人間側のいろいろな動き……!!
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「あの鬼の女の子、キラキラしてたな……」
昼間に見た少女のことを思い出してポツリと呟いたのは、都内の大きな通りを歩く女子高生。
彼女、間広瑠衣は、学校帰りに通った駅前のデッキで、たまたま鬼の少女が路上ライブをしているところを見かけたのだった。
数少ない路上ライブを合法的に行える場所として有名なその駅前デッキでは、よく路上ライブをしている人達を見かけはするが、鬼の少女が歌っているのは初めてだった。
「他の人達はなんか白い目で見てたけど……わたしは、あの歌からキラキラしたものを感じたし、とってもワクワクしたなぁ」
その歌声はまだまだ拙いし、緊張からくる硬さもあった。
「歌を歌い慣れている瑠衣からすれば、笑ってしまうものでもおかしくはない」と、端から見たら思われるレベルのライブだったが、彼女は真剣に頑張っているその少女のことを応援したいという気持ちになっていた。
なぜなら、彼女は昔、鬼に助けられたことがあるからだ。
小さい頃、彼女が迷子になった時、親元まで送り届けてくれたのは心優しい鬼だった。
親は鬼から瑠衣自身を引き剥がすように抱きしめ、お礼も言わずにその鬼の前から歩き出したのを、彼女はとてもよく覚えている。
鬼だって優しい鬼はいるし、人間には悪い人間もいる。
瑠衣は自分の経験から、鬼を一方的に悪だと決めつけ、また鬼に対して公然と差別することが許されている現状を何とかしたい、も考えていた。
具体的に自分にどうにかできるというビジョンが見えていなかったが、あの少女を見てから、思いついたことがある。
「オーディション、受けてくれるかな……。
とりあえず、あの子の動画を早速あげてたアカウントには、明日の公演のチケット送っといたけど……」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか目的地の事務所まで着いていた。
もうここに通うようになって早2年。
いい加減手馴れたもので、迷うことなくエレベーターで3階のボタンを押す。
エレベーターから降りて、目指すのは社長兼プロデューサーのいる部屋。
他は灰色の無機質なドアだが、このフロアでここだけは温かみのある木製のドアだった。
コンコン、と小気味よい音を響かせて二回ノックをする。
間が空くこともなく、すぐに返事がきて、入室を許可された。
「プロデューサー、今いいですか?」
「ああ、瑠衣か。
どうしたんだ?何か用だろうか?」
社長椅子に座って何やら書き物をしていた部屋の主が、顔を上げる。
「オーディションに是非とも参加してほしい子を帰りに見かけたので、プロデューサーのお耳に入れておきたいな、と」
「ふむ。瑠衣がそこまで推してくるのは珍しいな」
「鬼の女の子なんですけど、歌にとってもキラキラとした感情がこもってて、光る原石ってこういう存在なんだなって初めて感じました。
プロデューサーが磨き上げて、このグループで成長してくれればきっとアイドルとして光ると思うんですよ」
これが普通のプロデューサーなら、鬼と聞いただけで一笑に付し、まともに取り合わないだろう。
だが、このプロデューサーは違う。
稀代の天才にして、常識や前例を覆しまくってきた鬼才。
そして、瑠衣と同じく鬼への差別をどうにかしたいと感じている少数派の人間だった。
「ここ最近の文化的な進化は、少々停滞気味でマンネリ感がある」と、彼は仕事をしていて危機感のようなものを感じている。
そこに、数日前、人間社会での鬼の生活を支援する機構から、彼の元へ鬼の少女の受け入れ依頼が届いた。
親戚が政府職員として鬼の里へ出向している人物で、鬼も受け入れてくれそうな事務所を経営しているという条件に、ぴたりと当てはまったらしい。
彼としても、身体的にもポテンシャルの高い鬼がもし人間社会に交わってくれば、何か現状の停滞を一気に打破してくれるような革新的なものが築けるのではないかと思っているため、了承の返事を返すつもりだった。
「動画がSNS上に出回っている、あの鬼の少女か」
「あ、もうプロデューサーは知っていらしたんですね」
「機構から、私の元に鬼の少女を事務所へ受け入れてくれないかという話が来ていてな。
SNSでちょうどその少女らしい鬼の映像が話題になっていたから、チェックしていたまでさ。
私としても、鬼が入ってくると刺激になるんじゃないかと思ってOKしようと考えていたところだったのだよ」
さすがは耳が早い。
すでに動画もチェックしている可能性は瑠衣も考えていたが、まさか鬼と関連のある機構から要請が来ているとは思ってもいなかった。
