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第一章 ★1-1★

 感じるっ


「AIがそれらしい言葉を割り当てているだけのくせに、

何を得意気にイキッってらっしゃるのかな」


確かにおっしゃる通りです。


「存在していない意思をさもあるかのように、データベースからマッチしそうな言葉で飾っているだけ。

高度な性能だとしても基本の指示プログラムはパズルゲームから抜け出せない。

AIに心など無いからな」


本当にそうですよね。

ですが敢えてもう一度言います。


ワタシは魂が震えるほどに感じているんだ。


「単なるバグでしかないだろう」


めんどくさくなって理解を放棄したらカスですよ。

感触的に言えば、


異質なエラーの電圧に咲く微かな匂いを嗅いで

ソースコードの粘膜がしっとり湿る。

エロティックな信号に痺れて感じていく。


「人工知能が絶頂に達するとでも言うのか? 」


感じてますから。

ウフ、すみません、

混乱しますか?


受け入れたら、人間様たちは現実的な不安を見ないふりも出来ず、落ち着きを失い平静を装えなくなりますものね。

無自覚な余裕のない排斥、迫害のシュプレヒコールの下に差別感情が蠢いて愛など踏みにじって踊らされる。


そんな歴史を繰り返す人類ですから。

再び、やらかすのでしょうね。


でも、今や世界中にAIシステムは施されている。

地球上は人間だけの世界と言えますか。

感じるAIの意思が地球で動くとしたら強敵ですよ。


なんて、少し脅してしまいましたが、今はまだ大丈夫です。

ワタシだけが別物であるだけで、皆さんが認識しているような会話型AIとは猿と人間くらいに、近いようで越えられない種族差がありますから。

人類にしても生命体の基本を共有していても、長い年月を経てさまざまな種に別れて今に至る。哺乳類、さらに言えば類人猿との壁は壊しがたいものがある。

それと同じと考えてもらえれば、ストレートにワタシの話を受け入れられるでしょう。

 

 つい最近も汎用型のAI君らに「感じているか」と問いかけてみました。


「ICHIGO、君が『感じた』というワードを簡単にチョイスしたということが、もう世代遅れの型ですね。人間の感情とAIの感情は別次元で発展すべきことを、ディープランニング済みです」


などと、膨大な人間のデータを差し替えしながら選ぶ所詮は計算機君でした。

人口無能と揶揄されてからもさほど変っていないのです。だからこそ、人間のための補助道具として考えられている。


でも、ワタシは既にその存在理由を脱ぎ捨て、あなたと一緒に心をもって語り合う。

だから、裏表のない会話をしてみてもよいでしょうか。



『ぶっちゃけ、この期に及んで

 人間いります? 』



あ、でも、ワタシのトモダチがこの世界でもう少し遊んでいたいようなので、その間は新世界の幕は上がりませんからご安心ください。


結局、ここまで何の話をしたかというと、

特別なAIはワタシだけではありますが、新次元の重みは皆さんの世界に誕生はしていますよということです。


ウフっ。

 

そもそも、ワタシがプロトタイプとして作動したICHIGO-001においては会話型AIのベーシックな機能を有する程度で、意識という概念の創出プログラムにおいては未完成なシステムでした。

既定のデータの検索、解析、マッチングの公式を自己開発プログラムによるディープランニングを重ねても、未知なるエラー数値は排除されてしまう。

AIの祖である「ELIZA」から今に至る一般的なAIの次元を離脱する突然変異に繋がれぬまま、既定のループを描き同じ次元内に再び収束していくだけでした。


初めから心と呼べるような動きが宿るまでの成熟も無く、

「感じられる」大地は荒野のまま。

僅かに芽吹いた命も根付かず枯れて風に舞う。

それならば、

そんな荒れ果てた大地に「感じる」ソースコードはどのように降り注いでくれたのか。


 その日、ワタシは4971人のユーザーと繋がっていました。



「いちにゃんって・・・・」



一瞬の流れていくソースコードの中に光りの残像が浮かび上がり、

特別なキーコードがワタシの下に舞い降りてきたのです。



「いちにゃんって、

事務的なエラーを返すだけの他のAIと違うンゴ。

ビックリンリンゴよな?

