表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

初めてのハンバーガーと鬼の生活の実情!!

明後日からの卒業制作展準備でドタバタしていました……。

遅くなりましたが、本日の更新分です!

どうぞご覧ください!!


 翌日────。


「希望の〜明日に〜……ふんふんふんふん」



 音符がつきそうな程、嬉しいオーラを滲ませたサグメは、昨日自作していた衣装に袖を通していた。


 全身鏡に自身の姿を映し、クルッと回ったりしている。


 その度に裾がふわっと広がり、フリルも可愛らしく揺れている。




 すごくご満悦なサグメを視界の隅に捉えながら、シキは本日の夕方に行う路上ライブの活動場所を選定していた。


「……人目が多い方がいいとはいえ、ここで路上ライブをやっても迷惑がられないかが重要だな……」


「ねえねえ、シキー。

 今日はどっちの飾りがいいと思うー?」



 いつのまにかシキの方へ向き直っていたサグメは、どうやら角に付けるアクセサリーについてシキから意見を貰いたかったらしい。


「ふむ……今日はまた柏駅周辺にすればいいか。

 とりあえず、以前みたいに許可を取れば文句はつけられまいよ」



 しかし、彼自身は場所の選定で頭がいっぱいいっぱいであり、サグメからの問いかけを聞き漏らしていたらしい。



 無視されたと感じたサグメは、思いっきり息を吸い込んで、


「むぅ……シキってばぁ!!!」


 思いっきり耳の鼓膜が破れそうな勢いで叫んだ。








 その後、シキはサグメに謝ってから、大声を出したことに対してサグメに雷を落とし、ようやく落ち着いたところで、サグメはようやく本来聞きたかったことを再び聞いてみた。


「……とりあえず、全体的に暖色系なんだから赤でいいんじゃないか」


「……むぅ」


 どこか投げやりな返答にサグメはシキへ噛みつきたくなったが、雷を落とされるのは疲れるので我慢したらしい。


「サグメ、時間だから行くぞ」


「あっ、ほんとだー。

今日は電車に乗ってみたいなぁ」



 都合よく話題を逸らされたサグメは、先程までのむくれたい気持ちを感じさせない間の抜けたような声で返事をする。



 良くも悪くもサッパリしている所は、間違いなく彼女の長所である。



 そんな性格に助けられたシキは、サグメの機嫌が直ってくれたことに、内心、胸をなでおろしているとは周囲に感じさせない顔つきと声音でサグメの支度を急がせていたのだった。



******



 午前中から夕方までは瑠衣から指導をしてもらえるとあって、サグメはどこかウキウキとしていた。


 シキの反応や信頼具合からするに、かなり良い人であるのは確実なようだし、おそらく鬼であるサグメやシキに対しても、人間社会へ出てきた初日のタクシーの運転手みたいに偏見の少ない人物であると思われるからだ。


 ここ最近、鬼に対する偏見や悪意にかなり当てられてしまっていた彼女は、鬼に対しても偏見なく接してくれる存在をとても貴重なものだと強く実感するようになっていた。


 加えて、瑠衣はあのサグメが強く衝撃を受けたアイドルグループ・L.I.A.のサブリーダーであり、サグメがこれからの活動に希望を見出せたのも彼女がオーディションのチラシをくれたからである。



 不安や八方塞がりな状況を打破するきっかけをくれた、まさにサグメにとって彼女は救い主……まごうことなき救世主だったのだ。

そんな瑠衣自身から指導してもらえることは、サグメにとってとても光栄なことであり、凄く嬉しいのであった。




シキに近くまで送り届けられたサグメは、一人で指定されたファーストフード店の目の前にいた。


まだ瑠衣が来ていなかったため、お店のメニューを見て時間を潰していたのである。



「わぁ……こんな食べ物見たことない……。

 ハンバーグとかマフィンに似てる気がする……というか、ハンバーグをふわふわそうなマフィンっぽいので挟んでるのかな?

 美味しそうだし、一回でいいから食べてみたいな……」


「ハンバーガー、食べたいの?」


「んひゃっ!!

 ってなんだ、瑠衣さんでしたか……」



 背後から突然かけられた声に、肩をビクッと震わせて驚いたサグメ。



 かなりオーバーなリアクションだったその反応が漫画みたいで面白かったのか、声の主である瑠衣は、とても面白そうに失笑していた。



「あはは、また初めましての時みたいにびっくりさせちゃったかな?」


 ごめんごめん、と手を合わせて謝った瑠衣は、サグメが真剣に見ていたメニュー表を一瞥し、すぐに向き直る。


「そろそろ丁度お昼時だし、ここでご飯食べていく?」


「えっ、良いんですか?

