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その頃、鬼の里では……!!

卒業制作の最終審査、無事合格できました!

これで一安心なので、展示までの最後の詰めも頑張りたいと思います。

さて、それではお話の方をどうぞ!!


 サグメがシキの下で苦手な勉強に励んでいる頃────。





 東京近郊の海に浮かぶ鬼ヶ島(おにがしま)では、各地の鬼の長老と鬼ヶ島の長老・サクヤがテレビ通話で会議を始めようとしていた。


 もちろん、人間の政府職員や各鬼の里に駐在する職員も、その一部がオブザーバーという形で(事実上の監視役として)参加している。


〈では、これより、長老会議を始めたいと思います〉


 年若い他里の長老が発したその一言で、テレビ通話の画面に表示された長老達は少々顔の表情を引き締めた。


〈では、まず一番大きい案件から。

 鬼ヶ島・大江(おおえ)の里のサクヤ殿、ご報告をお願いします〉


 開始早々話を振られたサクヤは、静かに頷き、口を開いた。



「うむ。

 では指名されたこともあるし、最初に我が大江の里の報告からさせていただこうか。

 人間社会にアイドル活動をさせるために送り出す案件についてだが、先日、我が鬼の里から一名を送り出した。

 16歳の女子・サグメがお付きの者とともに、東京の都内でアイドル活動を順次始めていく。

 他の里の皆の衆にも、是非ご支援やご助力をいただきたい」


 一番初めに報告を催促されるだろうという予想はしていた。


 何せ、鬼の悲願を背負った計画だ。


 皆の関心が一番集まっている案件だと断言できる。



〈質問よろしいだろうか?〉


「どうぞ、鬼ノ城島(きのじょうじま)吉備(きび)の里のレンゴク殿」


 サクヤの報告に対し、間髪を入れずに手を挙げて質問の許可を取る老年の鬼。


 彼は、岡山の沖合に浮かぶ鬼ノ城島にある吉備の里を統括する長老だ。

 荒くれ者が多い吉備の里をもう百年近く統括しており、かの温羅(うら)王の再来と言われている。

 筋骨隆々な見た目を裏切らない腕っぷしの強さと、見た目からは予想外な頭の切れ具合を持ち合わせているため、かの温羅王に例えられているのだろう。


〈して、どのような予定で進めておるのだ?〉


「珍しいな、あの吉備の里の鬼がこうした人間との融和を目指す案件に興味を示すとは……」


 サクヤが思わず口走ってしまったのも仕方ない。


 鬼ノ城島は、かの有名な桃太郎伝説のモデルになった土地であり、桃太郎の元になった吉備津彦命によって、当時の島の支配者であった温羅王を討伐された過去がある。

 それより、島では江戸幕府による人と鬼の居住区分離が行われるまで、吉備津彦命やその一行の子孫の一部がずっと目を光らせており、他の里の鬼より過酷な迫害にあってきた。


 その歴史によって、生き残ってきた鬼は強い者と極端に弱い者に二分化され、強い者が絶対という風土が出来上がった。



 加えて人間に対して否定的な感情が強く、この里を出奔した鬼の大半は、日本各地で人間を甚振り、苦しめる天災のように振る舞い、伝承上ではまごうことなき妖怪へと変貌した。



〈……我らの里にもいろいろ事情はあるのだ。

 そろそろ、次の世界を望まねば我らもやってられん。

 生活は苦しく、人間は鬼をいとも容易く縊り殺せる力を手に入れ始めた。

 腕が立つだけでは、どうにもならん世界になってきたと、ようやく気付いただけだ〉


 少し目を伏せながら、重々しい口調で宣うその顔は、年相応以上にしわがれており、今の長老の中では一番の年長者であるサクヤも少々驚いてしまった。



 数か月の間に一体何があったのだろうか。



 他の里の長老達も顔を画面越しに見合わせ、少しの間、沈黙がその場を支配したのであった。


「……そうか。

 まあ良い、予定であったな。

 最初の1か月ほどは、サグメの人間社会の常識や生活についての指導期間とする。

 その間、シキや人間社会へ駐在している鬼、各里にいる人間の職員の伝手を活用し、アイドルについての情報を集める。

 1か月後より、まずは路上等でライブを行い、経験を積みつつ、アイドルグループのオーディションや芸能プロダクションへ売り込みをかける」


〈ですが、東京の方で、鬼を受け入れてくれる芸能プロダクションがあるのでしょうか……〉


 予定をざっと説明したサクヤに、少し気弱な声で懸念を表明したのは、鳥取の沖合に浮かぶ鬼住島(おにずみじま)鬼林(きりん)の里の長老・ニニギである。


 今回も含めた最近の会議で司会進行をしているが、未だに少し他の長老に対して遠慮がちに話しかける癖が抜けていないらしい。


 彼は相当緊張しているらしく、ふわふわな薄い金色の髪の襟足を無意識で少し触っていじっている。

 まあたしかに、現在の長老の中では彼が一番年若い長老であり、昨年に鬼住島の先代長老が逝去したため、長老に任命されたばかり。


 鬼住島にある鬼林の里は、人間と友好的な地域にある里だが、この島の長老は人間社会と鬼を橋渡しするためにその地域から出ることがあるような仕事をしたことがある鬼が選ばれる。

