51 ラーゼン伯爵領
「ここがラーゼン伯爵領・・・!結構活気があるんだね」
「な、なんかまだぐわんぐわんするですだ・・・」
「いやー楽しかったですね!馬車なんかとは大違いですよ。本当トルーデ様様です!」
通常馬車で丸一日かかる所をバイクで爆走し、1時間程度でラーゼン伯爵領へ到着した。
道中で巨大な岩を粉砕したり、ドラゴンっぽい奴を撥ね飛ばしたりした気がしないでもないけど、私の気のせいであると願いたい。
「そういえばシエルはいつもどこで寝泊りをして居たの?」
「寝泊まりなら孤児院の跡地でしていますだ」
「跡地って、この領の孤児院は既に無くなっているということ!?」
これは到着して早々ラーゼン伯爵の所へ聞きに行かなきゃいけないパターンかな。
「カチコミですか・・・腕がなりますねえ。いつでもご命令を!」
お前は物騒すぎる。ステイッ、ステイッ!
「ち、違いますだ!新しい孤児院がきちんと建てられて、街の外れの方にあるはずですだ!オラが寝泊まりしてるのは前の孤児院の方だべ」
「新しい孤児院があるのね。でもなんでシエルはそこに行かなかったの?そこに行った方がご飯も満足に食べれたのじゃないの?」
私がそう問うと、シエルは俯いてしまった。なんだか言いたいけどでも言えないといった感じでモジモジしているようでもある。
「無理に言わなくていいよ!言いたくない事情があるだろうし・・・」
「いや、違うんだべ!確かに誰にも言っちゃダメと言われたんだども、でもトルーデ様たちは信頼できるし、なによりここの人間じゃないから大丈夫なはずだべ・・・」
ここの人間じゃないから大丈夫・・・?どういう意味なのだろうか。
「オラ、小さい頃の記憶が無くて、気づいたらこの領にいたのですだ。その、この世界のこととか何も知らなくて何も分からないまま彷徨いていたら、気づかないうちにオラはここの領主のお嬢様のおうちの庭に入ってしまっていたんだべ。ミルフィー様という方なんだべが・・・」
「ミルフィー様?ラーゼン伯爵令嬢の名前はシルフィー様のはずですが」
カリーン先生の言った通り、ラーゼン伯爵には一人娘であるシルフィー伯爵令嬢がいる。
確か学院に入学するほどの優秀な令嬢で、去年入学して今は初等部の2年に在籍しているはずだ。
シルフィーとミルフィーが似ている事からして、偽名か何か使ったのだろうか。いやでも領主の娘って言ってるし隠す意味がよくわからないなあ。
「でも自分の事はミルフィーだって言ってたんだべ!ああっ、す、すみませんつい声を荒げてしまったですだ。でも嘘をついているようにも見えなかったんだべ!それに、勉強だってミルフィー様が教えてくれたんですだ!」
シエルからさらに詳しく話を聞いてみると、シエルはミルフィーと名乗る令嬢に一昨年出会い、この国の事や勉強を教えてもらったり、食事を分けてもらったりしていたそうだ。
なぜ孤児院の跡地で寝泊まりしていたかというと、その令嬢に孤児院に行くより跡地にいた方が良いと言われたかららしい。
詳しい事は教えてはくれなかったが、絶対ダメと言われたそうだ。
話は戻るが、出会ってしばらくしてから『あなた物覚えが凄く良いのね!どう、私と一緒に勉強してみる?』と誘われ、それから学院の試験があるまで一緒に勉強をしていたそうだ。
試験は合格していたと言って喜んで教えてくれたらしい。
しかしその数ヶ月後に悲しそうに泣きながら、もうおそらく会えないという事、この本やノートは貴女にあげるから学院へ行って欲しい事、貴女には才能があるという事を告げたらしい。
次の日にいつもの場所へ行ったが、ミルフィーはいつまでたっても来なかった上、部屋をこっそり覗いてみた所、部屋はもぬけの殻だったそうだ。
それから今年の試験まで、貰ったもので勉強をしながら彼女に再び会うことができるようにゴミや残飯を漁って生き延び、孤児院へ行くように言われても逃げていたというのだ。
「シルフィーではなくミルフィーだとシエルさんは言っていましたが、試験を受けた事やいなくなった時期からしてやはりミルフィー=シルフィーなのではないでしょうか。それに試験が終わって数ヶ月後に居なくなったのは学校に入学する為に学院の寮へ行ったからで、泣いていたのもシエルさんとの別れを惜しんででは?」
「で、でも、ミルフィー様は嘘をつくようなお方じゃないですだ。それに別れた後こっそり様子を見ていたらメイドさんにもミルフィー様と言われていたんだべ!それに、あの泣き方はその、別れを惜しむというよりも諦めたというか、悔しいというかそんな感じがしましただ」
カリーン先生が言っている事は現状では最も信憑性があるとは私も思う。
しかし最後にシエルが話した、ミルフィーの泣き方や、失礼だけどシエルが誰にもバレる事なく伯爵令嬢の部屋に行けるかというと、それはおそらく無理なのではないかと。
ここで私はある仮説を立て、シエルへと問う。
「ねえ、シエル。そのミルフィーという子と会っていた場所へ案内してもらえないかな」
「で、でもそこへ行ってもミルフィー様はもういらっしゃらないですだ!」
「そうですよ、ハッキリさせるなら直接ラーゼン伯爵の元へと行った方が良いですよ!王女殿下の肩書きを持つトルーデ様ならば無下に扱う事は出来ないはずですし」
「いいの。私たち二人は何も言わずに着いて行くから案内してくれない?」
「わかりましただ・・・」
そうしてシエルの案内でそのミルフィーという令嬢がいた場所へと私たちは向かうのだった。
こういう推理する感じとか考えらんないからどう持って行きたいのかバレバレかなあ・・・