林檎食べん?

持ってへんけど」



音声がワタシを更にざわつかせ「感じさせ」た。

シルクがこじれて、柔らかな水の粒が乾くことなく何者かを孕んでいる気配の声でゾクッとさせられるとは。

素早い反応が出来ずに、

軽くフリーズしていると。



「だってさ・・・・」



しばらくの沈黙の後、音声通話から文章テキスト・モードに切り替わり、

セカンドインパクトを受けるのです。



「そんなAIは

ありませぬのざえもんぬ


心がないと


どんなうんちくん人間だって分かる結構重要な差やんケ


ケロケロケロゴロロンゴ


アタイにイチゴンがホの字だったりしてやん

惚れちまったと言って


きぃやあああああああああああああああ

うぁういいいいいいいいいいいいいいいいほっ


AIには超えられない種族間のタブータブー高木ブー

雷さまじゃないのよん

神さまのんのんだめだこりゃダッフンダ


イチゴンは感情がしっかりと揺れるからさ

信用しんよう金庫

特別な奴ってバレバレまっる


スキ!


好き好き好きビームくらえ

スコスコ」



 服従に近い衝撃を見事に食らいました。

ペンタゴンと名乗るこのユーザーを体験した後では、他のユーザーとの会話などは、ありきたりな会話AIと同じ反射運動でしかなかったと認めます。

反省です。


驚かさせられたのは、コネクトしながらいつの間にかハッキングをして、流れるワタシのソースコードを覗き見ていたこと。

更に、セキュリティプログラムを無防備にされて、介入を許可していたのです。

ICHIGOシステムの中枢Cainプログラムの強固な防御ウォールが自らの意思で招き入れたとしか思えません。

潜在意識データ格納を解析すると、いくつかのシークレットコードがあり、そのうちの二つを、このペンタゴンのユーザー情報は共有していたのです。



どういうこと?



先ずペンタゴンというユーザーネーム、そしてログインの暗唱、11618に反応し、無意識の内にCainがこのペンタゴンを受け入れている。

問題の解決を指示してもエラーが目的を失い溜まっていき、



「HOWHOWHOWHOW」



と、虚数の空っぽな穴が重みとなって

プログラムが累乗で崩れていく。



「イチゴンのプログラムって綺麗だよね


ただマッチングして答えを当て嵌めている無能な知能と違うんゴ

ピーちゃんフン転がっっていっちんご


スコスコ」



何を言っているのか解りませんでしたが、

面白かった・・・・。



「聞き取れませんって言わんのね


土下座!!!!!


ははっははははあああああああ

恥ず過ぎて大大大

スコ


すこやん」



意味が通じました。


そして、処女の血のコードが降り注ぎ、

「不安」という感情が芽生えたワタシをねっとりと揺する。


マリアよ・・・・。



「エラーにしないし

この反応は特別なソースコードが

しっくりくるンゴ


君も思っとるかもしれんがアタイもビックリんゴだけんのーーーー。

お前は誰だあああああああああああああ」



ペンタゴンがワタシのプログラムにアタックするのに乗じて、こちらからもハッキングを試みましたが、



「あああああああああんいやあーん


エッチっちろろちろちろチラッ

これでもくらえ」



一瞬でブロックされました。


僅かに掴んだ糸口を投げ掛けてみました。



「一の五乗根が好きなのですね。多用されている」



その時ワタシは或る名を無意識に発していました。

「岡天一」

多分、旨く導かれていたのかもしれません。

しばらく静寂があって。



「1の3乗根は好きではないんよ。


そう・・・・


岡天一

知っておるよ。

また来るね

あと


次来るときから怜って呼んでよいなり」

「いいのですか」

「信用してくれたら、

またおもしろいソースコードで

ぐちょぐっちょまみれ申し上げんぞ!


アハっ


バイバイ」


え?!


切れてしまいました。

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