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ポルトガル幻想

作者: ヌベール

セビリャに住んでいたころ、ほんの2、3日ポルトガルに出たことがある。

当時、ビザがないと、スペインには3ヶ月までしかいられない。それでとある日本の友人と、バスでポルトガルに行った。バスボートにスタンプを押してもらえれば用は済む。気楽な、安い旅だった。

随分揺られたと思う。いよいよポルトガルに入るまで、意外に長い旅になった。

そしてバスから降り、いよいよ通関という時、日本人はかなり信用されていたらしく、むこうはチラとパスポートを見るなり、はいどうぞ、と通してくれた。通してくれたはいいが、パスポートにスタンプさえ押さないので、わざわざスペイン語で、記念にスタンプをくださいと頼まなければならないのだった。

乗客全員の通関が終わると、再びバスは出発する。

ここからが良かった。ポルトガルの田舎町をバスは延々と走る。窓外には、さわやかな青い空と、白くて可愛らしい田舎の家々が続くく。うかつにもカメラを持って来なかった私は、友人のカメラ借りてその風景をフィルムに収める。運転手も心得たもので、特に美しい場所や、黒いシルクハットのような帽子をかぶった老人たちがカードに興じている小路などではわざわざバスを止めて乗客の写真撮影をのんびり待っていてくれるのだ。

私は見たこともない貴重な写真が何枚も撮れて、とても嬉しかった。


バスはポルトガルのベージャという田舎町に到着した。ここが終点である。

私と友人は、小さな民宿に泊まることにして、さっそく街を散策した。

甘かった。優しかった。とろけそうだった。

道を聞いても、食事をしても、コーヒーを飲んでも、この人々の優しさと親愛の感覚は一体何なのだと思わされた。本当に、落ち着く、親しみのあふれる街だった。写真もたくさん撮った。この写真は、思いがけず、私の一生の宝物になるだろう。

夜、ベッドの中で、現像代も、プリント代も、全部俺が出すから、というと、友人は、いいよ、俺もたくさん撮ったし、俺が出すから。気にしないで。と、いってくれた。

そして約2日間をそこで過ごし、セビリヤに帰って来たわけだが、セビリヤでの夏期講習の終わった私はバルセロナに戻らなければならない。

写真は現像したらバルセロナに送るから、住所おしえてくれ、という友人の言葉を信じて、私は1週間後、バルセロナへ発った。

この頃の私の本拠地はバルセロナで、私はバルセロナの語学学校の新学期に臨んだ。

しかし、気になるのはポルトガルの写真である。

しかし友人に何度手紙を書いても返事はなかった。私はセビリヤに、辻谷さんという親友がいたので、彼に尋ねると、その友人はマドリードに移ってしまい、住所も分からないということだった。

何てこった!

以来40年間、私はその友人に会えず、写真も手にしていない。

ポルトガルの遠い懐かしさは、私の記憶の中だけに残されている。

今はその友人の名前も忘れてしまったかが、

もしこれを読んでくれたら、今からでも遅くない、あの懐かしい写真を送ってくれ!

心底そう叫びたいのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この小説はおそらく、この作家が若いころに体験した事を書かれていると思う。この作家にしては珍しくユウモアのある作品。新しいジャンルで楽しく読めるエッセイ。 [気になる点] 特になし。 [一言…
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