少女とトップアイドルの真剣なレッスンっ!!
遅くなりましたが、本日分の投稿です!
よろしくお願いします!!
瑠衣が衝撃を受けた鬼達の生活についての簡単な説明も終わり、ハンバーガーを食べ終えた二人は、早速、瑠衣行きつけのカラオケ店へと来ていた。
もちろん、遊びに来たのではない。
カラオケは手ごろな料金で一部屋借りられる。
また、店によっては楽器のレッスンや練習に使用することが認められていたり、カラオケ機材を使用せずに練習に使うだけであるなら割引をしてくれるという制度がある店も少なくない。
(今回は歌の練習も兼ねているので、カラオケ機材を使用するため割引にはならないが。)
練習場所に困った時や、こっそり自主練をしたい時に、瑠衣はよくカラオケを利用しているのである。
カラオケの採点機能は、音程グラフも出るし、ビブラートやこぶしといったテクニックもかけられているかどうかを確認できる。
機械の判定なので微妙に判定されなかったり、逆に思いもよらない場所で判定が入ったりもするが、それでも全く何もなく人間の耳だけで練習するのでは見えない部分がわかったりするので、瑠衣はよくカラオケで自主練をしたりするのである。
慣れたように受付済ませる瑠衣は、先程サグメから聞いた鬼達の暮らしを思い浮かべていた。
後ろには、初めてカラオケ店に入ったらしく、店内をきょろきょろと見回しているサグメがいる。
受付が終わり、店の奥へ行くために彼女の方を振り返った瑠衣は、
(鬼達の過酷な生活を変えるためにも、しっかりサポートしよう)
そう、心の中で誓った。
それが、彼女を幼い頃に救ってくれた名も知らない鬼への恩返しに繋がると信じて────。
******
「さて、まずはサグメちゃんがどういう感じの歌い方をするのか知りたいから、一曲カラオケで歌ってみてほしいんだけど、いいかな?」
指定された部屋へ着いた二人。
瑠衣は早速、カラオケの機材をセットし、採点機能を起動した。
手慣れたもので、ちゃっかり自分のアカウントでログインまでしている。
「えっと……瑠衣さんの目の前で歌うのは恥ずかしいんですけど、L.I.A.の曲でもいいですか……?」
「おっと、まさかわたし達のグループの曲を歌ってくれるの?」
「えっと、はい……。
この間、お誘いしてもらったライブで、あたし、アイドルとは何かってちゃんと考えるようになって……」
目をぱちくりさせた瑠衣に、少し顔を赤くしながら、理由を述べ始めるサグメ。
瑠衣本人に理由を話すのも、これから彼女に歌を聴かれるのも、サグメにとってはちょっとした罰ゲームみたいに気恥ずかしさを伴う行為であるらしい。
光栄な気持ちと、恥ずかしさと、いろんな感情が混ざったため、頬が赤くゆだってしまったようだ。
「そのきっかけになったL.I.A.のライブって本当に、あたしにとってはすっごく衝撃を受けたものだったので……あの日以来、L.I.A.の皆さんは、あたしにとって憧れになってて、だから、あの日からはL.I.A.の歌を聴いて元気を出したりするようになったんです」
サグメの言葉を聞き終えた瑠衣は、微笑ましい様子を眺めるような顔になっていた。
そして、改めて「サグメがとても素直で純粋な良い子である」と確信し、その可愛さに、虜になっていくのを感じていた。
「なんか、自分達の歌で希望を届けたいって思って歌ってるけど、実際にサグメちゃんにとって大切なキッカケになってるっているのを聞くと、すっごく嬉しいし、なんだか少しこそばゆい感じもするなぁ。
すでにファンである人達とも全く違う反応だし……でも、わかった。
全然歓迎するよ、わたし達の歌を歌うの。
サグメちゃんが歌ったらどんな表情を持つ歌になるのか、是非聴きたいな」
L.I.A.の歌を歌うことを瑠衣から快諾してもらえたサグメの心では、恥ずかしさよりも嬉しさが勝っていた。
「っ!!
ありがとうございますっ!
