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54 ラーゼン伯爵邸にて




 「お初にお目にかかりますわ、ラーゼン伯爵」


 「遠路はるばるお疲れ様です、王女殿下。そちらはお付きの者ですかな。ささ、こちらへどうぞ」


 

 クルトとカリーン先生にミルフィーの事を任せ、私は今シエルと共にラーゼン伯爵と対面している。

 いわゆる囮というやつだ。

 シエルは向こうのチームに行きたかったようだが、潜入するなら本職のカリーン先生とここに詳しいクルトの方が適任だという事でこちらに引き込んだ。

 王女一人だけで行くのは不自然だしね。



 「急な訪問でしたのにお会いしていただけるなんて嬉しい限りですわ。学院に入る前に市井について学ぼうと思いまして、そう、この子の出身だというのでこの領へと来ましたの」


 「そうだったのですか、是非ともこの領を満喫してくださいませ」



 私達はとりとめもない話をする。会話の中で、孤児院等施設へと赴きたいと言ったら快諾してくれた。よし。



 「あぁ、そうです、王女殿下は来年度から学院へ入学されるのでしたよね。私の息子も来年度入学なので、是非ともよろしくお願いします。ほら、こっちへ来い」



 おっ?王女がせっかく来たんだから自分の息子推しとこってか〜?

 しかし私と同じ学年なら仲良くしていて損はないか。



 「ご機嫌麗しゅう、王女殿下。私はラーゼン伯爵家長男、フィール・ラーゼンと申しま・・・」



 ラーゼン伯爵令息であるフィールは私を見るなり、自信満々といった表情を歪め青ざめる。



 「な、おま、お前らは!横にいるお前はっ!」


 「お会いするのは二度目ですね。まさか合格しているなんて思いもしませんでしたわ。しかし、お前呼ばわりは感心致しませんね」


 「ちっ、父上、王女殿下は構いませんがその横にいる奴、そいつこの領で乞食をしていた奴なんです!そんな奴をこの邸に入れるなど我慢なりません!」



 フィールは息を荒げながらシエルを指差し抗議する。

 筆記試験前にシエルを虐げていた連中の中に貴族のような風貌の男子がいたからもしやとは思ったけど。



 「乞食?私の付き人が乞食に見えるという事ですか」


 「とんでもありません王女殿下!ほら、フィール!謝るんだ」


 「・・・大変申し訳ありませんでした」



 大変不服そうにしぶしぶと言った感じでフィールは謝った。

 大変心がこもってないのがわかる謝罪である。

 

 結構時間も稼げただろうし、そろそろ切り上げても良い頃合いだろう。



 「お顔が青くなったり赤くなったり・・・お見受けしたところ、御令息の体調があまりよろしくない様ですし、そろそろお暇させていただきますね。学院ではよろしくお願いします。では、失礼致します」



 施設訪問の許可も得たし特に引き出せそうな情報も無かったし、青ざめているシエルを引き連れさっさと撤収する。


 予め設定していた集合場所へ到着すると、すでにカリーン先生とクルト、それからクルトに抱きかかえられたミルフィーと思われる少女が居た。



 「しかしどうするんだ?お嬢様はウチの領の医師も魔法師も目覚めさせることができなかったんだぜ?」


 「ふふん、私の光属性のレベルは10なの!これで目覚める事間違いなしだよ。光よ(リヒト)



 私は詠唱し光属性魔法を詠唱し回復させるのをイメージする。

 しかし何も起こらなかった!

 何度も試してみるが全く反応が無い。



 「そ、そんなあ・・・」



 上手くいくと思ったのに。私はガックリと項垂れる。



 「トルーデ様、大変申し訳にくいのですが、どうやら強制的に意識を失わされている、というより呪いか何かで強制的に意識を封じられている様に見受けられます」


 「ハァ!?呪い!?オラァ積年の怨みはらさでか!解呪ゥ!」



 反応が無い。どうやら失敗の様だ・・・



 「呪いの様なものと言ったじゃ無いですか!意識を手放した後人為的に何かされたとしか・・・鑑定してもノイズがかかった様になってて状態が見えないので手の施しようもないですね・・・むっ、曲者!」


