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鬼は人間に怖がられる!!

 無事に駅までたどり着いた二人は、早速、切符売り場で切符を買うことにした。



 小さい頃より、人間の上層部と鬼を結ぶ立ち位置となることが決められていたシキは、早くから人間社会に慣らされてきた。

 故に、こうした電車や切符と言ったものには慣れている。


 だが、一生を鬼の里で暮らすよう取り決められていたサグメにとっては、全てが新鮮で、初めて見るものが大半を占めていた。



 興味津々な様子のサグメはは、いろんなものをとにかく触って確かめてみようとするので、シキはいつ雷を落とそうかと考え始めていた。




 フェリーから降りてすぐに床へ触れた時には、無闇矢鱈に触るんじゃない、と叱ったのだが、やはり好奇心には勝てないらしい。


「この機械から切符ってやつを買うのね!」


「そうだ」


「すごいなぁ、この機械からあの小さな切符が出てくるんでしょう?

 それをかいさつ?って道具へ入れると電車に乗れるんだよね?」


「その通り。

 だが、今回は切符じゃなくてもっと便利な交通系ICカードを購入しようと思う」



 初めてにしては詳しい様子から察するに、人間社会入りが決まってから鬼の里に常駐している人間の職員に聞きまわったのかもしれない。



 彼らは聞かれると快く人間社会での生活を教えてくれたりする。

 特にサグメは小さい頃から職員たちから、そういった話を聞くのが大好きで、昔からよく話をせがんでいた。


 そうした経歴もあってか、職員からとても可愛がられており、よくこっそり人間社会のお菓子とかをもらったりしている。



 当初の予定では切符を買う手筈だったのだが、どうやらシキは別の考えに至ったようだ。



 初日に切符を紛失して面倒を被りたくない、と自分に言い聞かせるようにしているが、その実、楽しそうにいろいろ聞いてくるサグメから陰の努力が見えたような気がして、彼女に単なる切符よりも使い勝手の良い物を与えたくなってしまったらしい。



 実際、利便性的に考えれば、今後の活動にも必要になってくるだろうICカードを今買っておくのは理に適っていると言える。


 一方のサグメは、聞きなれないICカードという単語に対して頭に「はてなマーク」を浮かべていた。


「あいしーかーど?」


「お金を入れてチャージする形式で使うものだから、一枚買っておけば残高さえあれば繰り返し使える。

 一々紙の切符を買う必要もないし、ICカードを定期券というものにすることもできるため、アイドル活動を本格化したら使用頻度はかなり増えるだろう」


 シキの説明を聞き終わったサグメは、とりあえずすごく便利な物なんだな、というのは理解した。




 駅員のいる窓口を目指して駅舎の中を歩く二人だが、すぐにあまり好ましくない視線を受けていることに気が付いた。


 帽子を被っているシキは端から見ても普通の人間に見えているだろうが、つば広の帽子でさえも隠しきれていない角をしたサグメは、どう見ても鬼だとわかってしまう。


 ここにきて、予想通りの鬼への忌避感や偏見の視線に晒された二人だが、元から示し合わせていた通り、何事もないように平静を装って駅員のいる窓口へと足を向けた。



「すみません、ICカードを二枚買いたいのですが……」


「あ、は……いぃっ!?」


 声をかけたシキに、普通と同じように返答しようとしかけて、駅員はその後ろに隠れるように立っていたサグメを視界の端に捉えたようだ。


 駅員は、悲鳴のような声とともに、椅子をガシャンと倒して後ろへ後ずさった。


 情けないほど裏返った声が、鬼がこの場にいるはずがない、という安心しきった感情の何よりもの証左だろう。

 と同時に、鬼に対する人間が抱く恐怖の現れでもある。


 駅構内に入ってから窓口までの短い距離でも、かなりの数を向けられた忌避や畏怖の視線をまさに言葉にしたものであった。


「どうしましたか?」


 だが、そうした事実に気づいていても、あえて「何故、駅員が驚いているのかわからない」といった体で声をかけたシキ。


 その背中の後ろに立つサグメは、表情を陰らせていた。



(そんなに腰を抜かしそうなほど驚かなくても、何も悪いことはしないのにな……)



 少し、悲しく感じた彼女だが、鬼は怖いと思う人間の気持ちを分からなくもないので、特に言葉にしてまで悲嘆することもなかった。



******



 その後、何とか無事にICカードを購入できた二人は、切符売り場の券売機でICカードにお金をチャージし、改札を通った。


 切符を入れて通っている他の人間の様子にも興味津々な様子のサグメだったが、自分やシキの持つICカードは機械にかざしてタッチするだけで改札を通過できたので、窓口での扱いや周囲の視線の件を忘れたかのように、はしゃいでいた。


 ホームから電車に乗る時も、自動車とはまた違った形状なのにとても速く、快適な移動が体験できたためか、とても楽しそうに乗っている。



 その様子を見て、シキは胸をなでおろしていた。



 先程の窓口や駅構内だけでなく、電車の中でも受けた視線や扱いに、彼女が少なからずショックを受けているのは感じ取っていたからだ。


 少しの間に見せていた陰った様子も、今は見る影もなく、本当に楽しそうな彼女の様子にシキの方まで少し明るい気分になってくるようだった。


******


 視線の方は相変わらず、不快感のある視線を投げてくる人間が多かったが、触らぬ神に祟りなし、という思考が多いのか、それともそこまで自分以外の存在に興味がないのか。


 特に声を掛けられたりもせず、いざこざに巻き込まれることもなく、無事に拠点となるアパートの周辺へと辿り着いた。




 小綺麗な二階建てのアパートは、駅から徒歩5分くらいの住宅街に建っていた。


「ここが、これから人間社会で生活するときの俺とサグメの拠点だ。

 この建物の二階の一室を借りている」


「わぁ……鬼の里の建物とは全然違うね……。

 里だと、土とか木とか、植物とかを使った建物しかなかったけど、人間の建てた建物は、コンクリート……?とかいろんな素材を使ってて、見た目もとても綺麗だったり、かっこよくて……」


「そうだな。

 人間は、常に進歩しようと研究して積み重ねてきたからな」



 サグメはあまりにも感動しすぎたらしく、ぼーっと建物を眺めていた。



 だが、まだ部屋には入らないらしい。


 シキは、彼女の頭を少し小突くと、行くぞ、と声をかけた。



 サグメは、頭を小突くことないじゃん、と少し噛みつきつつ、フェリー乗り場で聞いた外食をしに行くのだと察して、スキップしそうになるのを必死に抑えていた。

 ここでスキップをしてしまうと、またシキから子ども扱いされそうだと考えたのだろう。




 平日の昼間の、しかも閑静な住宅街だったため、周辺には二人しかいない。



 そんな静けさをもろともせずに、わちゃわちゃしつつ、外食先へ向かうのだった。




お読みくださり、ありがとうございます。

次話の投稿は、23日の18:00頃を予定しています。

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