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十物語  作者: ジェムシリカ
1章
4/5

もちよこ 4話

翌週、普段通りに調理室に行くとそこにはニタニタした2人の先輩がいた。


「こ、こんにちは〜」

「おぉ、きたね。今日の主役」

「こんにちは。千代ちゃん」

「主役ってなんのことですか?」

「そんなの決まってるでしょ。ヴァレンタインのだよ!」


なんとなくこの2人が何を企んでいるのか、分かった気がする。

きっと卓司にチョコを渡しなよ、とか言ってくるのだろう。


「卓司には毎年、チョコを渡してますよ」

「えっ、そうなの?でも、どうせ義理とかいってるんでしょ?」

「そうですよ」

「好きなくせに」

「そ、そんなんじゃないですよ!」


ストレートに言われて慌てて否定する。

すると、2人の眼差しはますます疑いを宿していった。

卓司と私が話しているところを周りから見てどうなのかは知らないが、私自身としては卓司に対して恋愛感情はないと信じている。

1人の友達として接しているつもりだ。


「ホントはどう思ってるの?タクシのこと」

「どうって、ただの幼馴染ですよ。友達ですよ」


私はムキになって言い返した。

それでも部長は引き下がらない。


「どーだかね?近くに居過ぎてチヨ自身が気付いてないだけじゃない?私の知る限り、タクシ以外の男子と喋っているところを見たことがないんだけど。それって、彼が好きだからじゃないの?」


「そんな訳ないじゃないですか!!!」


思わず怒鳴ってしまった。

私がこんな大声を出すのは初めてのことで、私も先輩方も驚きのあまり黙ってしまった。


「明美ちゃんも千代ちゃんも落ち着いて、一旦ティータイムにでもしましょう」


沈黙をいの一番に切り裂いたのは夢乃先輩だった。

夢乃先輩は、さっそくお茶の準備に取り掛かった。

取り残された2人の間に気まずいムードが漂う。

そこへ救世主が淹れたての紅茶をさっと置いてくれた。


「まずは飲みましょう」


言われるがままに私達は黙って紅茶を口にした。

いつも飲んでいるものより草っぽい気がするが美味しい。

紅茶の味に感服しているうちにいつの間にやらお茶菓子が出ていた。


「これは?」

「それは市販のココナッツクッキーにチョコレートをかけてみたの。ヴァレンタインにはぴったりかなと思って...」


さりげなく夢乃先輩が話を戻しにきた。

この時の私はさっきと見間違えるくらい冷静だった。


「これなら、チョコレート嫌いの卓司にもあげられますね。今年はこれを作って渡すことにします」


最後に笑顔をのせて...。

私の反応が意外だったのか、2人はポカリと口を開けている。


「そん時に告っちゃいなよ」


明美先輩は性懲りも無く私と卓司をくっつけようとしている。

しかし私はカッとなるどころか、少し考えこんな事を言ってしまった。


「卓司に聞いてみます。私が好きかどうか」


耳から入ってくる自分の言葉の内容に慌てて口を手で押さえるがもう遅い。

2人の顔がにやけているのがなによりの証拠だ。

うわああああぁ!急に顔が火照ってきた。

何か言い訳を言おうにもまったく思いつかない。

なんだか今日は自分が自分で無いようだ。

卓司との恋愛関係を聞かれても、今までは笑顔で否定してきたのに...。

今日は怒鳴り散らしてしまった。

しかもその後に自分から関係を聞こうとするなんて...。

朝ごはんに変なものでも入っていたのか?

部長の押しに負けたのか?

それとも私自身、彼のことが好きなのか?...いや.....それは無い。

だって卓司だよ?

何を考えているかよく分からず、会話のキャッチボールもろくにできない。

でも、何気ない笑顔と共に添えられた言葉に何回か救ってももらうこともあった。

だとしても、所詮友達だろう。

互いに支え合ってこれからも仲良くやっていく。

そう思っていた。

ん?

互いに支え合って?

それって、友達の定義?

あれ?

なんだか分からなくなってきちゃった。

ピクリとも動かない千代のもとへ2人の先輩はそろそろと近づいていく。


「おーい、チヨ。だいじょうぶかー」


ふと顔を見上げるとそこには私を心配そうに見つめる2人の姿があった。


「ちょっと考えごとをしてただけです。大丈夫ですよ」


変に気遣われないように笑顔で返す。


「千代ちゃん、やっぱり恋してるんでしょう?」


夢乃先輩がいつもの私を優しく包み込むように聞いてくる。

私はちょこんとうなづいた。

えっとー、はい。

次回の投稿は23日(月)です。よろしく!

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