表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「鬼」+「アイドル」=おにどるっ!!  作者: 瓜姫須臾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/17

鬼の少女は、人間と鬼の関係について学ぶ!!

無事、最終発表が終わりました……。

結果がまだなので、とてもドキドキハラハラしてます。

と、雑談はここまでにして、本編の方をどうぞ!


 翌日。




 都内某所にあるアパートの一室で、初めての朝を迎えたサグメは、早速、布団の魔力に捕まっていた。




「……もう一時間近く起こしているのだが、まだ起きないのか?」


「んーー……あと5分……」




 先程から、何度このやり取りを繰り返しているのだろうか。




 いい加減、起きだしても良い頃合いだとシキは思うのだが、どうやら彼の想像以上に彼女にとって布団の魔力は抗いがたいもののようだ。



 それも仕方のないことなのかもしれないが。



 彼女は今まで、藁や複数の植物で編んだ茣蓙を敷いた床の上に、申し訳程度の藁を詰めて麻布で巻いた藁布団に、麻布を何層にも重ねて動物の毛皮で包んだ掛布団で寝ていた。

 それが鬼の里では当たり前の寝具であり、それがあるだけでもまだ少し進歩した方だと大絶賛されているほどだった。

 枕は敷布団と同じ素材で作っていたため、敷布団と同じく硬いものだった。


 昨晩は、人間の開発した羽毛布団と、低反発マットレスを敷いた上に柔らかい敷布団を乗せたよくあるベッドを初体験したため、大興奮でなかなか寝付けず、寝付いたら寝心地の良さで逆になかなか起きることができなかったようだ。



 彼女からしたら、体を空に浮かぶ雲に包み込まれるかのようなその感触は、天国にきたかのような優しい感覚であり、いつまでも味わっていたと思うものだったのである。



「……初めての羽毛布団を、天国のような寝心地に感じるのは致し方のないことだが、今日は人間社会の常識を教える初日だ。

 今日の日程が遅れればそれだけ、今後の活動にどんどん支障が出るし、里の皆にも不必要な負担を強いてしまうかもしれない。

 頼むから、そろそろ起きてくれ……」


「んぅ……わかった…………起き上がれないから起こして」



 困り果てて懇願するシキの声と今後の活動が遅れるほど、里の皆の負担が増えるという現実を突きつけられたことで、ようやくサグメも起きだす決心をしたらしい。


 しかし、体が布団にへばりついて自力で起こせないらしく、両手を上に伸ばして引っ張るように催促をし始めた。


「はぁ……ほら。起きてくれ」


「ん、ありがとー……」



 彼に引っ張り起こされて、ようやく目を開けたサグメは、寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がる。