 「ふぇっ、うわぁっ!」



 カリーン先生は勢いよく跳躍し何者かを取り押さえる。



 「ごめんなさ〜い!お家に帰る途中で何か話し声が聞こえてきたから覗いてみただけなの〜悪気はないの〜!」



 カリーン先生に取り押さえられた少女は間延びした声で答える。

 緑色の瞳に蜂蜜色の髪、見覚えのある顔・・・



 「シルフィーお嬢様・・・!?」


 「あ!クルトなの〜!お休みだからね、久しぶりに帰ってきたの〜。ん〜と、助けて欲しいの〜!」



 取り押さえられた少女は、意識を失ったままのミルフィーと全く同じ顔を持つ、シルフィーその人であった。

 クルト達の会話を聞いたカリーン先生は拘束を解く。

 シルフィーは気にするそぶりも見せずにクルトへと話しかける。



 「お客様と遊んでいたの〜?あら、寝ている子もいるのね・・・わぁ〜すご〜い!私とそっくりなの〜。びっくりなの〜」


 「この子の事、ご存知ないのですか?」


 「知らな〜い。でもなんだかこの子の側は落ち着く気がするの〜。そういえばあなた達誰なの〜?どうしてこんな所にクルトと一緒にいるの〜?あっ、私はラーゼン伯爵家の娘のシルフィーというの〜」



 知らないという事はもしかして教えられていなかったの!?クルトへと視線を向けると、首を振る。

 マジか。コレは本当の事を教えるべきなのだろうか。

 そう考えていると、私より先にカリーン先生が口を開く。



 「大変失礼致しました。私はカリーン・スメラギと申します。こちらはこの領の住民のシエル、そしてこちらは私がお仕えしているこの国の王女殿下であられるゲルトルーデ・ハイル・フェーブス王女殿下であられます」


 「この可愛い子が王女様!?あっ、ごめんなさい〜!私は大変失礼な事を〜」



 シルフィーは申し訳なさそうにしょんぼりとしながら、相変わらずの口調で答える。

 カリーン先生は続けて話す。



 「どうしてこの様な場所にいるのかと問われましたね。そうですねえ、あなたはこの子の事、知りたいですか?」


 「ちょっとカリーン先生!」


 「教えてくださるの〜?その私にそっくりな子のこと、私知りたいわ!」



 シルフィーは嬉しそうに答える。悪い子には見えない。

 しかしカリーン先生はどういうつもりなのだろうか。シルフィーへとクルトから教えてもらったミルフィーの境遇や今回の件について話す。


 シルフィーは最初はふんふんと集中して聞いていたが、話が進むに連れ表情を曇らせていき、聞き終えた時にはポロポロと涙を流し嗚咽を漏らしていた。

 この子感受性豊かだ!



 「ひっ、うっう、わたし、全然何も知らなくて〜っ!妹がいたなんてっ、私、いつも何か物足りない気がしてたの〜。きっと、ミルフィーの事だったの〜・・・」



 シルフィーの目からは絶えず涙が溢れている。



 「学院の試験だって私、受けてないのに合格してるなんて言われて、おかしいって思ってたの〜。私受けてないって言っても変な目で見られて、それでっ、何も言えなくて、お父様の言う通りにすれば大丈夫だって言われてそのままにして〜っ!・・・この今の私の立場はミルフィーのものなのね・・・」



 シルフィーはミルフィーに駆け寄りそっと抱きしめる。



 「私はもう充分愛情も何もかも貰ってきたの〜。期待はされてはいなかっただろうけど、でも今からでも遅くないの、私とミルフィーはそっくりだもん。この能力はきっとこの時の為にあったの〜私、難しい事考えるのはダメだけど、ミルフィーならきっと」



 シルフィーはさらに強くミルフィーを抱きしめると、強く光を放つ。

 光が収まるとそこには変わらずミルフィーを抱きしめるシルフィーの姿があった。



 「私、お父様しか見えてなかった。あなたは私の欲しいものを全て持っていると思って憎んでさえいた。馬鹿ね・・・私も、私の為にこんな事をしてしまうあなたも・・・」



 シルフィーは先程とは全く違う雰囲気を出しながらそう呟いた。

シルフィーは普通にいい子でした

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