少女はアイドルのライブを見て考え始める!!
遅くなりました……!
それではどうぞ!!
相変わらず、電車では足早に流れていく景色を見るのが楽しいのかご機嫌な様子だったサグメも、武道館という大きな建物を前にして、その雰囲気に呑まれていた。
今日公演をするアイドルグループは、新進気鋭のアイドルグループで、まだそこまで歴史が深いわけではない。
だが、プロデュースしているプロデューサーが鬼才と言われており、斬新なアイデアと確かな手腕によってアイドル界での超新星として注目を集めさせ、多くのファンを獲得するに至っている。
個々のメンバーは可愛い系、クール系、元気系の3タイプでチームに分かれており、ファンが好きなタイプのアイドルを推しやすい仕組みが作られている。
その中でも特に異彩を放つのは、リーダーであるクール系所属の吉備津クロエと、サブリーダーも務める元気系所属の間広瑠衣である。
クロエはハーフ故の整った容姿と、実力のある歌唱力に加え、少しSっ気のある対応が多く、虜になる男性ファンが多い。
一番人気であり、プロ意識も人一倍強い、まごう事なきトップアイドルである。
瑠衣は元気系を取りまとめるお世話をするしっかり者なイメージと、ファンに優しく、ファンが癒されるような対応が多く、クロエの次に歌唱力を持つ。
また、ダンスが得意で、実はヒップホップダンスをできるという特技もあり、複数の層のファンが付いている。
そうした圧倒的な人気の二人を先頭に、それぞれ魅力のあるメンバーが揃っていて、アイドル界を早速、牽引しつつある。
その武道館ライブとあって、やはり会場へ来ているファンの数も多く、熱気に満ち溢れている。
そういう場に来たことがあまりないサグメとしては、未知の世界との遭遇であり、かなり圧倒されるものに見えたようだった。
少しひと悶着が起こりそうにもなったが、チケットが本物であることと、出演するアイドルグループのプロデューサーが一声会場スタッフへ声掛けをしていてくれたことが幸いし、無事に入場を果たしたサグメとシキの二人は、指定された席に座ると、入り口で購入してきたパンフレットを見ながら開演を待つのであった。
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開演のブザーとともに、暗転したステージ。
大音量の音楽とともに、ついに公演が始まった。
最初から周囲のファンたちのボルテージも最高潮であり、ステージ上のアイドルが一人ずつスポットライトで照らし出される度に、あちこちで歓声が上がる。
歌が始まると、それぞれの曲やアイドルの掛け声に合わせてコールが行われ、ペンライトが降られる。
ペンライトによってできる光の海は、サグメにとってとても幻想的な景色に見えた。
一曲が終わると、ステージが明るくなり、アイドル達が皆よく見えるようになる。
ふんわりとした長い金髪のアイドルが一人でずいっと前に進み出て、マイクを手に放し始める。
〈今日はライブに来てくださって感謝いたしますわ!
私がグループを代表して、挨拶させていただきます。
私を始めとした、ラ・アイドル・アヴニール……L.I.A.のメンバー一同は、本日ここに集まってくださった皆様に満足していただけるよう、力を出し切ることをここに誓いますわ!
是非、心行くまで私達の歌声とダンスをお楽しみになって!〉
彼女の言葉が終わるのと同時。
割れんばかりの歓声が巻き起こった。
すぐに、観客へ笑顔とともに両手を振っていた彼女も持ち場へと戻り、次の曲が始まった。
その後も、数曲が間断なく連続で披露され、一旦、休憩に入った。
休憩中、パンフレットを見返しながら、
「……すごい。
こんなに多くの人の心を動かすのがアイドルなんだ……」
思わず思ったことを口に出したサグメ。
彼女は、使命のためにアイドルになる、と意気込んでいたが、その実、「アイドルとは何なのか」ということをあまりよくわかっていなかった。
それを、このライブ公演によってわからされた気がしたサグメは、自分はどうしたらこういう風に人の心を動かせるようになるのだろうと考え始めた。
────自分も、今目の前で歌っているアイドル達のようになりたい。
────使命もあるが、それ以上に、人の心を動かして、多くの人に夢とか希望を与えたい。
その後も、公演を楽しんだサグメは、衝撃とともに、アイドルとしての自分の明確な夢と目標を見つけたのであった。
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その後、帰宅する前にお手洗いに行くことにしたサグメは、シキに断りを入れてから女子トイレへと向かった。
だが、案内にあったトイレは帰宅時間であるためか、いつになく混雑しており、他にトイレがないかを探して移動した結果、建物の中で迷子になっていた。
周囲に人影のないエリアに来てしまったため、道を聞くこともできず、途方に暮れていたのである。
「どうしよ……。
シキ、絶対遅いって怒ってるよ……」
「どうかしたの?」
「ふぇっ……!?」
突然、背後からかけられた声に、サグメは体が勝手に跳ね上がるかと思うくらい、驚いた。
「あぁ、ごめんね。びっくりさせちゃったかな?
わたしは間広瑠衣。
なんか、困っているみたいだったし、ここって一般の人がいないはずの場所だから……」
振り返ったサグメの表情から、かなり驚かせてしまったことに気づいた声の主は、自己紹介とともに、声をかけた理由を話す。
名前を聞いたサグメは、瑠衣が公演をしていたアイドルグループのサブリーダーであることに気が付いた。
「あぁっ!!
サブリーダーの人だっ!」
「あはは……。
ところで、あなたって最近話題の鬼のアイドルかな?」
「そう、だけど……」
苦笑いをしつつ、サグメがアイドル活動をしているのかを確認してきた瑠衣は、安どの表情を浮かべ、手に持っていた紙をサグメに渡してくる。
「よかった、あなたにちょうど渡したいものがあったんだ。
これ、うちのオーディションのチラシ。
待ってるからね、あなたのこと」
意味深な言葉とともに、ニコッと笑った瑠衣は、すぐに表情を切り替えると、送っていくと、という言葉とともにサグメを出入り口まで送り届けてくれた。
言われるがままに、チラシを受け取ったサグメは、シキにそれを見せ、受けてみたいという意思を伝えるのであった。
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