 そして、誰に言われるでもなく食事用のテーブルに近づき、自分用の席へと座る。


「本当は当番制にするのだが、今日だけは特別に俺が朝食を用意しといた。

 今日の朝食は、スクランブルエッグと焼いたベーコン、葉物野菜を中心として鶏ささみを入れたシーザーサラダに、市販のマフィンをトースターで焼いたものだ」


「わぁっ……全部おいしそう!」



 シキの説明とともに鼻腔をくすぐった食事の匂いによって意識が急速に覚醒したサグメは、目の前に並べられた初めて見るメニューに、自分の心が躍るのを感じた。



「いただきます!!」


「どうぞ。

 よく噛んで食べろよ」


 シキの一言多い言葉に適当に返答を返したサグメの意識は、もう完全に目の前の食事にのみ注がれていた。



 自分のお皿に丁寧に盛り付けられた料理達。



 昨日のオムライスとは違うとろとろさのスクランブルエッグに、こんがりと焼き色のついたベーコン。


 鬼の里では季節ではないとなかなか食べられない葉物野菜をふんだんに使い、柔らかそうな鶏ささみを入れて、サグメが初めて目にする白いドレッシングをかけたサラダ。


 そして、程よく焼き目のついた、白くて厚みのある円形の食べ物、マフィン。



 シキの真面目で几帳面な性格が全面に出た、盛り付け方と栄養豊富なメニューだ。



 サグメは、少し悩んだ末にスクランブルエッグから手を付けることにした。



 昨日のオムライスの玉子を思い浮かべつつ、一口分をフォークで掬い取って口へ運ぶ。



「────……っ!?」



 次の瞬間、口の中に広がるまろやかな舌触りと、少しとろっとした食感。


 それでいて、少ししっかりとした感触の部分もあり、とてもバラエティーに富んだ食感の食べ物だな、とサグメは感じた。



 次に、ベーコンへと手を伸ばす。


「カリッと……でもしっとり……?」


「ああ、ベーコンか。

 里で使えた鉄鍋とはわけが違うからな。

 最新の使いやすいフライパンで洗うのも楽にできる焦げ付きにくい仕様のものだ」



 シキの説明を余所に、サグメは早速ベーコンの虜になっていた。



 ベーコンも、これまた彼女にとっては新鮮な感触だったのだ。


 焼き目のついている部分はカリッとしていて、でもそれ以外のベーコンのピンク色を残した部分はジューシーでしっとりとしている。

 ベーコン自体が持つ塩気と、焼くときに使ったらしいオリーブオイルの風味で、特に何もつけなくても美味しいし、先に食べたスクランブルエッグを合わせて食べても相性が良さそうなのは、初めて口にした彼女にも容易に想像ができた。



 その後口にしたマフィンもシーザーサラダも、大変気に入ったサグメは、大満足で人間社会の初朝食を終えたのだった。



******



 食器を片付けたサグメは(シキに初めて使うシステムキッチンの扱い方を教えてもらいながらであったので、ここでも少しどたばたしていたが)、予定より一時間遅れでシキとの勉強タイムへと突入した。




「じゃあ、まずは鬼と人の関係性から振り返るぞ」



 そういって、差し棒を手にトントンしたシキは、パソコンを繋いだテレビモニターを操作した。



「人間の多くは鬼を人間と全く違う生命体だと誤解しているが、サグメも承知の通り、人間も鬼も然したる差はない。

 角の生えた人間は、大抵の場合は他の生えていない人間から迫害されたり虐げられ、山奥へ捨てられた。

 そうでない場合も、周囲のコミュニティには入れてもらえず、自ら人目を避けるように山奥へ逃げ込んだ。

 普通の人間達は、自分達と違う角の生えた人間の姿を恐れ、明確に違う生き物だと定義することで自分達の結束を高め、虐げる者に仕立て上げることで自分達のコミュニティが上手く回るようにした」



 そこまで説明した彼は、少し奥歯をギリッと噛み締めた。



 現代の自分達までずっと変わらぬ扱いを何百年以上受け続けてきた、鬼や祖先の人間達を思うと、人間の行いの愚かさに反吐が出そうになる。


 怒りを抱いている点はサグメも彼も一緒だが、彼女は彼ほど人間を嫌ってはいない。


 結局鬼だって、人間を敵や恐ろしい存在として団結している点で、五十歩百歩であると感じるし、過去の遺恨にいつまでもこだわっていてもその先に未来はない、と考えている。

 お互いのより良い未来を描いていくためにも、今こそ過去のことは水に流してお互いに歩み寄り、手を取り合っていくことが大事だ。



 だからこそ、普段はあまり考えたりしないのだが、今回に限っては仕事における責任の重大さをよく考えているし、彼女はそれをよくわかっているつもりだ。



「虐げられる弱者がいることで、それ以外の者が自分の鬱憤を晴らして自らの強さを誇示し、仮想の敵がいることで団結するのはどの時代も人間が行ってきたことであり、人間が人間である以上は逃れられない性のようなものなのだろう。

 時と場所によっては、鬼ではなく人間同士でもそうした状況がよく生まれている。

 現代に至る今もなお、鬼がそうした虐げられ、敵対する者としての役目を押し付けられているが、今回の活動を通して、その役目故に鬼へ押し付けられたイメージを何とかするキッカケを作り出すのが一番大きな目的であり、お前と俺の仕事だ」


 そこで彼は、画面に映していたスライドを次のものへと変える。


「鬼の角は、山奥に逃げて生き延びた角持ちの祖先達から受け継がれて固定化されたもので、身体能力はずっと山奥や自然豊かな土地で限られた物資とともに生きてきた結果、発達し、進化してきたものだ。

 この身体性能と身体的特徴に、人間は本能的に敵わないと感じ、恐れを抱いてしまう。

 人間は俺ら鬼からすると想像を絶する弱さであり、今の人間用にしか考えられていない人間社会で生きていくには身体的な能力をほとんど抑えなければならない。

 走ること一つとっても、鬼ならば、女性であるお前でも時速四十キロは余裕で出せるかもしれないが、人間はそこまで出せるものはほぼいない。

 人間の反応速度もそこまでの速度に追いつけないし、怪我をさせかねない。

 だから、人間の町で走るなら本当に速足レベルにしなければならない。

 まずは、そういった力関係とかを感覚的に掴んでほしい」



 真剣な目でサグメを見るシキ。



 一方、サグメは人間がそこまで速く(といっても、もっと速い鬼の走る姿を見慣れている彼女にとっては、自分はそんなに速いとは感じていないのだが)走れないと知り、かなり驚いていた。



