オーディションとその結果!!
遅れに遅れてしまい、大変申し訳ありません。
卒制展は無事に終了することができました。
見に来てくださった皆様には感謝です。
それでは、お話の方をどうぞ!
その日以来、瑠衣が仕事や学校のない時間帯にレッスンをし、それ以外の時間はサグメが個人練習や自主練、そして瑠衣から課せられた課題や練習メニューをこなす日々が1か月半程、続いた。
先日は、最後の仕上げとして瑠衣からメイクを教わり、サグメもいよいよオーディションが近づいてきたんだな、と実感した。
そうして、今日が来た。
L.I.A.のオーディションの当日が。
指定されたオーディション会場に着いたサグメは、受付の人に指示された控室へ向かった。
当然、スタッフ以外の参加者やその関係者達からは鬼であるため、負の感情が込められた視線を強く向けられたが、スタッフ達は一切そうした視線を向けてこなかったため、サグメは安心していた。
控室は、運営している事務所の配慮なのか、サグメは一人部屋であり、シキに渡された荷物を手に、比較的リラックスをして準備をし始めたのであった。
「えっと、このクリームの後には、こっちのパウダーを……」
慣れないメイクをしている最中には、つい独り言が漏れてしまうサグメだが、そのメイクの仕上がりはさすが瑠衣直伝と言えるほど上々なものである。
何事もなく、オーディションの順番が回ってきたため、控室を出たサグメは、オーディション会場へと向かう。
普段はあまり緊張しないタイプの彼女ではあるが、さすがに憧れているグループのオーディションともなると、かなり緊張していた。
控室で余分な力を抜くストレッチを行っていてなお、少し体が強張っているような感覚が抜けない。
首の後ろにギュッと力が入り、体全体が力んでしまう。
その状態に「まずい」と焦り、なおさら力みが増えていく……。
多くの人は、そうした緊張による負のスパイラルへ入ってしまうとなかなか脱却できなくなってしまう。
そしてそれは、サグメとて、例外ではない。
一歩一歩、進むたびに、早鐘を打つ心臓の動きが加速していく、その未知の感覚に、サグメは「これが本当の緊張っていうものなのか」と、ちょっとした発見をしてしまうくらい、緊張に呑まれ始めていた。
しかし、オーディション会場の一室の手前に来たサグメは、前の順番の参加者の歌声を耳にした途端、急に少し緊張が解けたような顔になった。
それは、瑠衣との特訓の日々を思い出し、「自分の歌は瑠衣が教えてくれたのだ」という自信が芽生えたからであるようだった。
そして、瑠衣の優しい顔を思い浮かべたサグメは、意を決してオーディション会場の扉を開く。
「天野サグメ、16歳。
アイドルになるために参上しました!
L.I.A.のライブを見て、多くのファンや人々の心を動かし、希望や夢を与えているその姿を見て、自分もその一員となって多くの人の心に光を灯したい、と強く感じました。
どうぞよろしくお願いいたします!!!」
扉を開け、一礼をしてから椅子の前まで来たサグメは、自己紹介を元気よく、はきはきとした声で行った。
「今回は、先日のライブで開幕を飾っていたL.I.A.の曲を歌いたいと思います」
その言葉に、まさかL.I.A.のオーディションにL.I.A.の曲を歌う猛者がいるとは思っていなかった審査員達は度肝を抜かれたような表情をしていた。
そんな審査員を尻目に、サグメは深呼吸をして精神を落ち着かせてから、口を開く。
瑠衣に教えてもらったことを頭に、しっかりと深く息を吸ってお腹に力を入れる。
吸い込んだ息を腹筋で支えて、お腹から声を出す。
同時に、頭に声として出す音程と、どういう雰囲気の声を出すのかを思い浮かべる。
散々練習した、曲のテンポも頭で思い出しながら、遅れすぎず走りすぎず、程良いテンポを自分の中で刻む。
伴奏がないアカペラでは、普通、声が震えたりして緊張しているのが強調されやすい。
まして、審査員の前で合否を決める場面となると、大抵の参加者では声が震えたり、思うように歌えなかったり。
酷いと頭が真っ白になってしまって、歌う歌詞や音程、テンポやリズムが頭の中から飛んでしまって、歌が歌えなくなってしまう者もいたりする。
だが、サグメはそうした緊張を一切悟らせない、堂々たる姿で歌い始めた。
その時点で、審査員はサグメの魅力に惹きつけられ始めていたのである。
瑠衣との特訓の初期とは違う、しっかりと響きのある声がサグメの喉から発せられ、口から奏でられ、審査員の耳朶を震わせた。
審査員はその彼女の姿に、自分達にここまで気後れせずに堂々と自己紹介とパフォーマンスをしたのは現グループのリーダーだけであり、その声に宿る強い意思と心に、リーダーと同じくらいに大成する予感を感じたらしい。
鬼ならではとも言える、巨大な金棒と強靭な肉体を使用しての殺陣に、整った容姿、メイクも上手で、歌もまだまだなところはあるにしても惹きつけられる何かがあるし、実力的には他の参加者の大半よりも数段は上。
満場一致で合否が決まったのは、言うまでもなかった。
******
合否はその日のうちに発表される。
事務所の社長兼グループのプロデューサーが、審査員の意見を聴きつつ、自分で見た印象で合否を決めるのだ。
最後の参加者が受験し終わった一時間後に結果発表が始まる。
受験を終えたサグメは、私服へと着替えた後に、シキが先に行って待っている結果発表を行う場所へと来ていた。
「緊張するなぁ……」
「できる限りのことはしたんだろう?
それなら、あとはなるようになるだろう。
だから、結果が付いてくると信じて待つことだ」
そわそわした様子を隠し切れないサグメに、シキが落ち着いた方が良い、と諫める。
「まあそうなんだけどねー……。
シキはいつも落ち着いていて、なんか慌ててるところを見ないよね……」
同意しつつ、それでも落ち着けないということを言外に示すサグメ。
彼女は、シキに目をやり、ふと思った。
どうして彼はこんなに落ち着いて見えるのだろう、と。
「……一応、俺にも慌てたり焦ることはある、とだけ言っておこう」
慌てていないように見えて、その実、彼も感情ある鬼なので、ちゃんと慌てたり焦ったりすることはある、と反論している。
シキがいつも冷静沈着で落ち着いて見えるのは、彼が涙ぐましい努力で精神をコントロールしているが故なのだ。
そんな、いつもと変わらないような他愛もない話にも乗っかり、サグメの緊張をほぐそうと奮闘した甲斐もあり、すっかり緊張が解けるころにはもう結果発表の時間が目前となっていた。
数分してから、発表会場にスタッフが到着し、発表の準備を始める。
運び込まれた大きなボードの布が取り払われ、結果が発表される。
その場に集まった参加者が自身の受験番号を探し、一喜一憂する中。
サグメも、自分の番号を探してボードの数字を目で追っていた。
数舜の後、サグメはあるところに目を留め、口を開いた。
「えーっと………………あっ。
あったあったっ!!」
「おめでとう!よかったな!
お疲れ様、サグメ」
珍しく大きな声を上げて、サグメと一緒に喜ぶシキ。
サグメは、自分が無事に受かっていて、心底安堵し、またこれで憧れのグループの一員になれること、瑠衣と同じステージに上がれること、そして、レッスンをしてくれた瑠衣に胸を張って報告ができることを嬉しく思った。
「鬼である自分でも、やればできる」という実感を胸に、これから先、このアイドルグループで頑張って夢を叶えていくことを心に誓ったのだった。
今後について、お知らせがございます。
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