 他の里や一般的な人間社会との感覚がずれないようにするために、里内で取り決められた措置である。

 だが、今回は条件に当てはまる適任者がニニギ以外におらず、若すぎると言えなくもない年齢での長老就任となったらしい。


「そう不安がるでない。

 今回の計画には、鬼を支援してくれているあの人間達の機構もいつも通り協力してくれる予定だ。

 その機構を通じて、サグメを受け入れてくれる芸能プロダクションを探す予定だ」


〈それなら何とかなりそうですね〉


 ニニギは少し安心したような顔をした。



 人間の作った機構であっても、それだけ、信用が置けるのだろう。



 そこで、サクヤはシキからお願いされていた人間社会へ出る任務の人手を補充するために、この場で救援要請をしなければならないことを思い出した。

 少し、困ったような表情を作り、口を開くことにする。


「そこは良いのだが、実はサグメのお付きとして送り出したのが我が大江の里では人間社会に出る仕事を主立って引き受けてくれてた若い青年でな……。

 人間と鬼の間をよく熟知しているため、送り出すのに適任だったのだが、その者に抜けられると、我が里では少々仕事が回らなくなりそうでな……どうにも最近の我が里では、角の大きい者が多く、そちらの任に就ける鬼の人手が足らん。

 そこで、他の里も人手不足を重々承知だが、そちらの面でも救援要請をお願いしたい」


〈……ふん、仕方あるまい。

 協力してやろう。

 たしかに、サクヤ殿の言うように大江の里が一番、目立ちやすい角の形状をしておるのは事実だ〉


 サクヤの要請に、間髪入れずに少し不機嫌気味な表情で鼻を鳴らしつつも、レンゴクは支援をすることに決めたようだった。


「感謝する、レンゴク殿」


 レンゴクの表明に意外感を露にしつつ、自らも口を開く長老が一人。


 長い灰色の髪を背に流し、質素な着物を着た老女は、この場ではサクヤに次ぐ年長者だ。

 名はヤガミといい、青森の近くに浮かぶ鬼沢島(おにざわじま)にある二つの里の長老を務めている。


〈なるほどなぁ。

 では、鬼沢島にある我らが赤倉の里と岩木の里も、支援を約束しようかの〉


「恩に着る、ヤガミ殿」



 鬼沢島にある鬼の里はかなり特殊である。


 なぜなら、赤倉(あかくら)の里と岩木(いわき)の里は、事実上、二つで一つの里として機能しているのだ。


 里のある島の付近の本土には、人間社会での鬼の活動を支援する機構が拠点を置いている。


 特に、赤倉の里にいる鬼の祖先は、人間の村を大昔から守ってきた歴史もあるため、比較的、鬼へ友好的な態度の人間が多く、江戸時代に決まった「鬼」の被差別身分化に反対した数少ない地域である。