 人間との能力差を知り、確かに力加減の把握は必要だな、と彼女は手元のノートへメモをした。


 自分の気持ちがどうあれ、相手を怪我させては元も子もないのは彼女にもわかる。

 鬼にも過ごしやすく配慮された社会を形成していくにしても、今現在のような偏見や良くないイメージが先行して、実際の鬼のことをよく知ってもらえていないのではどうしようもない。



 そのためにも、まずは鬼に興味を持ってもらって知ってもらうことが大事なのだ。



「これを掴まない事には自由行動を許せないし、下手したら傷害事件を起こしかねない。

 もし事件でも起こしてしまうと、今よりもさらに鬼に対する視線は厳しくならざるを得ないだろうし、人間と鬼が手を取り合う、なんてお前の夢も本当の夢物語……絵空事になってしまう」


 厳しい言い方だが、それもシキなりに彼女のことを思ってのことであり、心を鬼にして教育すると決めたからだった。


「もちろん、里でも人間社会の法律は一応適応されていたが、そもそも里でできること自体限られていたからな。

 自然と法を犯せること自体がほぼなかったわけだ。

 だが、人間社会では里の比にならないほどできることも自由度も増す。

 その都度解説したりサポートをするつもりだが、一応、先に絶対にしてはいけないことを教える。

 忘れそうなら、さっきみたいにちゃんとメモを取るんだぞ」


「わかった」


「まず、里では成人扱いとなるし、冬場は暖房が乏しいから体を温めるために酒類を飲んでいたかもしれないが、ここ日本の人間社会の成人年齢は20歳だ。

 それまでは酒類もたばこや葉巻も禁止されている。

 幸い、無礼講となる元日の初詣とか祝いの席では咎められないし、お神酒や甘酒はおそらくひっかかることはない。

 暖房器具も人間社会の建物なら、基本的には鬼の里よりも充実しているし、あの暮らしに慣れているお前ならば十分に酒類に頼らずとも生活可能なレベルだ」



 鬼は基本的に酒類が大好きだ。



 それはサグメも例外ではない。



 人間なら未成年に当たる年齢でも、鬼は住んでいる環境的に特に冬場は凍死しかねないため、酒類を摂取して体温を上昇させてやり過ごすため、飲酒をしてもお咎めが来ることはない。


 しかしそれは、鬼ヶ島のような鬼の住む地に認められた例外的な措置である。


 もっと言えば、そもそも鬼自体が被差別身分から解放されてないため、成人についても鬼の基準がそのまま適用されているのが実情である。


 故に、鬼の里での成人は15歳であり、成人を迎えると同時に婚姻を結ばされることも珍しくない。


 特に鬼は人間以上に出生率が低く、少子高齢社会が進んでいる。

 鬼同士だと子どもができにくく、今回のサグメのアイドル活動では、その打開策を人間との共存で見出そうとしている面もある。


 サグメが人間と恋に落ちて婚姻してもいいように、彼女の婚姻は先延ばしにされてきたのだ。


 だからといって、長老達からすれば、彼女が鬼と婚姻したとしても構わないようだったが。

 まあ、そうした裏話をこの二人は知らない。


 少子高齢化が進んでいるのは体感しているが、何故彼女の婚姻が普通とは違う対応をされているのか、知る由もない。


「だから、基本的には20歳を迎えるまで控える方が良いだろう。

 昨今の人間社会では未成年飲酒とかも大きな問題となっているし、アイドルとして活動する場である芸能界自体、そういう事柄には敏感になっているし、特にアイドルともなれば『イメージ勝負』な面も大きい。

 ここは、マネージャーとして俺もしっかりと目を光らすからな」


「アイドル活動に支障が出たらまずいもんね……」


 神妙な表情でシキの言葉に返しながらメモに書き込んでいく。



 その後も鬼と人間の関係性を振り返りながら、人間社会の常識についてシキから教わっていく。


 わからないところは質問し、回答を聞きながらひたすらメモをしていく。



 そんな彼女の脳裏には、つい昨日まで過ごしていた鬼の里での暮らしが蘇っていた。



次話は、明後日の18時に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