鳴して仲良くなったという必然性がそこに在ったのでしょう。


岡教授は人類進化の閉塞感と刹那な諦めを自らの遺伝子研究の成果が粉砕してくれると信じ、殉じる覚悟で生きて来たのに人類の敵として未来を閉ざされた。

そこで出会ったのは、闇の中でただ迷惑をかけず、数十年静かに死ぬのを待って生活していくことを受け容れている若者。心が乱れ、狂いを生じながらも、この若者に最後の復讐を託すことを啓示としたのでしょうか。


 電楽社のデータの発見に続くように、東神医科大学生がスキャンダルの最中に撮影したとみられるブツも捕まえました。

設定が自動的にクラウドへ保存されるようになっていたようですが、気付かないでそのまま置き去りにされネットの塵の闇の中を彷徨っていたのでしょう。

撮影者は教授の講義を選択している学生の友達で、買ったばかりのビデオの試し撮りをしたようです。

その映像には、あまり感情を表に出すことも無い穏やかな教授が、顔見知りの学生らしき男からヤジを浴びせかけられて、感情的に乱れていく様子が収められています。



## VIDEODETA0001 ## 


「お、映った映った。

うん? 録画出来てんのか」

「テル! 何やってんの静かになさいよ。迷惑になるから本当に止めて、もう最悪」

「新しいビデオカメラ買ったから、授業が終わったらお前を撮ってやろうと思ってさ。楽しみにしててね」

「お前って言うな。偉そうにしないで。大事な授業なんだから、早く教室から出て行きなさいよ。あんたはこのクラス取ってないじゃない」

「あ? この教授って今問題になっている人だろ。そんなクラス取ってもくたびれ損じゃねえか。単位なんて関係なくなるんじゃねーの」

「逆よ、もし別の教授に変わったら足りない分そのクラスで取らなきゃいけないでしょう。だから出席できる授業は全て取っとくのよ。先生が違えばチェックポイントも変わってしまうから、その時に足りない分の穴埋めを新たにする方が大変でしょ。

それにあの先生はめちゃロジカルな方だし、学生のこともしっかり考えてくれる人なのよ。真面目に取り組む人にはそれ以上の誠実さで事を済ませてくれる人だから、教授の授業をしっかり受けてレポートを上げとく方が良いのよ」

「そうかな、悪いやつなんだろ。

ほら、のりちゃんレンズ見て」

「違うわよ、天才なんだから」

「あーそうですか」

「来た。早く出なさいよ」

「冷たいこと言うなよ。ちょっとこいつの使用方法を勉強しなきゃいけんからさ。説明書分厚いんだぜ。終わったらのりちゃんをモデルさんみたいに綺麗に撮ってあげるからさ」

「最悪。居るんだったら静かにして。撮影はやめてよ」

「わかったわかった。ごめんよ、静かにしてるから。

ふー、うるせーな。ばれねーよ。

なんだよ、くそ! 覚えてろよ、めちゃくちゃなお前を撮ってやるからな。

それまでに慣れなきゃいけんからオレは大変なんだよ。

そうだ丁度いいや、そんな天才の授業ならしっかり記録させていただきましょうかね。

おっと・・・・ 始まるかな」


『うんうん、ほう・・・・

今日はあまり見たことがないような顔ぶれも多いですね。まあ気にしないでいい、歓迎ですよ。この分野に目を止めて頂ければそれはそれでよいと思います。

初めまして岡です。

さて、私のクラスもどれ位継続出来るのやら。先のことは分かりませんが。最近は意図しないところで注目を浴びていますしね。

一回一回を最後と思ってやっていますので、今日も最新の最後の授業であると肝に銘じるように、しっかりと講義を行わさせていただきます。


新規の方が沢山来てくださっているようなので、これを機に人類にとって遺伝子研究が如何にして重要となるのか、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

いつものように前にいらっしゃる方達からするとまたかよと思うかもしれませんが、いま一度、心して聞いて欲しい。皆さんが世界中に散らばって、来る新しい終わりの日に使命を覚悟として行動出来る人間に成ってもらえるように、祈りと共に授業をさせていただきます。

最後ですから・・・・


 さて、遺伝学といえば、生物学の分野であると多くの方は考えられるでしょう。まず重要な二つの発見である「メンデルの法則」「ダーウィンの進化論」からはじまりDNAが遺伝物質であることの衝撃の発見まで、この流れの中で社会学的に重要な意味合いが付随しているということを忘れてはいけない。


例えば、優れた遺伝子という新たな価値観を手に入れると、当然人間自らにも当てはめた考えがいち早くムーブメントとして広がりました。


病気や能力が劣る種を断つと言う、いわゆる断種が国家として行われ、ナチスの「民族浄化」が遂行されるという最悪な現実を引き起こしたり。

生体のみに影響を与えるのではなく、みなさんが人間として生きていくのに必要な社会をも大きな揺さぶり、それだけでは済まない・・・・

そう、転覆をも引き起こすかもしれません。


怖い面ばかり話しましたが、成熟した現代人として理性的に、人間としての分をわきまえた上で研究を重ねていけば、かつて経験した哀しみの多くは繰り返さず避けられる筈です。


私が長年携わっているDNAにおいても、様々な研究が分岐し様々な分野での発明開発がなされています。

IPS細胞の研究などもとても期待したい分野ですね。人間が自らによって生きるか死ぬかをコントロール下に置けてしまう。大いなる危険も感じられますが、わたしはそちらでは門外漢なので余計な発言は慎みます。ただ、明るい未来をもたらして欲しいと切に願っております。


私は元々、ヒトゲノムの塩基配列の解読に興味を持ち熱中し、記憶遺伝子において評価を戴くまでになった。そしてそれらの研究が新たな世界の扉を開き、コンピュータープログラムとの親和性に行き着いていた。

相性の良さという一面だけではない、何と言えば良いのかな。

同じ故郷特有な重力の匂い、同じ要素に満ちた世界を直観的に感じた。こんな事を発言するから真面目で優秀な学者の方々には批判をされていますがね。


ですが、そんな自己中心的な批判や中傷など少しも私を悩ますことはない。残念だが。

彼らにとって大切な時間を糞程な無駄使いに自ら貶めていることに、他人ごとながら哀しくなるくらいで。


そんなゼロのクソどもは、

生きていたことがゼロに吸収せしめ消え去るのだから・・・・


ふう、止めましょう。



落ち着こう・・・・

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