 故に、島でも主な玄関口である赤倉の里には政府職員以外の人間もよく訪れているらしい。




 開放的な赤倉の里に対し、岩木の里は閉鎖的な里である。



 岩木の里は、赤倉の里を通して各地で保護された鬼を保護し、社会復帰を訓練する鬼の支援センターを担っている。



 実は、現代でも突然変異的な鬼の発生は極々稀に起こっている。



 基本的には、人目に付く前に角を切除してしまうことが多い。


 だが、角を切除すると成長後に深刻な吸血衝動に見舞われる症状が出てしまうことがある。

 そこで、周囲の人間によって食事に少量の血液を混ぜられて育てられる。


 少しずつ混ぜる血液を少なくしていき、十歳を迎える頃には完全に血液断ちができる。



 だが、時にはその容姿を嫌い、見捨てられる赤子もいる。



 そうした赤子は即座に鬼として被差別身分へ登録されてしまい、酷い場合には虐げられて生活していることも少なくない。

 そのような経緯をたどった鬼は、鬼の生活を支援する機構の職員や人間社会へ出ている鬼によって保護をされ次第、岩木の里へ連れてこられる。

 岩木の里で心や体の傷を癒しつつ、社会復帰のために訓練を積んだ後に、その時の状況に見合った鬼の里へと送り出されていく。



 その特殊な事情より、同じ島に赤倉の里と岩木の里があることを条件として、二つの里を一つの里として扱い、赤倉の里が窓口とすることに人間政府も理解を示している。




 各里が、満場一致でサグメ達への支援や助力を表明し、ひと段落したところで、司会進行のニニギが口を開く。



〈では、この件について今回はこの辺にして、次回の報告を待つことに致しましょう。

 次に、前回から引き続き、各里周辺の生活物資についてですが……〉



 次の案件へと議題が移ったのを確認したサクヤは、そっと息を吐き、ほんの少し気を緩める。

 束の間の気分転換であるが、すぐに会議へと意識を集中する。


******


 各長老は、それぞれの里の状況を報告していた。




 どの里も、決して芳しい状況ではない。




 今年は春先から猛暑の様相を見せ始めていて、ゲリラ豪雨も一昔前の夕立のように当たり前になりつつある。



 そんな中、電気もガスも水道もなく、未だに手で汲み上げる井戸と火打石やマッチで起こした火を頼りに生活するのにも限界が来つつある。

 年々、夏は暑さを増すばかりであり、自給自足していた食物も、最近では日本政府からの配給にかなり頼らなければならなくなっている。


 昔から人間が使用しているものと同じライフラインを鬼へも提供してもらえないか、と何度も政府に掛け合っているが、なかなか許可が下りないまま現在まで至っている。



 どうやら、人間の民意が鬼へそうしたライフラインを提供することに忌避感を示しているらしい。



 確かに、人間社会では角を一目目に入れるだけでも、すぐに恐怖や畏怖、その他悪意のある感情を向けられる。

 一時期は少し弱まっていたような気がしたものの、最近になって再びそうした視線が多くなっているように、人間社会へ出向いた際にはニニギも感じていた。


 ここから先はニニギの勝手な予測でしかないが、おそらくはメディアを悪用して、鬼に対する悪意や恐怖、偏見を植え付けている何者かがいるのかもしれない。



 鬼住島から会議に参加しているニニギは、自身の治める里を思い返してから、仕事先で見てきた人間の暮らしと比べて悲しくなった。



「えーっと……では、次に日本政府への要望書に記載するのは、長老宅以外への水道・ガス・電気といったライフラインの構築でよろしいでしょうか……」



 ニニギは困ったような声で、画面越しにいる他の長老達へ確認をする。



〈そうじゃな……。

 近頃の気候の変化は、いくら体の頑丈な鬼である我らでも、かなり厳しいものがある。

 加えて、なかなか作物も育ちにくく、島内の環境維持のために必要な作業も、急な天候の悪化が多くて行いにくい〉



 民意が鬼との和解を阻んでいるというのは、この場にいる長老達共通の見解だった。



 そもそも参政権の認められていない(もっと言うと、日本では鬼は未だに被差別身分であり、人権を認められていない)、鬼の声にも耳を傾けて生活をマシにしてくれる政策を掲げてくれる政党もない。

 参政権を持つ人間の大半から支持を得られないとなれば、そうした政策を行わないのも致し方ないことではある。



 多くの人間は、鬼が人間と起源すらも違う存在だと思い込んでいるのだ。



 鬼に人権はなく、参政権も認めない。そもそもこの国に住む国民ですらない、というのは、思い込みにとらわれた多くの人間にとっては当然のことであり、自分達が正しいと信じて疑わないのである。


 そういう風潮が蔓延するのを助長したのが、声が大きい一部の人間だった。



 所謂ノイジーマイノリティというやつだ。

 クレーマーじみた、言いがかりをつける人間程、やたらに声が大きいが、それ以外の周囲の人間は大抵の場合において、面倒な関わり合いを避けようとして声を上げずにサイレントマジョリティーと化す。

 うるさいだけなら良いのだが、そういう声に限ってメディアに取り上げられ、周囲が次第に感化されていくことが多い。

 極端に偏った声に対し、毅然とした対応で声を上げずにいると、極めて不利な風潮が蔓延する。



 どの時代も決して鬼だけをターゲットにしていたわけでもないが、彼らにとって自分らこそが正義であり、それ以外の考えは全て間違っているのである。



 声の大きい人間の不当な言いがかりに対し、毅然とした対応をせず、鬼と人は根本から異なる生命体だという認識が多くの人間へ流布するのを許してしまったのは、鬼側の不徳の致すところではある。



 故に、鬼の生活を改善するには、多くの人間の意識を変えねばならず、特に声が大きい部類の人間達も取り込まねばならない。



「……オブザーバーでいるつもりだったが、少々口を挟ませていただいてもよろしいだろうか?」


 少なくない時間、沈黙してしまった長老達を見かねたらしい、ニニギの斜め後ろに座っていた人間が口を開いた。


「安城さん……」


「私は、安城忠明と申します。

 鬼住島へ派遣されている政府職員です」


 スーツ姿の中年男性は、政府職員として今回の会議を見ていた。


「ライフラインの必要性は確かにわかります。

 私達職員も、政府高官へかなり掛け合っています。

 ですが、皆さんもご存知の通り、民意が変わらない事にはやはり動けない状況です。

 そこで提案なのですが、私達もサグメさんの活動をできる限り応援するので、まずはそちらを通して民意を動かしてからライフラインの設営を要望書として提出することをお勧めしたいと存じます」





 それは長老達にとっても願ってもない申し出だった。




 政府の職員達が応援してくれるということは、人間達でも特にうるさい層の抑え込みを期待できる。





 長老達は、そこから人間の職員達も含めての会議に移行し、サグメへの支援やその後のプランを詰め、近年では考えられないほどの有意義な会議を終えたのであった。


お読みくださりありがとうございます。


次話は明後日の18時に投稿予定です!

よろしくお願いします!

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