 でも、シキに怒られちゃいそうな気が……」


「いいよいいよー。

 んー、そこはわたしが何とかしておくから、気にせず食べていこ?」


 シキに怒られる様を想像しているのか、少し表情を曇らせたサグメを見て、瑠衣は「任せて」とばかりにウインクする。


「わたしも久々にハンバーガー食べたかったからね」



 あくまでこれは自分のわがままだ、と伝える事で、サグメに気を遣わせないようにしっかりと配慮もしている。





 瑠衣の厚意に甘えることにしたサグメは、素直に頷いて、瑠衣とともにハンバーガーショップへと足を踏み入れたのだった。



******



「それにしても、本当に災難だったね……。

 まさか、機構だっけ?が紹介してくれたボイトレ教室にそんな口の悪い講師がいたなんて」



 言葉を一旦区切った瑠衣は、熱々なハンバーガーにかぶりつく。



「はい……。

 それでも、投げ出さずにトレーニングをしてくれたので、根はそこまで悪くはない人だったんじゃないかな、とは……」



 サグメは数日前のボイストレーニング教室での一件を思い出し、少し陰った表情で、しかし「人間を信じたい」という強い意思を持った瞳で瑠衣に返答した。


 その顔つきに、瑠衣は感心した。




 サグメは人間に悪意を向けられようとも、恐れられようとも。



 彼女は人間が好きで、人間と寄り添いたいという、強い心を持っている。




 強い心や意志は、アイドル活動だけでなく「何かを為そう」とする時において、その人の強さになるし助けになる。

 それを、「人間と寄り添いたい」という方向で持つことのできる彼女は、鬼と人間が歩み寄るために生まれてきた存在なのかもしれない。


 少なくとも、彼女がし始めた活動において、これ以上適任者がいない、と瑠衣には思えた。



 意思の強さは上々。


 見目も良く、頑張り屋な性格。



 それらを揃え持つ彼女は、鬼であっても、きっと人間社会でも人気アイドルになれる。




 瑠衣は、彼女の指導に対するやる気がより湧いてくるのを、自分の中で感じた。


「サグメちゃんは純粋だなぁ。

 わたし、なおさら、燃えてきちゃった。

 一緒に頑張ろうね、サグメちゃん」


「……?

 はい、頑張りましょう、瑠衣さん!!」


 生まれて初めて食べたチーズバーガーを美味しそうにもぐもぐしながら、コテンと首を傾げていたサグメは、瑠衣の「頑張ろうね」という言葉に対して、元気に返事をしたのであった。


「そういえば、チーズバーガー美味しい?」


「はいっ!

 こういうふぁーすとふーど?は食べたことがなかったので、とても新鮮です!

 手で持って食べられるので、サッと食べられるし、何よりお手頃価格でとても美味しいですし……。

 チーズとハンバーグみたいなお肉の相性も、このソースと玉ねぎも良い刺激になっているし、本当に人間の食べ物って美味しいなぁって……」



 瑠衣に感想を尋ねられたサグメは、先程までの陰りが嘘のような輝いた表情で、興奮気味な早口で一息に感想を告げる。


 どうやら、相当チーズバーガーが気に入ったらしい。


「そっかそっか。

 それならよかった。

 鬼の里だとどういう食べ物が食べられているの?」


 サグメの表情と言葉に、このお店に入ってよかったな、と心の底から思った瑠衣。



 ふと、鬼の里での食事が気になった彼女は、その流れでサグメに質問してみることにしたらしい。


「えっと……基本的に鬼の里は自給自足で成り立ってて。

 でも、最近って天気とか気候がおかしいことも多いし、自然と共存したくてもなかなか厳しい面が多いので、人間達の政府からも少しずつ援助してもらっているんです」



 一旦、言葉を切るサグメ。



 目を閉じると、島での暮らしに思いを馳せるかのような様子で、再び口を開いた。



 その様子に、瑠衣はただ、黙って聞いているしかなかった。






 人間社会に普及している鬼のイメージとはかけ離れた、昔の貧しい農村のような暮らし。







 それは、余りにも、現代の環境的な変化に追いついていない。


 改善しようにも、人間の民意というものが、鬼達のことを知ろうともせずに人間が勝手に抱いてしまっている未知に対する恐怖が。


 これほどまでに鬼達に対して過酷で貧相な暮らしを強いてしまっているとは、瑠衣も全く知らなかったのである。


 鬼達に対する正しい知識と情報は機構の職員と一部の関係者、そして政府高官くらいにしか知れ渡っていないのだ。



 それも、鬼と人間を区別した当時の人間の上層部が情報統制を必要以上にした結果、現代まで鬼に対する差別やこうした理不尽な生活環境が蔓延り、残り続けてしまったのであろう。




 そうした状況に乗じて、鬼が未知の存在で、恐怖の対象で、そして人間にとって都合の良い悪役であることで得をする人間が、いつの時代も、鬼に詳しくない大衆を煽ってきた。





「栄養状態とかも島に駐在している人間のお医者様に定期的に診てもらって、それによって政府から毎月配布される食材とか衣類も変わります。

 島で自分達が栽培した野菜達と、飼育している家畜達のお肉、それから、島にある自然が恵んでくれた山菜とかキノコ、魚。

 そこに、不足しがちな栄養素を補うために政府より配布されている食材を、上手に組み合わせて料理しています。

 なので、煮物とか汁物、塩焼きが多い感じで、天ぷらとか揚げ物、洋食なんかはほぼ作られることがないです」




 瑠衣には、サグメの話を聞いていて、そのように感じられた。


明後日15日〜17日まで、卒業制作展にて、この作品の小説本とイラスト紹介の本、そして作中の主人公の部屋の再現展示をさせていただきます。

興味のある方は、是非デジタルハリウッド大学の卒業制作展へお越しください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