少し恥ずかしいですが、頑張って歌いますねっ!」
張り切るサグメに少し和んだ瑠衣は、彼女へどの曲が良いのかを聞き、指示通りの曲をカラオケマシンへリクエストする。
サグメが選んだのは、あの日、彼女が初めて見たアイドルのライブで、生まれて初めて生で聴いた曲。
サグメが、アイドルについてそれまでよりも真剣に考えるようになったキッカケ。
そして、彼女がL.I.A.に憧れるようになった、印象的な曲。
これから、彼女がアイドルとして歩む、その運命を決定づけたもの。
彼女の本当のアイドル生活は、この曲との出逢いから始まったのかもしれない────。
真剣に歌うサグメに、瑠衣はやはり路上ライブで感じた原石のような光を感じていた。
技術的にはまだまだ拙いけれど、心の篭った歌声。
聴く者の心象に語り掛けてくる、そんな力のある、それでいて優しい響き。
彼女の声が持つ音の雰囲気は、きっと、多くの者に元気や勇気、そして癒やしを与える。
聴いている瑠衣には、そんな感覚があった。
一通り、聴き終わった瑠衣は、サグメの抱える問題点もかなり把握した。
「すっごく聴き入っちゃう歌声だね。
サグメちゃんの心がしっかりと歌に込められてる。
問題点としては、やっぱり基礎的な部分が追い付いていない感じかな。
あとは音程感覚と、テクニック。
表現力はあるから、さらに幅を広げるためにも、しっかりと基礎練をしよう。
その後は、テクニックを覚えて、持ち前の表現力と組み合わせられるようにする感じ。
オーディションまで1か月半だし、早速今日から基礎的な部分の特訓をしようか」
「なるほど……。
最初は声出しの練習からですか?」
「そうだね、じゃあ、この電子メトロノームに合わせてわたしが声を出していくから、同じように声を出してもらえるかな?」
瑠衣の分析と、今日の練習方針を聞いたサグメは、言われたことをまめにメモしている。
その様子を目の端に入れつつ、瑠衣は鞄から機械を取り出した。
瑠衣が口にしていた電子メトロノームである。
電子メトロノームは、中くらいのサイズのモバイルバッテリーほどの大きさで、とても薄い。
持ち運びが便利なだけでなく、従来の振り子式メトロノームと違い、8分音符や三連符、16分音符といった細かい拍子でもリズムを刻んでくれるため、振り子式メトロノームでは詰め切れない細かい部分までしっかりとリズムを練習できるのだ。
その点、機械であるため、振り子式よりも音が少々小さめだったり、電池が必要といった弱点もある。
どちらかに偏ることはなく、状況と場合に合わせて使い分ける音楽関係者が多い。
初めて目にした電子メトロノームを興味津々な目で見ていたサグメは、瑠衣からメトロノームに関する簡単なレクチャーを受け、シキに購入してきてもらうことに決めたようだ。
「まーままままままままー」
「まままままままままー」
ピコピコと鳴って拍を刻むメトロノームに合わせ、「ま」の発音で音階を上り下りするように声出しをしていく瑠衣とサグメ。
さすがはプロのアイドルである、とサグメに思わせた瑠衣の声。
瑠衣の声は響きが強く、音に深みがあり、部屋に置いてある物等が、一部の音に反応して共鳴したりしていたのだ。
一方、素人同然のサグメの声は、まだまだ響きが弱く、音の深みもない。
響きの浅い声では、周囲の物も共鳴せず、瑠衣の声との差が強調される結果となっていた。
響きが強い音は、遠くまでよく飛び、聞こえやすい。
そして、音程と響きが合っていれば、和音として遠くまでより飛んでいきやすいため、より良い音楽を奏でるには、音程感覚と響きを作るための基礎的な力や知識、感覚がとても大事になってくるのである。
当然、アイドルといえども、良い音楽を奏でられることに越したことはない。
人の心を動かすにしても、それと音楽の質と基礎的な実力は切り離せないものなのだ。
「サグメちゃん、もっとお腹の中から声を出すようなイメージで、お腹周りをぐるっと一周硬く力を入れてみて」
「はいっ。
まままままままままー」
瑠衣にアドバイスを貰いながら、サグメは試行錯誤をし、練習に励む。
数日前の厳しい罵声ときつい言葉だけのトレーナーとは違い、そこにはしっかりと的確に指示をし、された指示に従って練習をこなすという、サグメの望んでいた真剣な指導の景色が広がっていた。
真剣についてくるサグメに、瑠衣の指導も熱が入るが、適度に休ませることは怠らない。
喉には適度な負荷を与えつつ、無理をさせすぎないように配慮してこそ一人前のアイドルである。
まだ卵であるサグメ本人ではそうした管理が難しいため、瑠衣がコントロールしつつ、体感的に喉の体力とかを管理することを覚えていってほしい、と瑠衣は考えているようだ。
そうして、瑠衣とのレッスンの初日は歌の基礎練習がほぼ全てだった。
瑠衣にとってはもう当たり前と化している基礎練習であっても、ちゃんとした指導を受けたことのないサグメからしたら「初めて」のことばかりでとても新鮮な経験であり、逐一メモに書き残していたのであった。
卒業制作展がついに始まりました…!
初日を無事に終えられてホッとしています。
次話は卒制展の撤収作業次第で、17日か18日のどちらかの18時に投稿させていただきます。
よろしくお願いします!