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十物語  作者: ジェムシリカ
1章
2/5

もちよこ 2話

ついに運命の日が来週に差し迫っている。

しかし、何を作るか、未だに決めかねている。

今日こそ決めなければ。

そのためにたくさんの餅を用意したんだから。

先輩方は各々自宅で考えるということなので、今日は卓司と2人きりだ。

部活で2人になることはなかったので変に緊張していたが卓司を見たら、そんなものは綺麗に消え去った。


『ああー、愛しのきなこよ、君の黄金の肌はとても美しい!』

『そんなことないよ、私よりいそべのシックな黒に身を包んだ姿の方が素敵よ』


なんか卓司の世界が全開である。

私の試作品で即興劇をしている。

1人2役ができる卓司は無駄に器用だ。

ただその能力はこの部活にとってまったくもって必要ではない。


「バカやってないで何か案を出してよ」


砂糖醤油を机に置きながら、お取り込み中の彼に話しかける。


『お、お前はこんがり焼けた肌色の砂糖醤油!』

『そこのかわぅいいお嬢さん、俺と一緒に来ない?』

『いやよ、こんな茶色いだけのあんたみたいなやつは!』

『んだと、テメー!こっちがわざわざ下手に出てあげてるっていうのにそんな仕打ちはないだろ?ああん』

『きゃあああ!』

『砂糖醤油、彼女に暴力を振るというのなら俺が相手しよう』

『ふん、ただの醤油に海苔巻いたやつが!俺の甘塩っぱさに悲鳴をあげるがいい』


だめだ。卓司は役に立たない。

こうなってしまった卓司を元に戻すのに労力を使うくらいなら、私は料理に使う。

もう卓司のことは見ないようにして、温めているぜんざいと雑煮に目を向ける。

といっても具材はあらかた入れたので、あとは餅を入れるタイミングくらいだ。

単に料理を作っているだけなのに変な汗が出てくる。

そろそろトースターに突っ込んだ餅達がプクーと膨らむ頃合いだろう。

取り出す前にきな粉をお皿に入れて、準備完了。

お椀につぶつぶのあんこ達を流し込んで餅を投入。

またお椀を取り出して、今度はサラサラの汁を流し込んで餅を投入。

最後に餅を潰した枝豆が敷き詰められた皿へダイブ。

これでおしるこ、お雑煮、ずんだ餅の完成。さっさと持っていこう。


『貴方達、喧嘩はダメよ!』

『お、お嬢』

『あなたは緑さん!』

『ミドリちゃん、どうしてここに!』

『友人が困っている顔をしていたのだもの。助けるのは当然でしょう。雑煮、お汁粉、やっておしまい』

『ええい、こうなったら力尽くでも』

『ふんっ』

『ほいっ』

『砂糖醤油をいとも簡単に動けなくさせてしまうとは...。何者なんだ?この2人は...』

『只の雑煮でさー』

『只の汁粉にすぎませぬ』


私は我慢できず、ついに


「いい加減にしなさい」



と怒鳴った。

そうでもしないといつまで経っても帰れなくなってしまう。

しかし、卓司には効果がないようだ。

即興劇は終わりを知らない。


『ここにおられる方を誰だと心得る。緑餅様であるぞ』

「それ、ずんだ餅って言うんだけど」


1人で6役も担っている卓司には私の声を聞く余裕もなくて、


『そして、今回の元凶の片割れ、磯辺だ!』

『私達と戦う闘志があるのなら、こちらも全力で参りますよ』

『4対1なんて、ひ、卑怯じゃねいかー!!』

「もう終わった?」

「まだ。これからエンドクレジット」


もう終わりじゃん。

内容が滅茶苦茶なのにどうでもいいところまでやらないと気が済まないところがよく分からない。

男というのは、みんなこんな感じなのだろうか?

親しい男子は卓司以外いなかった私にとってはその辺はなんとも言えない。

今じゃ、卓司が楽しければどうでもいいやと卓司の言動について甘い私になってしまってる。

どうやら卓司は満足したそうで、こちらに何かを訴えかけるような眼で見てきた。

こういう時はこちらの要件を素直に聞いてくれる時だ。


「来週の部活で作る餅料理はなにがいいと思う?」

「答えはもう出てるんじゃない?」


何をいまさら、とでも言いたげな口調で言われても...。

私にはさっぱり分からないのだから聞いているのに。

これ以上聞いても、答えは自分で見つけなきゃ意味がないとか言われるのが目に見えている。

卓司の言葉を鵜呑みすると、この6品の中に答えがあるということだろう。

きな粉餅と磯辺餅のどちらかを作ってしまえば、 それこそ仲違いを悪化させてしまう。

私的には砂糖醤油と雑煮はご飯物、ずんだ餅とお汁粉はスイーツ。

一瞬頭をよぎった案は、この2つのお椀物を混ぜるということだ。流石にそんなわけないか。

自分に言い聞かせ、まともな案を絞り出す。


数分考え込んだが思いつかない。

自分で名案を出せるなら、わざわざ卓司には聞かないって。

思わず1人ツッコミ。

時計の針が私を焦らせる。

脳天気な卓司は私の作ったものを美味しそうに食べている。

そんな卓司に苛立っても何も解決しない。


「この緑餅、初めて食べた。美味しいね。てっきり塩気が効いているのかと思ったら、甘いんだね」

「それ、緑餅じゃなくてずんだ餅って言うの。まさか、ずんだ餅を知らないなんてね。それより、そんなにお餅を食べて夕飯も食べられるの?」

「これが僕の夜ご飯」

「まぁ、半分甘いものだけどね」

「んー、僕は甘くてもお腹が満たされればご飯物だと思うけどね」


その通りだ。

菓子パンや干し芋とか朝食や昼食に出てくる。

それを私は何も考えずに食べてきた。

甘くてお腹が満たされるもの、そんなのはこれだけだ。

答えが分かった私は心地よかった。

卓司ヤベぇ…(゜o゜;

次回の投稿は16日(月)の0時です。よろしくです!

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