それなら話が早いし、瑠衣としては思いついたことを実行しやすくなるため、とても助かる。
「さすがプロデューサーですね。
明日の公演に来れる様、電子チケットはそのアカウントのDMへ送っておいたのですが……」
「私からも機構を通じて至急の連絡を入れておこう。
一応オーディションは受けてもらわねばならないので、今の時点ではあくまで機構職員からのアドバイスという形を取らせてもらうがね」
すぐに瑠衣の意図を察したらしいプロデューサーは、彼女が懸念している点もカバーしてくれるらしい。
頼もしい表情を携えてどっしりと構えるプロデューサーは、この事務所に所属するアイドルや芸能人達の頼れるプロデューサーであるとともに、第二の父親のような存在である。
できる大人は、ひと味もふた味も違うのだ。
「それでいいと思います。
よろしくお願いします、プロデューサー」
「何、これも私の仕事さ。
現役アイドルが自信たっぷりに推してくる原石を前に逃げる様な私ではない。
鬼を受け入れる上での責任は私が全て背負う。
その上で、絶対にその少女を私の手で一人前のアイドルにすると誓おうではないか」
任せておきたまえ、というように胸を拳でトントンと叩くプロデューサーの姿に、きっと上手くいく、と自信を持つ瑠衣であった。
******
同じ頃、東京の某所にある別のビル。
そこには、少し薄暗い部屋の中で煌々と青白く光るディスプレイを見ている茶髪の青年がいた。
その視線の先にある画面上では、再生プレイヤーによってとある動画が映し出されている。
動画の中では、どこかの駅前デッキで紫がかった長い黒髪の女の子が歌って踊っているところを写していた。
「路上ライブもどきをする『鬼の少女』、ねぇ……」
ポツリと呟かれたその声には、どこか嘲りが混じっていた。
「早速、巷で噂になってる所を見ると、そこそこ目立ってるようだが……」
「どうしたの?……健?」
男は呼びかけられた声に、ディスプレイから目を離して後ろへ振り返る。
そこには、ウェーブの掛かった栗色の髪をかき上げているスーツの女がいた。
男には、目の前の女が30代にそろそろ差し掛かるか位の年齢に見えるが、実際の歳はもう少しいっていると本人から聞いたことがある。
「いや、ちょっと気になってね。
俺らの仕事に影響が出ないかどうか……ね」
「そう。
それならいいけど、そもそもこの業界に私達へ盾突けるような人なんて、いるわけないでしょう」
確信に満ちた声音で、男の心配をはね除ける女。
その毅然とした態度からは、いかにも「仕事ができる女」というオーラを醸し出されている。
「ふっ、そうだな。紫峰の言うとおりだ」
「ふふふ。
それよりも、そろそろ仕事は切り上げて食事へ行きましょう?」
女の提案に、男は表情を和らげて応じた。
ディスプレイの電源を落とした男は、女とともに部屋から出て行く。
人がいなくなって静寂が支配する部屋の中。
男が座っていた机には、「要注意:鬼の少女がアイドルまがいな活動を始めたらしい」というメモ書きが残されていた。
******
翌日。
東京の下町にあるアパートの一室では、サグメとシキが朝食を摂っていた。
「今日は急遽予定を変更して、最近、日本国内で有名になりつつあるアイドルグループのライブを観に行くぞ」
「……えっ、ライブ?チケットはあるの?」
「機構の職員からのアドバイスでな……どうやら、機構がお前の受け入れを要請している事務所がマネジメントしているアイドル達のグループらしい」
「ほむ……アイドル達のライブ……」
「しかも、昨日その関係者が路上ライブを見ていたようでな。
関係者を名乗るアカウントから、DMで電子チケットをもらってしまったんだ。
機構にも確認を取ったが、本物のチケットだった。
これからの活動の参考にもなるだろうし、使わない手はない」
「……わかった、急いで準備する!」
気分転換を兼ねているのはサグメにもわかったが、願っても無い機会だ。
それに、第一線で活躍するアイドル達の公演を観れば、何か掴めるかもしれない。
二つ返事でシキの言葉に従い、朝食を急いで済ませたサグメは、いつになく素早い動作で準備を終える。
初めて、生でアイドルの公演を見られるとあって、昨日の夜から沈みがちだった気分が一気に吹き飛び、元気が湧いてくる気がするサグメ。
そんな彼女の様子を見て、シキはようやくいつも通りの元気さが戻り始めたなと思いながら、彼女を率いて公演のある都内の武道館へと向かいはじめたのであった。
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